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戦う無能おっさん  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第108話 勘違いはお互い様

(どう考えても娘の仇で一発くらわされる雰囲気だったんだけど、どうしてこうなったんだ?…まぁいい。普通に断ればいいだけだし。ククク…ちょろいものよ)


人の厚意を台無しにすれば嫌われる。不意をつかれた後、瞬時にこのようなことを思いつくのはゲスだけである。そんなゲスが真のゲスになるべく口を開く。


「すみませんが、おことわ――ふぐっ!」

「どうしたの?急にお腹なんて抑えて」


急にレベッカが凡太の目の前に現れ、マリアから見えない角度で凡太の腹に肘打ちを入れる。下半身の捻りと体重移動が絶妙に合わさり、見た目以上の威力になっていた。1週間の朝トレの効果が若干あったといことだろう。


「あっ…そうか。さっきまで、もの凄くお腹がすいていて恥ずかしくて言えなかったのね」

「違っ」 レベッカが再度肘打ちの構えをする。

「そ・う・よ・ね?」

「はい、そうです」 少女に脅される哀れなおっさん。

「だって、お母さん」

「それはよかったです。では、腕によりをかけてご馳走させていただきますね」


こうして3人は夕食の食材を買いに食品店へ向かうことになった。

 凡太は確かに手痛い一発をくらうことを望んでいたが、肉体的痛覚の伴うものであり、厚意に甘んじるという精神的苦痛を伴う一発ではなかった。そんな男の心中を知る由もなく、マリアとレベッカは仲良く手をつなぎ、ウキウキと話していた。凡太はそんな二人を横目で見る。


(俺はレベッカを辱めた男だぞ?少女にモラハラする社会的ゴミ人間を普通夕食に誘うか?超ありえないですけど!ドン引きなんですけど!あと、レベッカの面倒を見たんじゃなくて見てもらっていただけだと散々言ったのに、何でお礼されるみたいな流れになっているんだ?エケニスさんの聖人フィルター、マジパナいんですけど!)


先程の事を思い出し、心の中でネチネチと愚痴を漏らす。発散しておかないとマリアの聖人オーラによるショックで精神の均衡を保てなくなるからだ。しばらく発散を続け、精神が落ち着いたところで再び聖人のジャブが始まる。


「そういえば、レベッカに本を与えて頂き、ありがとうございました」

「泊めてもらっている宿代と授業料の代わりですよ。ほとんど中古ですし、大したものではなかったはずなのでそんなにお礼をいわれることではありませんよ」

「大したものだったよ!どれも私の読んだ事無い本ばかりだったし、好みのものが多かった。しっかり厳選してくれたってことだよね?ちゃんと私の事を考えてくれてありがとう」


 心底嬉しそうな顔をするレベッカに凡太が疑問を持つ。


「人にプレゼントするときってそうするのが当然じゃないの?」


他人へ贈るプレゼント。それが欲しくないものだったり、既に持っているものだったら、内心ではいらないと思いつつも贈り主の厚意に答えないといけないからうれしくなくても「ありがとう」と言わなくてはいけなくなる。いわゆる、有難迷惑というやつだ。

相手が喜ぶであろうと思って取った行為が相手を困らせることがあるので、相手にものを与えて感謝されたから終わりではなく、感謝後の反応を注意深く観察する必要がある。言葉は建前も含み信用性が薄い為、反応(表情や仕草)をみて相手がどのような評価を下したか判断しなくてはならない。そう考えると、他人へプレゼントを贈る行為は観察眼を鍛えるのに非常に有効である。

凡太は他人を助力してきた経験から、つねに相手にとって何が必要で不要かをよく考えるようにしていた。そうすることで有難迷惑になることを未然に防ぐ為だ。日々の助力の中、人それぞれ趣味嗜好が違う為、有難迷惑を防ぎきることはできなかったが、それでも比較的少なくすることはできた。今回の本の件でもそんな凡太の有難迷惑回避癖が出て、いつも通りに行動したに過ぎない。

しかし、これはあくまで凡太にとってのいつも通り。


そうじゃない人からすれば――


「当然じゃないよ。むしろ、そこまでしてくれる人は異常だと思う。あ…もちろん、良い意味でね!」

「俺の中では当然なんだけどなー。あと、気を遣うなよ。むしろ悪い意味で異常って言ってくれた方が助かる」

「そういうところ、悪い意味でしっかり異常だよ。どう?これで満足?」

「満足です、先生!」

「はぁ…めんどくさいなぁ」


 めんどくさい男の機嫌を取る為に気を遣うレベッカ。そのため息は大層心がこもっていた。その二人のやり取りをみていたマリアが笑顔になる。


(レベッカが私以外の人とあんなに打ち解けて話すのは何年振りだろう…。お見舞いに来る度にレベッカがタイラさんの話をするからもしかしたらと思っていたけど、やっぱりこんなにも仲が良くなっていたのね。昔は活発だったのにどういう訳か引き込みがちになっていたあの子の心を開いてくれた。本来なら親である私がやるべき務めだったのに。レベッカの件といい、仕事の件といい、タイラさんには助けて貰ってばかりだわ。なんとかそのご恩を少しでも返していかないとね)


 マリアが軽く両手の拳を握って顔の前までもっていく。レベッカからボンタの自作自演の話は聞いていたが、凡太の思惑通り評価が下がるどころか上がっていた。それは、マリアの聖人フィルターによるものか?凡太の勘違いによるものか?答えは両方だろう。

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