表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
129/355

第129話 朝練仲間が増えてくよ

 午後3時の魔法研究所。

 

ウォーン!


甲子園の試合開始のサイレンのような尋常じゃない大音が各部屋のスピーカーから鳴り響く。


緊急事態か?避難訓練か?


緊迫感と共に皆が作業を放り投げ、一斉に各々独自の行動をとり始める。

 

 始まったのである。


 遊びの時間が。


 午後3時からの30分間は何が何でも遊ばなくてはならないという掟がある。研究所最高責任者の『人は遊びの中でこそ発想力を鍛えることができる』という考えからできたものだ。某ブロック製造会社やアニメ映画製作会社などがこれを実際に取り入れているのは、それだけ効果があるという事だろう。


 凡太はよくこの時間に、広い試験場でトマスやミーラとスーパーボールを強化しまくってとんでもなく速くバウンドするようになったところを素手でキャッチするという遊びをしていた。虚像探知を使えばたやすくキャッチできるが、使わないでやった方が、趣があっていいということで、なしでやっている。今日も実体はほぼ捉えることはできず、バウンド音だけがいたるところでするという奇妙な空間で、大人3人がキャッキャッとはしゃいでいた。

 

 そんな所へ、今日は珍しく来客が。


「こんにちは。ご一緒してもよろしいですか?」


 扉の外からマリアの声が聞こえる。


「いいですよー!あ、ちょっと待っ――」


 凡太の制止を聞く前に試験場に入ってきたマリア。


「間に合えー!」

 

 光速スーパーボールに当たったらまずいと思い、凡太が急いで強化魔法をマリアにかける。その瞬間、凡太の後頭部めがけてスーパーボールが飛んでくる。

 

 危ない。

 

 トマスとミーラが反応するがそれよりも速く――


 パシッ! 


 マリアが凡太の背後に高速移動し、スーパーボールを親指と人差し指で楽々キャッチする。


「わぁ、速い。こんな速いもの、よく捕れますね」

「いや、あなた既に捕っていますから。何せ、ありがとうございます。捕ってくれなきゃ脳震盪ものでしたよ」

「いえ、タイラさんが強化してくれたおかげですよ。私を護る為ですよね?ありがとうございます」

「いや、強化はしましたが、捕ったのマリアさんの意思でしょう?それに危険地帯に誰かが誤って入ってきたら護るのは当たり前でしょ?ですから、あなたのおかげで助かったようなものです。ありがとうございました」力強く頭を下げて礼をする。

「いえ、あの状況なら強化されたとなれば誰でも同じ行動をしたはずです。当然の行動に感謝される意味が分かりません。理解されていない様ですのでもう一度言いますが、護っていただきありがとうございました」マリアも負けじと力のこもった礼をする。

「いや、だから護ったのは当たり前の事だって言っていますよね?聞いていましたか?アナタ、ワタシ、タスケタ、オッケー?」

「いえ、助けたのは当然だと言っていますよね?あなたの方こそ聞いていましたか?あなたは黙って感謝されればいいのです。おっけー?」


 いつものいやいえ問答がヒートアップする中、トマスとミーラが空気を読む。


「我々二人はお邪魔かな?」

「「いやいや、とんでもない!」」

「…お邪魔しました」

「「待ってください!」」

「これは…。冗談抜きでお邪魔かもしれんな」


 2人の息のピッタリ具合でトマスとミーラの祝福モードが冗談から本物に近づいていく。この流れに危機感を覚えた凡太は、咄嗟に魔法の言葉を放つ。


「さぁ、皆さん!仕事、しごとぉー!!」


 真面目な3人はこの言葉に従順で、すぐさま仕事の態勢に入った。なお、この場合の仕事とは“全力で遊ぶこと”である。残りの20分余りをフルに使い、4人は全力で遊びを楽しんだ。


「今日はありがとうござしました。楽しかったです」

「それはよかった。また、いつでも来てください」


 凡太は先程まで元気に動き回るマリアの姿をみて、元気がなかった頃の姿を思い出す。


(前回マリアさんが倒れた原因は精神疲労。確かうつ病みたいなものだっけ?だとすると、また悪化しちゃう可能性もあるから何か手を打たないと…。一応、体を動かすのは嫌ではなさそうだったし、朝練に誘ってみるか。でも、前みたいに断られる可能性もあるしなぁ。もし、運動が嫌だったらただの拷問だしなぁ。どうしよう…)


弱気になる凡太だが、何もしないよりは何かした方がマシだという考えが勝り、


「よろしければ、毎朝レベッカと一緒に朝に運動しているんですけど、一緒にやりませんか?」

(はい、言った!断られるよー!衝撃に備えよ!)


 100%断られるイメージの凡太だったが、


「喜んで!」

「嘘やん!…あっ、すみません。では明日の朝、よろしくお願いします。場所と時間、内容はレベッカが知っているので帰ったら聞いてみてください」


 スピーカーから音が鳴る。


 コーン! 遊び時間終了の合図だ。


「分かりました。では、お仕事頑張りましょう」

「はい」


 お互い手を振りながら別れる。その姿をみて、トマスとミーラが「やっぱりお邪魔だったかな?」と茶化してくるので「やめてください」と言って背中をバンバンと叩いた。


 補足。運動療法という言葉を聞いたことがあるだろうか?やや強度の高い運動をすることで、抗うつ剤と似た効果を得ることが可能だ。抗うつ剤の場合、麻薬の様に耐性ができてくる為、常備し続けると同量でも効果が薄れ、量を増やさなければならなくなる。しかし、運動の場合は運動負荷に対する耐性はできるものの、ピッチをちょっとあげれば解決するのでお手軽だ。しかも、薬は高額だが運動はタダである。脳の耐ストレス神経細胞も強化されるのでうつの軽減にはつながるし、薬の力に頼らずに自分の力で問題を解決できたことで自信が増し、行動意欲も高まるという相乗効果を生むので薬よりはお勧めの方法だ。



~~~



 夕方。仕事が終わってジョウとの修行。

本日も的当て。的1つを余裕でクリアできるようになったので、2つ目に挑戦中。

余談だが、ジョウも授業費を稼ぐために近所の金属加工工場で、昼間週4でバイトしているそうだ。親から仕送りがあるのにご苦労な事だ。ジョウのことだから無駄遣いはせず、逆仕送りしそうな感じがある。


 この日の修行も怪我無く無事に終了。ジョウから朝も修行をみてほしいと頼まれたので、マリア・レベッカの朝練後のミーラとの朝練に誘った。


 今日だけで朝練仲間が2人増え、明日が楽しみになる凡太であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ