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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第127話 正気が狂気

繰り出されるノッケンのフォームに合わせて念動連弾を放ち、矯正を行う凡太。この試合中何十回と繰り返した為、既にコツを掴んでいた。矯正の精度が上がったことでノッケンの精度も上がる。


(さっきより威力が間違いなく上がっている。防護下着の防御力はさっきから最大だからこれ以上魔力をこめたら壊れてしまう。最悪の事態に備えて盗っておいて正解だったな)


 剣を握る凡太。ないよりましということで防御の足しに使うのだろうか?


 凡太はジョウに感謝していた。今までは最初から手加減され続けてきたが、彼は最初から手加減なしの全力で戦ってくれたからだ。今後、イコロイやウルザの様な底知れぬ強さを持った敵と戦う際には手加減癖がついていると瞬殺される恐れがあるので非常に危険である。そこで、凡太は勇者候補の条件として油断せず、手を抜かない性格であることを重視するようになった。ジョウは見事にその条件を満たしていた。さらに、実力も申し分なく、伸びしろもまだまだある。まさに勇者候補としてうってつけの人材である。

 だからこそ、彼が強くなる為ならできる限りの事はしようと考えた。例えそれが自身の命を落とす可能性があることでも何の悔いもない。勇者の力の一部になるという大役を果たせるのだから。


「さぁ、こい!」


 凡太が珍しく気合を入れる。全身全霊をかけて受け止めるという気迫がこもっていた。


 そして、ベストタイミングで矯正されたノッケンが腹に直撃する。

 多少威力が軽減されたところで、防護服が壊れ、残りの全衝撃が凡太の腹に加わる。後ろに吹き飛ばされ、10mほどゴロゴロと転がったところで静止した。数秒ほどたった後、ガクガクと立ち上がる。膝はすでに言う事をきかないらしく、伸びたままだったので、剣を支えに立ち上がった。


観客が「おお…」と凡太を称賛する声を出した次の瞬間「ああ…」とガッカリする声に変わる。凡太の目が白目を向いており、気絶していたからだ。この大会のルールでは気絶した場合は戦闘不能とされ、即敗退となる。審判が凡太の様子を入念に確認し、気絶を確認。勝者を称える為、ジョウの方を向く。


「勝者、コンゼ—-」


 グサッ!グサッ!グサッ!


謎の刺突音が聞こえる。

審判のちょうど後ろからだ。


「ありえない…」


審判の言う通りだ。後ろには先程気絶を確認した男しかしない。つまり、音の正体は…。

恐る恐る振り返ると、気絶をしていた男が自身の足に剣を何度も突き刺していたのだ。これには審判、ジョウ、観客全員が言葉を失う。


 一通り刺し終えたのか、刺突をやめる凡太。そして、狂ったように叫ぶ。


「どうだ!俺はまだやれる!試合を続行してくれ!」


 その姿は狂人のようで正気かは定かではなかった。だが、目はジッとジョウの方を力強く睨んでおり、戦闘意思が無くなっていないことは明白だった。


「続行してください!彼の意思はまだ無くなっていません。彼はまだやれます!」


その意思に触れ、ジョウも試合続行を要求する。双方からの続行要求に答えるように審判が試合続行を告げた。


 その一連の流れを見ていたドンが呟く。


「彼が剣を盗ったのは、支えにして立つ為ではなく、自身が気絶した時の目覚ましとして代用する為…。って、頭おかしすぎるだろ!もう十分過ぎるほどノッケンに耐え、限界を迎えて気絶した。それで十分じゃないか。なのに、なんで気絶して良しとしないんだ?なんで気絶した状態から動けたんだ?さっぱり分からない!」


 学園長は、発狂するドンをなだめながら、ドンとは別の疑問に頭を悩ませていた。


(彼の体は限界。先程まで続けていた矯正もできる状態ではない。ならば、この先に一体何があるというのだ?)


 凡太が気絶を阻止してまで立ち上がった真意が分からず困惑する。考えている内に、ジョウがノッケンを打つモーションに入っていた。凡太にはすでに矯正する為に動く余裕はなく、もちろん回避する余裕もなかった。ただ、ノッケンを打ちこむ用の的として立っているだけの存在。しかし、その目だけは死んでいなかった。


 そして、ノッケンが凡太の腹に向かう。

 先程の様にベストタイミングで放たれた技は連動動作により、威力を殺すことなく相乗され、とてつもない破壊力を持っていた。

 

今度は矯正なしで。つまり――


(さすがは勇者候補!最後の最後で完成させるとは恐れ入った!)


 完成形のノッケンを間近で見て、満足そうにすべてを出し切った顔をする凡太。

 それに気づいた学園長と審判が奇跡的に同じ予想をする。


(こいつ、死ぬ気か!?)


 2人は慌ててありったけの魔力を使い、凡太の腹に強化魔法をかける。

 

 そして、凡太が後方へ吹っ飛ぶ。


 凄まじい衝撃音と共に壁へめり込み、3mほどいったところで静止した。確認するまでもなく気絶していた。ぐったりしていたが、息はあるようだ。急いで救護班により病院に運ばれる。撤収が高速で行われる中、審判が結果宣言する。


「勝者、コンゼン・ジョウ!」


 勝者が決まったというのに観客から称賛の歓声はなく、凡太を心配するどよめきの声だけだった。その気持ちは勝利したジョウも一緒で、救護班と共に病院に付き添って闘技場を後にしていた。



「よかった、よかった」(強化しなかったら確実に死んでいたね)

「何がよかったですか!重症ですよ?ああ…、タイラさん大丈夫かなぁ?」


 最後の凡太の粘りを見た観客は、彼を狂人だと思った。

 型の定着確認という真意に気付いた学園長と審判も彼を狂人だと思った。

 狂人度的には、後者の方が圧倒的に高い。

 しかし、凡太にとってこの狂気行動は、通常運転である為、ただの正気行動にすぎない。ここに彼の気持ちを理解できる者はおらず、彼以上の狂気を発せられる者が現れない限り、彼の正気は一生理解されないだろう。

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