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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第128話 無能な師匠と有能な弟子

「あれ?なーんだ、生きていたのか」


 病室にて、生気がこもっていない第一声と共に凡太が目覚めた。


「お目覚めですか!後遺症などなかったようでよかったです」


 ハキハキとした声で祝福するのはジョウだ。


「コンゼン君か。わざわざお見舞いに来てくれてありがとう。いやー君のノッケンは見事だったよ。特に最後のやつは圧巻だったなぁ」

「いえいえ、すべて“師匠”の手ほどきがあったからこそできたのです。俺はただいつも通りに拳を振るっていたにすぎません」

(聞き間違いか?)

「そうなんだ。でも、いつも通りであの技を出せるのは凄いと思うよ。あと、俺は何もやっていないよ」

「ご謙遜を。“師匠”が俺を誘導する様に気弾を放っていたのは誰が見ても気づく事です。まさか、未熟な自分に気を遣って頂いたという事でしょうか?そのお心、痛み入ります」

(聞き間違いじゃなかった。矯正していたのがバレている)

「別に気を遣ってないから。そう卑屈にならなくていいよ。あと、さっきから気になっていたんだけど、師匠って何?」

「師匠は師匠です」

「ん?」

「師匠だから師匠という意味です」

「え?」


 謎の師匠推しが続き、“自身の技の矯正を命がけで行ってくれた指導から師匠とあがめることを決意した”という理由を聞き出すのに5分ほどかかった。


「師匠って呼ぶのはいいけど、今の君に教えられることは少ないと思うし、弱すぎて幻滅すると思うよ。それでもいいの?」

「はい。もちろんです!」


 こうして、ジョウを弟子に迎えることになった。あと、ジョウから師匠が弟子を名字呼びするのはおかしいと指摘を受けたので、名前で呼ぶことになった。



~~~



夜19時。仕事が終わり、公園近くの空き地に来るとジョウがいた。病室でジョウと修行の約束をしていたからだ。


「戦闘の基本は回避。力が同程度か少し上の相手であれば、かわし続けながら分析することで、戦闘を有利に行いやすくなる。力が遥かに上の相手であれば、戦い続けるのは愚行なので、速やかに逃げる必要がある。その時に回避能力が高ければ逃走成功確率が上がる」

「戦闘はいかに相手を素早く倒すかで考えていたので、回避の重要性には気づいていませんでした」

「相手をすぐに倒せる目途があるならそれで問題ないけど、現実はそんなに甘くない。自分より強い奴はこの世にあと1万以上いると思った方がいいよ。大体強い奴ほど力を隠しているもの。そうすることで油断を誘えて相手を楽に倒すことができるからね。そんな感じで自分の攻撃力や強さに自信を持つことは良い事のように思われがちだけど、井の中の蛙状態で現実を知った時の反動ダメージは大きいから、早めに自信は捨てて謙虚に考えた方が後々楽だよ」

「そうすることで慢心からくる油断を減らし、隙を極限まで減らすということですね。勉強になります」

「それはよかった」


 ストレス社会において、ストレスを軽減する為には、なるべく早い時期に最悪の体験をできるだけ多くしておくことだ。最悪を知っていれば、それ以上のストレスがかかることは今後起こらず、わずかながら気持ちに余裕ができるからだ。最悪の体験がなかなかできない場合は想像するだけでも良い。とにかく、心の準備を済ませておくというのが重要だ。

ストレスにより自信(やる気)を消失すると行動意欲が低下し、学習能力が低下する(海馬が破壊される為)ので、努力効率が一気に落ちる。それを懸念した凡太は、ジョウにストレス耐性がつくような考え方をあれこれ伝授した。すべてはジョウに最速最短で強くなってもらう為である。


「じゃー早速回避をあげる訓練をやってみようか」


 そう言ってポーチから魔改造的を1つ取り出す。


「この動く的を使って、的当てをやってもらう。制限時間は5分以内に100発攻撃を当てられればクリア。最初に手本をみせるよ」



 凡太が的当てを開始し、2分ほどで終えた。


「無駄な動きがない素晴らしい回避でした」

(そりゃ、無駄な動きをすると瞬殺されるからね)

「ありがとう。とりあえず、こんな感じでやってね。ジョウ君の高い攻撃力だと的が壊れる可能性があるから、攻撃に使う箇所の強化はしないでくれると助かる」

「分かりました。では、お願いします!」

「あいよ」


 的のスタートボタンを押し、的当てがスタートする。最初に凡太の見本を見ていたおかげで、的の瞬間移動攻撃を難なく回避した。1分ほど回避を続け、的の動きに慣れてきたところで、加減したノッケンを的に当てていく。4分経過。ジョウの呼吸が荒くなったが、回避速度と攻撃速度の方は衰えていなかった。しかし、集中力の低下からか、2発の気弾を受けてしまう。


(あと少しだったけど残念。でも、初挑戦で加減しつつここまでできれば上出来だよ。…って、嘘でしょ?)


 凡太が驚くのも無理はない。当たれば気絶は必然の気弾を2発も受けた人間が何事もなかったかのように回避と攻撃を続けていたからだ。凡太が呆気に取られる中、順調に着弾数を稼ぎ、残り2発のところでタイムオーバーとなった。


「惜しかったなぁ。でも、次はクリアするぞ!師匠、もう一度お願いします」

「え?ああ、分かった」


 ジョウの的当てを眺めながら思う。


(そうか。彼は鋼鉄に拳を全力で打ち込んで無傷で済んでいるような人間だ。耐久力が桁外れに高いんだ!)


 この後、2回挑戦して的当てをクリアしたところで、修行は終了となった。


「明日もよろしくおねがいします!」

「ああ…よろしく」



 元気よく帰るジョウの姿を見て、自身が教えられることの少なさを感じつつ、元気なく寮へと帰る凡太であった。

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