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ゼロから始めるハンター生活

 ディハルト、いや。ディハルトさんはあれから王国軍を辞めると決めた。

 王国が自分の居場所と決めつけてしがみつくのがバカらしくなったそうだ。

 烈剣王という圧倒的存在を前にして、国王への忠義やかつての騎士団は本当に大切なものかと考えなおさせられたらしい。

 世の中には私や烈剣王みたいなのがいる以上、戦い続けていればいつか死ぬ。

 その時になって自分は国のために戦えるか。散って本望だといえるか。

 自問自答した結果、答えを出したようでディハルトさんはひとまず戦場から身を引いた。


「私は生きる。生きるために剣を振るう。今は生きたい……何のために生きるか、その意味を見つけたい」


 戦いの延長線上にあるのが烈剣王だとしても、今の自分ではそこに辿りつく前に死ぬ。

 生き甲斐を見つけた上で戦って散ったとしても、少しは人生に意味を見出せると言っていた。烈剣王が言っていた言葉がちゃんとディハルトさんに響いている。

 そう、ディハルトさんは剣を置いたわけじゃない。心を落ち着けただけだ。

 剣は魔術に劣らない。その事実を見せつけられたことで、剣を捨てずにいた。

 剣の道を極めた先には烈剣王がいる。あの強さがディハルトさんにとって憧れになっているみたいだ。

 私はどちらかというと、その意味で烈剣王を転移召喚したんだけど結果オーライってやつだね。

 今は行く当てもないということで私達が住んでいる町に住んでもらっている。家は築年数がかなり経過している空き家だ。

 もっといいところを紹介したけど、今の自分にはこれがちょうどいいと言って聞かない。

 そんなディハルトさんは早朝から庭で剣の素振りを行っていた。


「ソルディさん、精が出るね」

「アリエッタが私に剣の可能性を見せてくれたおかげだ。一時期は魔術という力に圧倒されたものだが、やはり剣の道も捨てたものではないな」


 ディハルトじゃなくてソルディだ。剣帝で築き上げた実績や名を捨てて一からやり直したいと言う。

 兵士の意味を持つ言葉から少しもじってつけたみたいだ。騎士ではなく一兵からやり直すという真面目極まりない意思が感じられる。


「やりすぎて烈剣王みたいにならないでね?」

「私は人の道を極める。その先に剣術の極意がある。それを教えられた」


 そう言ってディハルトさんことソルディさんはまた剣を振り始めた。形がいい筋肉と長身を朝日が照らしている。

 そこへエルカーシャさんがラフな格好で走ってきた。どうやら朝のランニングみたいだ。

 元々体を動かすのが好きみたいで、それでいて健康にも気を使っている。あんな風に運動しているから、スタイルがいい。

 一方でミルアムちゃんのほうが運動嫌いで、エルカーシャさんがランニングに誘っても寝床であと五分を三回ほど繰り返す。


「アリエッタさん、おはようございます!」

「エルカーシャさんは相変わらず元気だね」

「はい。おかげであの工場にいた時よりもよく眠れるんです。そちらの方は?」

「最近、引っ越してきたソルディさんだよ」


 エルカーシャさんがペコリと頭を下げる。家も近いし仲良くなれるといいな。ところがソルディさんが無反応だ。

 

「おはようございます。あちらの錬金工房で助手をやっているエルカーシャです」

「お、おは、よっ、うっ……」

「ソルディさんはハンターなんですか? その大きな剣といい、すごい体つきですね」

「それっほどっ、でも……」


 お、どうしたのかな? なんだかガチガチに固まってる気がするし顔が赤い。

 さっきまでの素振りとは打って変わって直立不動で置物みたいになってる。


「ではアリエッタさん。ランニングに行きますね」

「うん。がんばってね」

「ソルディさんも、これからよろしくお願いしますね」

「何ッ、をっ!?」


 こっちが聞きたいよ。明らかに様子がおかしいソルディさんを気にかけず、エルカーシャちゃんが走り去っていく。

 まだ固まってるソルディさんを指でつつくと、止まっていた時間が動き出したかのように脱力した。


「どうしたのさ?」

「い、いや。なんでもない」

「何でもあるでしょ」

「きょ、今日の素振りは終わりだ……」


 ソルディさんがよろよろと歩き出す。大丈夫かな? と思ったら斜め方向に歩いて家の壁に頭をぶつけた。

 病気? それとも魔術で遠隔攻撃されている? だけど、そういう影響を様子がない。


「ソルディさん。歩ける?」

「歩ける。問題ない」

「それならいいけどさ。これからどうするの? お金が欲しいならソルディさんならハンターが適任だと思うよ」

「助手……」

「は?」

「い、いや。ハンターか、なるほど。私にはうってつけだな」


 やっぱりおかしい。まだ顔が赤いし、熱でもある?

 ハンターをやるにしても体が資本だから病気になってる場合じゃない。部隊を率いていたこの人ならよくわかっているはずだけど。

 とはいえ、初めての町だから私が色々とサポートしてあげないといけない。

 財産はほとんど王都の家に置いてあるみたいだから、私がハンターギルドに連れていってあげることにした。

 ソルディさんを連れてハンターギルドに入ると、ダルクさん達がまじまじと見つめてくる。


「なんだかどこかで見たような……」

「ダルクさん。今日からハンターになるソルディさんだよ。いじめたらお風呂に入ってる時に森の中に転移させるからね」

「そこまでするか?」

「ソルディさん。この人達がハンターだよ」


 ソルディさんがハンター達の前に堂々と立つ。


「私の名はソルディ。ハンターの経験はないが腕に覚えはあるつもりだ。若輩者ではあるがよろしく頼む」

「あ、あぁ……」

「このギルドにはなかなかの強者が揃っているな。見ただけでわかる」

「な、なかなか見る目があるじゃねえか」


 ソルディさんが本音で言ったのかはわからないけど、ダルクさんは単純だから気をよくした。

 私の時とは大違いだ。最初からこうしていれば波風が立たなかったのかもしれない。

 でもおかげで三級に飛び級できたし結果だよ、結果。


「よし! ハンターの心構えってやつを俺が教えてやる!」

「ぜひ頼む」

「ダルクさんはあそこのアリエッタを除けば、このギルドでナンバー2の実力者だ!」

「ほう、やはりな」


 あぁ、ダルクさんをはじめとしたハンター達が単純でよかった。

 すっかりソルディさんを気に入って先輩風をふかしている。実力で言えばあの人達が束になってかかっても一振りで決着できるような人なんだけどね。

 そんなものよりも大切なことがあるというわけか。

 これで一安心、と思ったらリトラちゃんがぐいっとハンター達のところへ割って入った。


「聞き捨てならんな。誰を差し置いてナンバー2などもごぉっ!」

「はいはい。そろそろ剣術道場のお時間だよ」


 調子こき始めたリトラちゃんの口を塞ぎながらハンターギルドを出た。

 ラキやセイも一緒になってリトラちゃんにしがみついて止めてくれているからいい理解者だと思う。

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