第131話 特待生トーナメント戦
ジョウが凡太の下で修行を続けて1カ月経過。的当て二個をクリアし、三個目に挑戦中と順調に成長していた。さらには凡太流のトレーニング論を理解し、応用した特訓を自分で考えてくるので、正直教えることが尽きかけていた。
(理解の早さはレオやモーブほどではないけど、行動力と手数が凄いんだよなぁ。やりながら体で覚えていくタイプ。この子の場合、もっと知識があって奇抜な事を思いつく人が師につけばまだまだ伸びていくと思うし、俺なんかが教えていたら、勿体ない感じが凄くする…)
ジョウの将来性に期待が高まる一方で、自分の知識のなさを嘆く。
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最近、王国周辺での魔物の動きが活発になっていて、その討伐に次々と騎士団を派遣した為、自国防衛面で人材不足になっていた。この問題解決の為、特待生内でトーナメント戦を行うこととなった。
トーナメントは特待生全員が強制参加で、その間ランキング戦は一時中止。試合ルールはランキング戦と同様。敗者復活線が少し特殊で、復活戦で勝った者が再び負ければそこで脱落という点は同じだが、負け続けた場合は敗者復活の相手がいなくなるまで試合をしなければならないという負け残りシステムになっている。これにより、特待生内の最強と最弱がはっきり分かるトーナメントになっている。最強ならいいが、最弱になってしまえば、今後の学園生活及び将来の就職先は悲惨なものとなるだろう。なお、あの男には相手を倒す技がないので、勝つことは不可能で必然的に負け続けることとなる。つまり、現時点で最弱は確定しているということだ。
優勝者は騎士団に加わって討伐部隊に参加することになっている。さらに部隊の隊長になってもらうことで経験をつんでもらう予定だ。部隊には補佐として現騎士団数名が加えられ、部隊員は現特待生か卒業者なら自由に集めてもよいことになっている。ここで結果を残せば、騎士団入りはほぼ確定すると誰もが思い、やる気になっていた。一人の男を除いて。
(トーナメント戦とかダルっ。俺の参加は労力と時間の無駄遣いだって。対戦相手に申し訳ないし、大体ランキング戦の断トツ最下位に何ができるっていうんよ。不戦敗にならないかなぁ)
心の中で愚痴るがトーナメント参加の件は揺るぎなく、トーナメント戦当日となった。
トーナメント戦は王国の闘技場や訓練場など5箇所を使ってテンポよく行われる。学園掲示板に最初の対戦相手の組合せと対戦場所が提示。それ以降は、決定次第に試合後に渡されるスマホサイズのパッドに次の対戦相手と試合場所,時間が提示される。
掲示板前にて。
「師匠、お互い頑張りましょうね!」
「うん。頑張ろう」
(眩しい!眩しい!やる気が凄すぎて内心、気怠くなっているこっちが申し訳ないよ。まぁ今のジョウなら優勝も十分狙える実力はあると思うし、結果が楽しみだ)
ジョウと別れた後、ミーラに会う。
「…できれば君と戦いたいものだ」
「残念ながら無理だと思うよ。ははっ」自分の圧倒的な弱さを誇る自慢げな顔で笑う。
「…慣れない戦いになると思うが、ベストを尽くそう」
「(慣れないって?) 頑張ってねー」
各自、指定の対戦場所まで行き、初戦開始。
凡太は、気怠さはあったものの安定の瞬殺により、見事敗北を決めた。病院で目覚めるとベッド横に置かれたパッドに次の試合情報が表示されていたので、それを片手に指定場所に向かう。
次の試合が始まった。結果はもちろん瞬殺である。
パッドには対戦結果ものっていたので確認しながら次の試合会場に向かって歩いていると、予想外の結果を見つける。なんと、ジョウとミーラが負け続けていたのだ。二人を負かすとはよほどの相手と思い対戦相手を見たが、ランキング上位者ではなかったので訳が分からなくなる。
(体調不良とか?でも、今朝見た時は元気だったしなぁ。八百長は2人共やらないだろうし、何で負けているのかさっぱり分からん)
敗者復活3回戦目。凡太の結果はさておき、ジョウとミーラが見事勝利を決めたことをパットで知り、ホッとする。丁度そこへ2人がやって来て「不覚でした」とか「…残念だよ」など意味不明な感想を言ってきたので「まぁ次の機会があるさ」と適当に合わせてその場を逃れた。結局、2人が勝ったのに何で落ち込んでいたかについては謎のままである。この後、2人共あっさり負けてしまったので謎は深まるばかりであった。
そんな中、次の対戦相手がパッドに提示される。
「そんな…なんであいつが」
対戦相手の名前はイコロイ。凡太が現在知りうる敵の中で最も危険と判断する者である。凡太は以前にその危険人物と別れる際、成長性に期待されていたことを思い出した。その時から比べ、確かに成長はしているものの、身体・魔力の大幅成長はなく、依然として力の差が圧倒的に開いたままである。つまり—-
(『期待して損した』とか言われて殺される確率100%。こんなことってあるかよ…。折角候補も見つけて順風満帆にいくと思っていた矢先だぞ!?)
突然の死の宣告に男の体が恐怖で震え始める。震えながら、ジョウの姿が頭に浮かぶ。一緒に修行した期間はそれほど長くはなかったが、これまで文句は言われず、一応尊敬している風な応答をしてくれるので、師としての信頼は最低ライン満たしていると判断できる。そんな彼は、師である凡太とイコロイの試合を必ず見に来るだろう。
(まだちょっと早い気もするけど、まぁいっか。ジョウは真面目だから俺が殺されたら一応怒ってくれるでしょ。覚醒イベントとしてはギリ及第点かな)
先程まで恐怖し震えていた男から震えが消えた。
男は殺されることに恐怖していたわけではなく、自身の死が無駄で終わることに恐怖していただけなのだ。
男は自身の命が有効活用されることを知り、嬉しそうに死地へと歩みを進めるのであった。