災厄の格
グオウルムさんはあれから軍を辞めることを決意したらしい。
私に殺されるリスクを背負ってまで国に尽くすほどの忠誠心もなく、ゴーレム開発なんてお金さえあればどこでもできる。
潔く降参してくれたおかげで殺さずに済んだ。あの人は今、ミルアムちゃんやエルカーシャちゃんと会っている。
魔道具とゴーレムはよくわからないけど通じるものがあって、意気投合していた。
それはいいんだけど、なぜかディハルトさんことソルディさんがやたらとグオウルムさんに突っかかっている。
同じ元四星として負けられない何かがあるのかな? 私にはよくわからないけど。
そんな事後処理もひと段落したから私は思い切って敵の中枢に乗り込んでみた。
「ほう、なかなか異な魔術式が刻まれていると見える」
「あなたが王様? じゃないよね……あそこにいるおじさんかな?」
「ノコノコと乗り込んでくるとはよほど自信があると見える」
仮面をつけた人がなんか喋ってる。まともに相手をしてほしいなら、まず名前を名乗ってほしい。
仮面の人が知らない人を宙に浮かせているけど、これはどういうイベントなの?
あの浮かされている人、どこかで会ったかな? 見覚えがあるような、ないような。
「アザトゥス! おそらくそいつが我が軍を壊滅させた魔女だ!」
「ほほう、陛下! なるほど、魔女! であれば、陛下! あれの魔術式も抽出してよいですかな?」
「いや、殺せ!」
王様が叫んだ後、謁見の間に多くの魔術師達が入ってきた。
まだこれだけの魔術師がいたことに驚きだ。だとしたらちょっと早計だったかな?
私としては敵の戦力を削いで絶望を与えた後、王様に会って二度とミルアムちゃん達に手を出すなと約束させたかった。
でも同じことか。王様以外、全部殺せばいい。
「この者達にはワシが人工魔術式を刻んだ。ディハルトに与えた失敗作と比にならんぞ。全員が最低でもシャモンと同等の実力を有しておるからの」
「へぇ、だったらあんな人に部隊を任せないほうがよかったんじゃない?」
「言われんでも近いうちにすり替えるつもりだったわい。私欲ばかりが先行した愚物など、この時代には不用。これからは忠実な駒さえあればいい」
「駒ねぇ」
要するに都合がいいお人形があればいいってことか。
シャモンはアレだったけど、私は心があってこその結果だと思う。
もしミルアムちゃんが自分の技術を悪いことに使ったなら、それは心の問題だ。
グオウルムさんだって改心したからこそ、ゴーレムを有効利用できる。
じゃあ、この仮面の人はなに? こんなのがいても誰も得しないんじゃないかな?
正義の味方を気取るつもりはないけど、私なりに判断するとこの仮面の人はシャモンと同じくらい救いようがなさそう。
と、考えていたらいつの間にか浮かされていた人が下ろされている。
「ア、アリエッタ……なぜ、お前、が」
「え? 私を知ってるの? 誰?」
「なに……? お前、お前の兄だぞ!」
「え? 兄?」
もしかして私の家族だった人かな? さすがに五百年前のことなんて覚えてない。
でも確かに顔をよく見ると、ちょっと何かを思い出せそう。今はそんなのどうでもいいか。
「名はアリエッタというのか。まさかそこのゲリッツと血が繋がっていたとはな。これは面白い」
「そうみたいだけど、別に気を使わなくていいよ」
「いやいや、だとしたらやはりお前の魔術式を抽出せねばならん! ゆけ! 我が手駒達よ!」
魔術師達が一斉に魔術を発動した。いや、発動しようとした。
全員が停止したと思ったら、どしゃりと倒れる。
「なぁーお」
ラキにかかれば、あそこにシャモンが何十人いても関係ない。
倒れた魔術師達の身体が痺れているみたいで、そして出血している。
こうなるとラキが恐れられていた時代の人達に同情してしまう。これは確かに災厄だよ。
「あ、あの姿は凶神バステル! 伝説の災厄がなぜここにいる! そしてなぜ従えられている!」
「意外と悪い子じゃないんだよ。本に書かれてなかったの?」
「まさかこんなものを拝めるとは! 長生きしてみるものじゃな! だからこそ人生は美しい! では残りの犬と鳥、そこのガキも只者ではあるまい!」
「よくわかったね」
適当に褒めたけど、仮面の人ことアザトゥスは踊るようにして喜んでいる。なんなの、この人。
「かつてないほどの命の危機であるが同時に好機でもある! 災厄を手中に収めれば、いよいよワシの研究も完成する! 魔術などという枠組みなど関係ない! ワシはこの世の王になる!」
「王だと? 寝ぼけたことを……」
「ぬ!」
リトラちゃんが私より前に出た。やる気みたいだ。
いつも剣を抜いているのに今は素手で立って、爪を伸ばした。
「いつの世でも、かき乱すのは貴様のような愚か者だ。たかが人間がわずかに力を持ったばかりに調子づく」
「お、お前は何者じゃ!」
「我が名は邪神竜グリドーラ、愚か者でも聞いたことはあるだろう」
「グリ、ドー、ラッ……! あ、ふっ、あっ!」
アザトゥスがガクガクと震えている。リトラちゃんが本気になればこの様だ。
世界を何度も滅ぼした災厄が自分を殺しにかかってくるんだから、そりゃびびる。
「跪くか? 命乞いか? それとも挑むか? 死に様は選ばせてやる」
「ワ、ワシは三百年もかけて魔術式を完成させた! この魔術式【闇霊】! 死を恐れるならば、死の先にいる者達こそがもっとも恐ろしい!」
リトラちゃんの身体に何かが巻き付いた。あれが闇霊というやつかな?
あれが人を宙に浮かせていたわけか。たぶん人によっては見えない力なんだけど、天獄の魔宮ではゴーストくらい見えないと話にならない。
仮面の人が意気揚々とリトラちゃんを締め上げるけど――
「消えろ」
リトラちゃんの一言で闇霊達が飛散して消えた。仮面の人が明らかにハテナマークを浮かべている。
「は? な、なぜ……」
「死んで生物として終わった分際が、このグリドーラをどうにかできると思ったか」
「ワ、ワシは、ワシは三百年もかけて、完成させたんじゃ……。幾度なく肉体という器を変えてでも……」
「三百年もかけてこの様か。貴様に魔術の素質などない」
世界の頂点に君臨する生物からのありがたいお言葉だ。アザトゥスは床に尻餅をついて、そして戦意を失った。
わかるよ、ここは天獄の魔宮と違ってやり直せないからね。もう二百年あったら強くなれたかな?
「グ、グリドーラ様! お許しを!」
「痴れ者が」
リトラちゃんがアザトゥスの首をはね飛ばした。生首が私の兄らしき人の元へごろりと転がる。
「うわっ! ああぁ! な、なんだ!」
「貴様はアリエッタの兄か? 肉親ならば見逃してやらんでもないぞ」
「リトラちゃん。その人はどうでもいいよ」
私は玉座にしがみついている王様に近づいた。用があるのはこの人だ。
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