第10話 VS.サムウライ軍団
ガンバール村では、100名の軍団がこちらにやってくることを外にうんこへ行っていたスグニから知らされる。すぐに緊急会議が開かれることになった。会議参加者はバンガル、アン、スグニ、レオ、アイの戦闘実力者5人と無能者が1人。
会議はこの無能者のとんでもない無茶振りから始まる。
「5人で100人凌いでください」
「無茶言うなー!」
5人の総ツッコミ。
「大丈夫です。100人の注意がそちらをむいている間にこちらで武器を無効化しますから。大船…間違えた、泥船に乗ったつもりで頑張ってださい」
最後の一言が余計過ぎて「凌ぐ前にこいつぶっ飛ばしたいんだけど」という怒りをバネに戦場となる村の北入り口門の前で闘志を燃やす5人。この男の策に頼るほか、自分たちの助かる活路がないことは理解していたので今回は渋々従うしかなかった。
そこに凡太と彼の実験仲間の村人が遅れてやってきた。なお、凡太は自身のスキルボードを(村人の)魔法によって公開させている。
気でも狂ったのかと目を丸くする5人だが、ツッコミを入れる間もなく、正面50mの所にノーキン率いるサムウライ精鋭軍団が登場した。
走って。
その走る速さは100m5秒をきるくらいであったにもかかわらず、軍団全員が息一つ乱していない。絶望感を煽る衝撃的な登場でワクワクではなくガタガタが止まらない一同。
(軍団の先頭に身長2mくらいのラグビーのプロップ並みにがっちりした体系の短髪男がいる。あれがノーキンか。装備は胸当てとマントだけ…ってスパルタ兵じゃん。侍とスパルタとか夢のコラボだが、味方側にいないとただただ脅威だ…)
凡太だけでなく、他の5人もノーキンのただならぬ威圧感に圧倒されている。
そんな中、ノーキンが険しい表情でこちらに歩いてくる。
(まて、いきなり何なの?まさかあのスキル使うの?初端から?)
こちらがさらに慌てる中、ザッザッと距離をつめ歩いてくる。
残り10m、5m、3m、1mそして――
「バンガル殿、お久しぶりです。いやー元気そうで何よりです」
ペコっと頭を下げ挨拶するノーキン。ズッコケそうになるのをなんとかこらえるガンバール一同。
「ええ、おかげ様で。楽しくて密な1週間が過ごせてよかったですよ」
笑ってるけど笑っていない表情のバンガル。
「おや?そちらの者は…見たことのない顔だ。さては報告にあった最近バンガル殿が連れてきた転移者ですか?」
「はひ、そうです」
実物ノーキンの想像の遥か遥か遥か上をいく気迫に圧され、舌を噛む凡太。
正直小便ちびりそうだ。
「ほぉ、あなた実につまらないですね」
「…え?」
「私やムサシマル殿のような強者には魔法を使わなくても強者が分かる分析魔法のような感覚があります。その感覚によって強者なら何か煙のようなものが見え、その者が強いほど勢いよく体から出てくるのですが…そこにいるレオ殿!あなた強いですねぇ是非戦いたいものです」
レオをみてニヤリと笑うノーキン。それにたじろぐレオ。
「やはり何も見えないし感じないんですよぉ、あなたは。少々の弱者であっても少しは煙が見えるのですがね」
そう言ってアイの方をまじまじと見る。
「つまらないものは戦場にとって邪魔だ。すぐに消さなければならない。よって最初に殺すのはあなたからにしてあげましょう。それではこの後すぐにまた会いましょう」
そう言うと軍団の方へ戻っていった。仕切り直すらしい。つかの間の休息の時間ができたが、全員が恐怖し、目の前の絶対的強者に圧倒されていた。誰も動かない、いや動けない。このまま自分たちがその圧倒的力の前に蹂躙される姿を想像しようとする、
次の瞬間――
「やっべ、小便ちょっともれた。誰か替えのパンツ持ってませんかー!」
凡太が大声で恥を漏らす。それにつられ、
「ボンタこら!少しは空気読みやがれ!」
バンガルの喝が飛ぶ。
「事前に済ませておかないからそうなるのだ」
今度はスグニの冷静なつっこみ。
「いやっ、あんたにだけは言われたくない」
凡太が締める。
「ぷっ…あはははは」
張りつめていた緊張が一気に弾け、笑い合う一同。
「よかったら俺のパンツはくか?」
「なんでぬぎたて?どうせはくならアイさんのがいいな…」
「死ね」
こんな馬鹿らしいことが緊張感のたっぷり詰まった場所で起こっていいのだろうか。そして今やそのたっぷり詰まっていたものもすべてがはじけ飛び、辺りはすっきりとした青空が広がる大地のみとなった。
一同何かが吹っ切れた。
そして思った。やるだけのことはやってきたんだから結果なんて気にせず、どうせ死ぬなら出せる力を全部出して死のうと。1人の何の能力もない男によって、しっかりと闘志を取り戻した一同であった。
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戻ってくるノーキンに兵士が話しかけた。
「隊長。あの転移者…」
「ええ。近くで確認したが間違いなかったですよ。上位スキル“身体能力・魔力量10倍強化”を所持していましたね」
「そうですか。使われたら厄介ですね」
「“使われたら”ですがね。それにあの者からそもそも何も力を感じなかった。おそらく使われたとしても私の力で押し切れるでしょう」
「隊長!」
兵士が制止をかける。
「ええ、分かっています。ムサシマル殿の定石通り、“危険因子は処理に時間がかかるから消すのは後“。分かっていますよ」
「それでは時間がもったいないので、そろそろいくとしましょうか」
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「…というわけで、私の方には攻めて来にくくなっていると思います」
上位スキル名は消さず、待ち時間だけを隠蔽魔法で消すことで囮に使うといった発想と敵の行動予測を話した。
「よく思いついたな、こんな方法」
バンガルが褒めてくれた。
「いえ、私のいた世界の歴史書にも似たような方法があったので。真似てみただけです」
先ほどまで散々馬鹿にされていたが、この方法を話し終えた後からは皆の凡太を見る目が少し変わった。
「これで私の周辺は多少安全になると思うので、村人達と一緒に距離をとります。後はバンガルさん達が時間を稼いでいる間に、村人達に秘策をやってもらうだけです」
「おお、分かった。何かさっきまでビビってたが、今度はワクワクしてきやがった」
「それ俺も」
「いやお前はありえねぇ」
バンガルとスグニの漫才に和やかムードになる一同であった。
そんな空気をぶち壊さんとばかりに、サムウライ兵は陣形を整え突撃準備に入っていく。そして少しの静けさの後、ノーキンがそこら一帯に響くような大声で号令する。
「我に続け!突撃ぃ!」
その声を聞き、慌てて防御態勢に入る5人。向こうが予想以上に速過ぎる。
30m、20m距離をつめてくるその中で村人達が掌を構える。
「何だ?何か仕掛けてくるぞ、皆警戒せよ!」
ノーキンの号令で剣を自分の前に防御する形で構える精鋭軍団。
魔法無効化能力を持っているからこそ、魔法はないと考えて物理攻撃に備えたからだ。
無効化という強力な能力を持っているからこそ生じた“魔法は使ってこない”という過信。その過信によって生まれた隙をあの男が見逃すはずがなかった。
「標的(剣)をわざわざ前に出してくれてありがとう」
凡太の皮肉交じりの礼と共に放たれる雷魔法。
バチバチバチ!!
雷魔法が剣を跡形もなく溶かした。
「よっし!溶解成功&兵士さんも無傷」
無傷で済むことは魔法実験の時に既に試しており、立証していた。どうやら剣を溶かすときに発生した熱や溶けだしたもの、雷の高圧などの副産物も体に損傷を与えるものであるため魔法とみなさたと考えられる。よって体に触れた途端に無効化されたのである。本当にご都合主義のとんでも能力だ。
「何だ?何が起きた?」
うろたえる兵士。無理もない。雷の速度は音の約100万倍あるらしい。まず目で追うことはできない。そんなチート級の超高速魔法のため、敵に考える間もなく、一本また一本と剣を消し去っていった。最後の一本を消し去ったのはとノーキンの突撃開始号令からわずか3分のことだった。
呆然と突っ立つ精鋭軍団。愛用武器がすべてなくなった為、今まで自分たちが磨いていた剣術そのものが使えなくなって絶望しているのだろうか。
「一時撤退!」
ノーキンの一声で撤退していく軍団。
一時的ではあるが念願の休憩時間がやってきた。
「さすがです、ボンタさん。剣術に対抗する手段が剣以外にあっただなんて知りませんでした」
自分より強い剣士達があっさり無力化されたことに興奮したのか、食い気味でほめてくれるレオ君。多分剣を防ぐ方法なら他にも一杯あると思うよ、とつっこみたくなったが今は止めておく。
「武器もなくなったし、この後あいつらどうするんだろうな」
「尻尾を巻いて逃げてくれると助かるんじゃが」
バンガルとアンは半分戦が終わった気で安堵したように話した。ところが、この後あの男が衝撃的な一言で空気を乱す。
「いえ、ここからが本当の地獄です」