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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第125話 不憫な努力家

 コンゼン・ジョウ。特待生で10代後半くらいの黒髪短髪の少年。身長は170㎝、体重60㎏でガッチリ体系。

 凡太が試験モニター候補を探し回っている際に度肝を抜かれた人物である。度肝を抜かれた理由は努力方法がシンプルに凄かったから。

 彼は自身の体重と同等の靴・リストバンド(片方30㎏)を身に着け、リュックのような鋼鉄の重りを背負って生活している。最初に彼を見つけた時、ドスドスと目立つ重すぎる音を発しながら走り回っていた。

 重りをつけて走るのは膝への負担が大きい。凡太も昔、片方0.5㎏の重りを足首に着けて5km走ったことがあるが、キロ4分ペースで走っただけで次の日の朝、膝のお皿付近でひどい炎症が起きて、1週間走れなくなるという屈辱を味わったことがある。サムウライ村での修行では治療サポートもあったのでしぶしぶ重りをつけていたが、ジョウは何のサポートもなく独りでやっている。おそらく、怪我したことが数百回以上はあっただろう。それを乗り越えて今は生活の一部としているところをみると相当の努力量が窺えた。

 彼はドアをノックする動作に足の踏み込みと腰の捻りを加えた手首うち裏拳(通称:ノッケン)を何度も練習していた。しかも厚さ1mの鉄板にむけて。普通、拳が砕けるはずだが、『コン!』という衝撃音と共に何度もノッケンを打ち込んでいた。拳の方は無傷で、表情に痛みを訴えるものはなく平然としている。その姿をみて凡太は「あいつ、人間じゃねぇ」と思わず呟く。後日、さらに人間じゃない情報として、彼がノッケン練習の時に強化魔法を使っていないという事が判明する。その時に凡太の中でジョウは、正式に人外認定された。


 彼の1日のスケージュールは以下の通り。まず、早朝は20分のジョグ後、2時間ひたすらノッケンうち。この後、授業を受ける。夕方は再びジョグの後、ノッケンうちを3時間やっていた。これを休みなく毎日やっている(学園が休みのときは授業時間が全てノッケンうち)。かつて有名な映画俳優の「私が恐れるのは1万通りの蹴りを1度ずつ練習した者ではない。1つの蹴りを1万回練習した者だ」という名言通り、見事にそれを実践したのだ。

 ところが、ランキング戦でノッケンを使用しても相手に対してさほどダメージを与えられてはおらず、敗戦することがほとんどだった。そんなこともあり、順位は凡太の1つ上の49位。あれほど練習した技が猛威を振るわないのは、不憫でありかつ不自然だったので、凡太は空き時間にノッケンのフォームを物陰から入念に分析した。そして、すぐに原因に気づく。踏み込み、腰の捻り、腕の突き出し、手首の返しのタイミングが見事に少しだけずれており、結果的にただの手首うち裏拳になっていたのだ。ノッケン自体が高速移動並みに速い技である為、修正は難しいだろう。ましてや彼は痛みに耐え、無心でこの型を練習し続けている。当然ながら、習慣化されたこの型は、彼の脳内で強固な動作として記憶されている事だろう。それ故に修正箇所を指摘しても解決には長期間かかることが考えられ、最悪型をもっと悪化させてしまう可能性もあった。そのこともあり、凡太は修正箇所を本人に伝えられないでいた。

 そんな中、ランキング戦で凡太とジョウの試合が組まれたのだった。



 凡太はライブラリーセンターで過去のジョウの試合をみてにこやかになる。その理由は彼が全力でつねに試合しているように見えたからだ。その様子として開始から数分で呼吸のピッチ数が急激に多くなり、小刻みに肩で息をしていたからだ。それだけで彼がどれほどの力を込めてノッケンを放っているのかがすぐに分かる。

 この後、別の試合も確認する。数少ない勝戦では、防御時に使った剣での威嚇の為の一振りがたまたまカウンターとして入ったことで相手を一撃で気絶させていた。このことから、高い身体能力を持っている事が窺える。よって、ノッケン以外の攻撃方法…例えばパンチやキックを一発当てるだけで相手に致命傷を与えられることが推測できた。これらのことからさらにノッケンを不憫に思ってしまう。この瞬間から凡太の中で、このノッケンがいつか完成して、皆に評価されてほしいと強く思うようになった。



 試合当日。闘技場中央に凡太とジョウが対面する。

 ジョウは黒の柔道着のようなものを着ており、重りは全て外して裸足だった。背中に片手剣を背負っている。

 観客席にはいつも通り、学園長とドン、ミーラ、特待生数名が来ていた。


「勝敗の方はどうなるでしょうね」

「タイラ君の圧勝…じゃなかった。圧敗だろう。ジョウ君は真っ向から挑むといったスタイルだから、彼への対策はとっていないから残念ながらいつも通りの結果になると思うよ」

「そうですか。できればジョウにとって良い試合内容になってほしいと思っていたから残念です」

「随分と肩入れするね。彼とは仲が良いの?」

「はい。ジョウとはたまに訓練をすることがあるのですが、いつも身体能力の高さと精神の強さに驚かされます。特に強化魔法なしで鉄板に何発も拳を打つのは圧巻でした。こちらは当然真似できないから見ているだけだったのですが、その音と見た目のインパクトでやってもいないのに拳に痛みを覚えたほどです」

「うわー。聞いているだけでも痛々しいね。強化無しでの打ち込みは相当な耐久力が無いとできないから、彼がどれほど鍛錬を積んでいるかすぐに分かる。それほどの人物が未だにランキング下位なのは不憫でならんよ」

「同感です」

「多分あの技を使わなければ、良い線行くと思うんだけどな」

「ノッケンの事ですね。俺もそう思ってジョウに『やめてみたら』と伝えたら凄く怒られました。あの技は彼にとって誇りのような技なんですよ」

「なるほどね。是非、報われてほしいものだ」


 学園長が優しく見守るような笑みを浮かべたところで審判が動き出し、試合が始まろうとしていた。


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