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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第118話 絶望全力前進男

 “開”で魔力増強したところで念動弾の連射技である念動連弾を特大円錐型水塊に向かって叩き込む。スライムがこの特大水魔法を使ってから、2匹のスライムがいなくなり、回避に大分余裕ができたので、かなりの数の念動弾を当てられていた。

だが、所詮は弱小攻撃。水塊の勢いと軌道は全く変わらずに結界の方へまっすぐ向かっていた。水塊が結界に近づくにつれ、結界外の試験官や救護班が慌て始め、ワーワーと騒ぎ始める。何か話し合っているようだ。その様子をみて凡太の緊張が増す。


(結界に触れることで何らかの変化が起こることは確定かな?当たった後に攻撃威力が急激に増す変化をるのかも。じゃないとあんなに慌てないだろうし)


 凡太の防御力は皆無。最貧弱人間が高威力の攻撃をくらえば当然即死する。それに気づいた運営側が試験者の安全を優先する為に、攻撃によって致命傷を負う前に助け入ることについて話しているのだろう。

過激な話し合いになっているのは凡太が弱すぎるのが原因だ。スライムは最弱の魔物であり、本来なら助けに入る必要がない。今回のこの特大水魔法も凡太でなければ無効化できるもの。つまり、運営側にとっては余計な仕事が増えたことになるので、それでイライラして過激な雰囲気になっているのだと推測できる。おそらく「なんであんな弱い試験者を戦わせているんだ!」とか「雑魚のお守りとかマジ勘弁」とか「面倒だから今後あいつを闘技場出禁にしろ!」とかありとあらゆる罵倒を言われているに違いない。マスター・オブ・マイナス思考の凡太はそれを脳内で容易にリピート再生することができたので、自身の胃がキリキリと痛めるリピート自傷現象が発生し、一人で勝手に苦しんでいた。苦し紛れに彼らの方を見てニッコリ笑うと騒ぎがさらにうるさくなる。きっと気分を逆なでしてしまったのだろう。これにより、さらに苦しくなったが、連弾放出は続ける

 

全く威力の治まらない魔法と自身が脳内で作り出した精神的苦痛製造装置により、劣悪な環境が出来上がっていた。この環境下では、誰もが絶望し、行動を諦めて立ち止まるはずだ。凡太もその一人で、この環境に絶望していた。だが、絶望したことにより、この男の脳内で自動行動装置が作動する。


その行動命令内容はシンプル。


“目の前のできることをやれ”


 どんなに気分が落ち込んでようが、疲れていようが、何もやらないよりはやった方がマシだと妥協し続けていたおかげで得た装置(習慣)である。なので、この男の精神に絶望は効きまくっていて現に今も落ち込みまくっているが、念動連弾を放つペースは落ちないのだ。しかも、落ちるどころか、上がっていた。上がった要因として考えられるのは、凡太がこの異世界に来てから得た経験によるもの。異世界に来てからは実力差が大きすぎて絶望する事ばかりだったので、自身が生き残る為にはつねに全力を振り絞らないと前に進めないといった固定概念のようなものができていた。その概念により、自身が困難な状況に陥った場合、全力を出してその困難に立ち向かうといった思考回路が完成する。


つまり、現在の凡太の行動命令内容は、


“目の前のできることを全力でやれ”だ。


スライムの攻撃をかわしつつ、一心腐乱で念動連弾を放ち5秒経過。1000発以上は念動弾が命中するも相変わらず水塊はびくともしていない様子で前進を続ける。結界まで残り20m。凡太の危機感も最大に高まり、温存していた“全開”を使おうとした時、急に水塊が消滅する。


(えっ?連弾で全然削れている気がしなかったのになんで消滅したの?あっ、そうか。俺としたことがすっかり忘れていた。相手は俺に最大限の手加減をしている。だから、あの魔法も最弱の魔法だったに決まっているじゃないか!多分RPGで魔法使いが最初に覚えるような初期レベルの魔法。だけど、初期レベル魔法であの特大さとか、ラスボス並じゃん…。最弱の魔物でこのレベルなら、本当のラスボスの初期レベル魔法はどんな威力になるんだよ。超越し過ぎて何も想像できん)


 最弱の魔物のおかげで、最強の魔物の極大さの一端に触れて落ち込みながらも、同時に感謝する。とにかく自分には余裕をみせる時は一生こないということを改めて実感した。


 凡太が魔法消滅の謎を独自の解釈で脳内解決した後、結界外を見てみると先程までうるさかった運営側の皆さん(試験官・救護班)が全員こちらをみて黙りこんでいた。

 

(『まさか魔法を消滅させるとは思ってもいなかった』って顔ですなー。弱者でもやればできるときがあるんだよ!たまーーーにな)


 弱者が起こした奇跡に驚く強者達。その顔をみて弱者が満面のドヤ顔をする。

運営側が何かを言っているようだったが声が小さすぎて聞こえなかった。「なんであの程度の魔法を消滅させただけでドヤ顔できるんだ?」「うわーないわー」「ださっ」という感じのことを言っていると勝手に想像し、その誹謗中傷の数々を脳内リピート再生。再び自身の行動意欲を高めざるを得ない状況に自動的に持っていく絶望全力前進男。肩書の異常さだけはラスボス並のぶっとび具合である。


 突然スライムの体がグニョグニョと蠢く。その蠢きは勢いを増し破裂するかに思われた瞬間、スライムが100匹に分裂。しかも今度は各々がテニスボールサイズになって小型化していた。


(小さくなれば体当たりの威力が落ちることは奴も十分承知のはず。よって、小さくなるということはデメリットではなく、なんらかのメリットを狙ってのもの。軽量化したから攻撃速度が上がるとかそんな単純な事ではない気がするし、嫌な予感しかしない)


 一難去ってまた一難。新たな困難が発生して満身創痍になるのはいつものことだったが、今回はそれ以外の反応をしていた。


(100匹に分裂ってことは10%の力を出して戦ってくれるのか。ありがたい。今まで足掻いていたのは無駄じゃなかった…)


本気をだしたら1000体に分裂すると推測していた相手のちょっとしたお遊びともとれる行動。手加減され過ぎて頭がおかしくなったのか、相手がたった10%の力を出した程度で歓喜する。最弱を極めるとこういった残念な思考になるという反面教師だ。


制限時間は残り10分。

最弱人間が最弱魔物に最後の最後で遊ばれるといった世界で最もつまらない時間が今、始まる。


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