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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
124/355

第124話 最弱の天敵

 神役所・休憩室。

 設定課チーフと事務の上司・部下が凡太とスライムの戦いをモニターで観ていた。

 

「スライムを最強化するという発想はお見事。ほとんどの世界で最弱設定になっている魔物だからこそ、これほどまでに初見殺しを与える存在はいないでしょう」

「確かにそうですね。これで過去の大サービス時にチート能力や上位スキルを持った異世界転生・転移者の大部分を削減できたので、管理が楽になって助かりました」

「昨年の目標(高能力転移・転生者の大幅削減)だったので、遅ればせながらで申し訳ないですけれども、そう言って頂けるなら嬉しいです。昨年までは無難に魔人や亜人を最大強化していたんですが、この手の敵だとどうも警戒心をはじめから持っている為に割とあっけなく倒されていたんですよねぇ。そこで反対に警戒心が一番薄い魔物は何かと考えた時にパッと頭に浮かんだのがスライムだったのです」

「へぇ、そうだったんですか。しかし、警戒心を解くだけでこんなにも脆くなるとは驚きですなぁ。それに加え、魔法と高い身体能力による物理攻撃が無効化されるとなれば打つ手はないでしょう。今まで何の苦労もせずに得た最強の能力に頼りきっていた者が絶望したときにみせる顔が滑稽でなりません。その後の行動も滑稽で、困難に対処する経験が少ないせいで何の行動も起こせずにただただ慌てふためくだけなのです」

「まぁ、少しかわいそうな気もしますけどね。サービス期間中に急に与えられて困っていた方もいらっしゃいましたし」

「それなら、平さんみたいに最小効果のスキルを選ぶこともできたわけだろ?自業自得だよ。そういう奴らは、所詮他人の力に頼らないと何にもできない人間だったというだけの事だよ」

「確かにそうなんですけど…。彼らの世界の言葉を使わせてもらうとその対応は“冷たい”気がします」

「冷たくて結構。それより、平さんだ。才能や能力の質の比較では他の転移・転生者に圧倒的に劣るが、そんな彼らの全く歯が立たなかった相手に対し、善戦するどころか残りわずかのところまで追いつめてみせた。こんな展開、誰が予想できる?弱者は強者に敵わないという常識を逸脱している。だから彼から目が離せんのだ!」

「そ、そうですね」


 興奮気味に話す上司にやや引く部下。


「ところで、高能力者達が毎回瞬殺されていたのはどういうことだろうか?」

「あっ、それ私も気になっていました。全3742人中の対スライム戦・平均瞬殺時間は10秒。いくら油断していたとはいえ、最初は相手の動きを分析する為に回避に専念したり、自身の身体能力を強化して防御に特化する慎重派もいたはずです。なので、全員が瞬殺されるのはおかしいと思いました」

「あーそれは多分、スライムのバフ吸収スキルが働いたからです」

「何ですか?そのスキルは」

「その名の通り、相手がバフ魔法やそれと同等のスキルを使った際に自動で発動するスキルです。これにより、バフ効果が全てスライムに乗ります。慎重派の方々はそれによって、瞬殺されたのだと思います」

「ちょっと待ってください!スライムの特殊スキルは物理・魔法攻撃の無効だけではなかったのですか?」

「ええ、もちろん。それだけだったら全然最強ではないじゃないですか。あと、一撃死効果のある技や死の呪文の効果を自動的に反射するスキル(使った相手が死ぬという事)もあります。えげつないでしょ?」


 楽しそうに話すチーフに対し、上司と部下が心の中で『あんたの方がよっぽどえげつないよ』と一斉につっこむ。


「まとめると、スライムは瞬殺不可だから、持久戦必須ということですね?」

「その通りです!」

(えぐっ!!)


 凡太も慎重派だったが、自身に強化魔法を使わないわけではなく、使えないことが功を奏し、知らない間に瞬殺を回避していた。しかも高威力の攻撃技を持たない為、スライムの最堅の防御を無視して攻撃を当てることができた。それに加え、持久戦は得意というか、持久戦しか取り柄のない男である。これらの条件が全てかみ合ったことで、凡太はスライムにとっての最弱最恐の天敵となった。


「それにしても、最後の彼のオリジナル技は良いタイミングだったな」

「そうですね。あの技は体力を大量消費するので、普通の人間では絶対に無理でしょう。気力の高い彼だからこそできるのです」 ※体力=身体能力+気力

「いや、それは違うぞ」

「どういうことですか?彼は気力が他の人より圧倒的に高い。これは立派な才能じゃないですか?」

「確かに結果だけみれば才能なんだが、気力は誰でも上げられるものだ」


 困った顔をする部下に上司が説明を加える。


「そもそも気力とは忍耐力・集中力・活力などの総称と考えることができる。これらの力は筋力トレーニングと一緒で負荷を徐々に上げていくことで上限値を上げることが可能だ」

「それなら、他の人でも気力が高い人がいてもおかしくないってことですよね?」

「ああ、その通りだ。気力を上げる為のトレーニングをすれば高くなるのは当然だからな。では、なぜここまで差が出るのか?それは彼が気力を上げるトレーニングを日常化しているからだ。まるで呼吸するかのようにな」

「言われてみれば、彼はだるそうにしつつもなんだかんだで出し切るような行動をしていましたね。しかも毎回きつくて面倒なことに自分から首を突っ込んでいっている節があるような…」

「その行動選択こそが気力向上のポイントだ。おそらく彼は楽な道と困難な道があった時、必ず困難な道を選ぶ。そちらの方が良いという確証はない。だが、困難な道を選ばなかった場合は妥協して決めた様に感じ、少し未練が残ってしまう。どちらの方がスッキリとした気持ちで進めるかとなれば、困難な道ということになる」

「つまり、困難な道の方がマシだからって、妥協してそちらを選んでいるという事ですか?」

「そうだ。困難な道を選び続けていると嫌でも気力の限界値は上がっていく。しかし、問題となるのは行動時に必要な気力も大幅に低下するという点だ。気力が充実した状態ではアドレナリンが出てガンガン行動できるが、疲れてくればやる気がなくなり、徐々に無気力になってくる。大体の人はここで気力向上トレーニングをやめるものだ。しかし、彼は違う。なにせ、妥協で困難な道を選んだ男だ。彼には元々やる気がない。やる気がない状態で進んできたからこそなくなっても進み続けることができるのだ。これにより、彼は気力トレーニングを行う人間の2倍以上のトレーニング成果をあげることが可能となる為、あの気力値になったことが推測できる」

「なるほど…。けど、やはりそれは彼の才能としか思えません」

「彼がやる気がない状態で動けるのは才能ではないよ。その状態でも動くことを何度も繰り返したことでそれを自動化することに成功した。ただの努力の賜物だよ。だから、やろうと思えば、誰でもできる。誰でも得ることができるのであれば才能ではないだろう?」

「“できれば”の話ですよね?そんな過酷な事、誰でもできると思えないしやっぱり才能だと思います」

「だから才能じゃないって。努力なんだって」

「さ・い・の・う!」

「ど・りょ・く!」

「まぁまぁ…」


 どうでもいい才能VS努力討論が勃発。今日も神役所は平和だ。

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