第136話 2人の旅立ち
レイナがトマスに変装してラコン王国に来たのは凡太が王国に転移して次の日だった。まるで予想していたかのように…というより、凡太がラコン王国に行くという事を既に知っていたのだ。
グレントン戦後のガンバール村にまで時を遡る。
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凡太がメアリーの騎士団への勧誘を断ったという話にレイナとアイは食事の場では納得したように振る舞っていたものの、今までのこの男の行動・思考からこれは嘘ではないかと疑っていた。なので、2人は凡太と別れた食事後、メアリーの下へ真相を究明しに行ったのだ。
「メアリー様、ボンタ様を騎士団に勧誘したという話は本当ですか?」
レイナが質問するが、凡太に他言しないように釘を刺されているので真相を話すことはできないはず(※77話)。
では、どうして知ることができたのか?
その答えを示すかのように、メアリーがレミにアイコンタクトをする。
「それは彼の嘘です。ただ、王国の学園入学を勧誘したのは事実です。彼はそれに同意し、後日こちらに来る事になっています」
レミが凡太との約束を破る。まるで破っていないかのような平然とした顔だ。
それもそのはず。確かにレミは約束を破っていないのだから。
そもそも凡太が釘を刺した際、メアリーは『私の口からは他言しない』とわざわざ“私の”という部分を強調してまで返答した。そして凡太はそれを黙認した。この時点で、レミは他言禁止約束から除外されていたというわけだ。
「やっぱり」 レイナとアイが口をそろえて言う。
「ふふ」 メアリーが少し笑う。
(こちらの方こそ“やっぱり”だ。彼をよく知るものなら彼の言葉に必ず疑問を抱くと思っていたよ)
レイナとアイが急いで今後のことについて話し合う。
「あいつを一人にしておけないわ。無能なくせに今は両腕がないのよ?絶対人様に迷惑がかかるに決まっているわ!」
「その通りです。そうならないように誰かがしっかり面倒をみてあげないといけません。全くもって面倒な人です」
「でも、仕方ないわ。あいつは面倒の化身のようなものだから周りにいるすべての人は巻き込まれる運命なのよ」
「はぁ…」とお互いにため息をつくレイナとアイだったが、心なしか顔は少し嬉しそうだった。
「では、決まりですね?」
「ええ、それしかないでしょう」
互いに頷き、何やら結論を出したようだ。レイナがその結論をメアリーに話す。
「メアリー様。急なお願いで申し訳ないのですが、私とアイもそちらに移住させていただいてもよろしいでしょうか?」
「君たち二人なら大歓迎だよ」
「やった!」喜びハイタッチする2人。
少し間を置き、レイナがモジモジともう一つお願いする。
「以前魔法研究所で働いていたのですが、再び働かせていただくことは可能でしょうか?」
「ああ、構わないよ」
「ありがとうございます!」頭を下げるレイナ。
「いや、礼を言うのはこちらの方だよ。君の発明した製品は今でも研究所の主力製品だからね。そんな優秀な人材が戻って来てくれるんだからありがたい事だよ」
「恐れ入ります」
「ええと…。私も働きたいのですが、何かありますか?」
「アイちゃんの実力なら騎士団で即戦力だから私の権限で入隊させることができるんだけど、男性と違い女性の場合はコネで入隊したことが強調されて周りからの反感を大きく買うかもしれない。だから、一先ず保留かな。一応働き口を探しておくから、決まるまではこちらが用意した停泊場所で過ごしてほしい」
「分かりました。ご配慮ありがとうございます」
移住後の生活の話を決めた2人。メアリー達と別れた後、今後の方針について話し合う。
「いきなりあいつと会っても心配して追って来たみたいでなんか癪だわ」
「そうですね。あと、何で彼が1人で学園に行こうと思ったのかの理由が気になります。私達を嫌っていた上での行動ということも考えられるので、直接会うのはまずそうですね」
「そっか…そうだよね…」
特に怒らない性格だったからか、つっかかりやすい雰囲気を持っていたからかは分からないが、2人とも凡太に対して自分の好きなように接していた。接する内容は注意や罵倒が7割だった為、普通の人間なら嫌気がさして当然である。2人はそれを思い出し心の中で反省する。同時に一番嫌われたくない相手に嫌われているかもしれないということで心が痛くなった。しばらく黙り続ける2人だったが、
「いつまでも悩んでいても仕方がないわ。気になるんだったら一層の事、本人に聞きに行きましょうよ!」
「でも、彼の性格なら当たり障りのないことをいうだけだと思います」
「う…確かに」
「ならば、変装して会うというのはどうでしょうか?」
「それ、いいかも!他人なら気を遣わずに話してくれる確率はグッとあがるしね」
「ではそれでいきましょう。アイは変化魔法を使えますか?」
「使えるんだけど、少し苦手で長時間の維持は無理かも…」
「でしたら、この包帯を使いますか」
レイナが呪いの傷跡を隠すために使っていた特殊包帯で通気性に優れている為、顔にまいたとしても息苦しくならない。家へ移動し、レイナが試しにアイの体へ包帯を巻いていく。そして胸だけ変化魔法で平らにする。これで包帯男の完成だ。
「確かにバレないとは思うけど、かなり怪しいわね…」
「真相を突き止めるまでの辛抱です。ふふっ…」
「ちょっと楽しんでいるでしょ?巻くときウキウキだったもの」
「少し似合っていると思っただけですよ」
「もう…。とっとと突き止めてこんな姿とおさらばよ!」
「その意気です。あと、2人で行動するのはまずいかもしれないですね」
「そうね。あいつ、変に勘の良いところがあるからあんまり一緒に居るとバレているかも。しばらくは別行動でたまにお互い報告し合うってことでいいかしら?」
「ええ、それでいきましょう」
この後、バンガルに移住の件を伝えたところ「あいつ一人じゃ不安過ぎるから、2人が行ってくれた方が助かる。むしろ是非行ってくれ、頼む!」と背中を強く押された。村人達にも別れの挨拶をして翌日の早朝に村を出発した。
こうして、レイナとアイのミッションがスタートしたのだった。