第115話 魔物討伐試験
凡太は戦闘部門の魔物討伐テストを受ける為に、学園にきていた。”魔物討伐試験”と書かれた受付口の前に立つ。
「あのー、討伐試験を受けたいのですが」
「では、こちらの用紙内の魔物から1体を選択して提出願います」
申請書を試験官からもらい、記入用テーブルで用紙に目を通す。試験対象の魔物名がズラリと並んでいた。
エンチャントドラゴン 125
キンググレムリン 89
ボスオーガ 87
サイレントウルフ 45
ジャイアントベアー 36
キラーラビット 23
ゴブリン 12
フツノアリ 5 ……
(やっぱりドラゴンいたー!これでこそ異世界って感じだ)
異世界の魔物といえばドラゴン。凡太は少年のように興奮する。
(魔物の横の数字は何だ?)
落ち着いたところで魔物名横の数字に目がいく。ドラゴンや名前にキング・ボスのつく強そうな魔物ほどこの数字が大きかった。
(ということは…)
何かに気づき、ある魔物の名前を探す。そして選択項目の一番下のところで目的の名前を見つける。
スライム 1
(やっぱり…。これは強さ基準値なんだ)
常識的にドラゴンは強敵、スライムは雑魚。数値の大小がちょうどそれを表していたので、予想ができた。まさにテンプレ通りである。
これをみたことで凡太が選べる魔物はスライム一択となった。この王国に来てからというもの、会う人間すべてに手加減されており、“新天地への移行で自分以外の生物の強さレベルが格段に上がる“というバトル漫画でよくある法則を十分過ぎるほど味わっていた。その反省から、自身がこの王国内で最弱の生物と仮定した。テンプレ通りならスライムはこの世界で最弱な魔物のはず。最弱の自分が唯一対抗できる可能性があるのがスライムなのだ。
(おそらくスライムは点数稼ぎ系の救済枠かな。ならばその枠、しっかりと利用させてもらおう)
スライムの欄を丸でくくり、試験官に持っていくところでノッポに絡まれる。
「これはこれは、最弱特待生様。こんなところで何をしているんですか?」
普通クラスでの凡太の呼び名である。ランキング戦で全戦全敗を続けていれば、そう呼ばれるのが当然だ。そんな最弱者が魔物討伐試験を受けに来ているとなれば滑稽である。凡太がどの魔物も討伐できないこととを知っていて、からかう為に聞いているのだ。
「魔物討伐テストを受けにきました。今から申請書を出しに行くところです」
凡太がそう言うと、ノッポに申請書を奪われる。
凡太は一切抵抗しなかった。
(どうせ爆笑するんでしょ?ほら笑えよ)
ノッポ達に馬鹿にされる未来は既に予想済みで、心の準備が万端だったからだ。
「お前がここまで馬鹿だとは思わなかったよ。悪い事は言わないからやめとけって」
笑われはしなかったが、真顔で馬鹿にされる方が精神的に辛いもの。ましてや、自分を馬鹿にする相手が同情したのだ。
(俺は一体、どれだけ弱いんだ…)
改めて自身の弱さに落胆する。が、落胆状態はこの男の行動を止める要因にはならない。
「忠告ありがとうございます。自身の強さは良く分かっています。今の私のレベルに合った魔物を選んだ結果がそれなのです。だから、何の問題もありませんよ」
凡太は力ない笑顔を浮かべながら、ノッポから申請書を取り返し、試験官に提出した。許可が下りるまで近くで待機する。ノッポ達はいつの間にかいなくなっていた。呆れて帰ったのだろう。
10分後、申請が許可される。
「魔物討伐試験は今回が初めてでしたね?」
「はい」
「では、試験のルールを説明します。60分以内に魔物を消滅させるか、戦闘不能状態(気絶や完全拘束)にすれば合格です。武器・防具・戦闘補助道具の使用は禁止。召喚魔法で召喚した従者生物も武器とみなされ、失格になるので注意です。あと試験者が戦闘不能状態になった場合は安全を優先する為、試合を強制終了して失格とします。以上ですが、質問はありますか?」
「ないです」
「試験は闘技場で行われます。入場の際はこちらの許可書を現地の試験官に渡してください。それではご武運を」
「ありがとうございました」
許可書を受け取り、試験官に頭を下げる。
闘技場に向かう道中でミーラに会う。
「…魔物討伐試験を受けるのかい?」
「うん。ちょっくらスライムと戦ってくるよ」
「…スライムだって?……君らしいね」
最初は驚かれたものの、最後はなぜか称賛された。意外な反応だったが、凡太の目にはこう映った。
(きっと、のっけから救済枠を使う俺に、特大の皮肉を浴びせてくれているんだな。“君らしい”は“最弱は最弱と戦うのがお似合い”ということでしょ?分かっていますとも。でも、本当にスライムを選んでよかった)
ミーラの言葉によって自身が最弱であることを再確認できたので、今回のスライム選択が正解だったと確信する。
ミーラはそのまま凡太に同行。どうやら、観戦してくれるようだ。
「こんな対決、ミーラが観るまでもないよ!時間の無駄になっちゃうよ?」
「…そんなことはない」
「多分、世界で一番つまらない対決になると思うから覚悟しておいてね」
「…ああ、覚悟しておこう」
包帯で表情が分からなかったが、その口元は少し笑みを浮かべているようにみえた。凡太はそれを確認し、自身が優越感を味わう為の道具として利用されていると解釈し、同じように少し笑ってみせた。