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シャモンの微笑

「術騎隊が全滅した?」


 グオウルムは部下からの報告が信じられなかった。

 クリプタ平原に向かわせた偵察用のゴーレムに乗った部下が、一部始終を見て戦慄して今でも震えている。

 逃げる機会はあったが体が動かない。大きく距離が離れているから、逃げても見つからない。

 そう理解していても一歩でも動けば、という不安が消えなかった。ゴーレム隊の兵士が見た一方的な蹂躙は生涯のトラウマとなる。

 ディハルトを圧倒したアリエッタの転移魔術、現れた謎の剣豪による無双は彼の目には虐殺としか映らなかった。

 クリプタ平原から大きく離れた場所で野営しているグオウルムのゴーレム隊は待機を命じられている。

 指示したアザトゥスは術騎隊だけで片付くと見立てていた。用心深くゴーレム隊を待機させていたものの、出番など必要ないと考えていた。

 グオウルム自身も術騎隊が全滅するなど夢にも思わない。人件費の無駄だとあくびをしていたところだ。


「あ、悪魔です……あれは、人じゃありません……。グオウルム隊長、わ、我々は、あれと戦わなければ、いけないのでしょうか?」

「お前の報告によると、魔術師の娘は消えては現れてを繰り返してたんだな?」

「そ、そ、そうです。ディハルト隊長が、翻弄されて……。その後に現れたあの魔物、二本の剣で術騎隊を……瞬く間に……」

「ふーむ。こりゃ魔術師の娘が人間かどうかも疑わしいなぁ。こりゃ参ったぞ?」


 グオウルムが腕を組んで今後の行動指針を考える。一度、退くべきか。

 術騎隊の全滅を報告すれば、さすがのアザトゥスや国王も少しは頭が冷えて考え直す。

 相手は王国最高戦力の一角を壊滅させた未曾有の怪物だ。国王やアザトゥスがそんな化け物を放置するか否か。

 国王はアザトゥスがイエスと言えば首を縦に振る。グオウルムは何よりアザトゥスの思考が読めなかった。

 この事実を聞いてアザトゥスがどういう決断を下すのか?

 人工魔術式を開発する際に人体実験を繰り返したという黒い噂もあるアザトゥスならば、より過激な手段を取る可能性があった。


「やるしかねぇな。ゴーレム隊は術騎隊の弔い合戦に打って出る」

「グオウルム隊長!」

「もし自慢の人工魔術式を刻んだ奴らが全滅したなんてアザトゥスが知ってみろ。怒り狂って更に過激な実験を繰り返すかもしれねぇ」

「あんなジジイの言いなりなんて! 大体あいつは何なんですか! 陛下はあいつの言いなりでいっつも仮面をしてるし! いつからこの国にいるのかもわからん奴ですよ!」


 グオウルムもアザトゥスについては詳しく知らない。彼が王国軍に関わった時からアザトゥスは国王の傍らにいた。

 最初は重臣の一人かと思っていたが、アザトゥスが国王に耳打ちした後に何かの決断が下される。

 それほどの影響力を持ち、国王を傀儡のごとく操っていること自体が不気味でしょうがなかった。


「ゴーレムの最終点検を急げ」

「グオウルム隊長! 本当にやるんですか!」

「なーに。俺が開発したゴーレムは魔術なんか効きやしねぇ。それに正体不明の魔物ってのも、たぶん魔術の類を使っている可能性がある。剣を振っただけで人がまとめて消し飛ぶなんて、魔術でも使わなけりゃあり得ねぇからな。ガハハハハ!」

「確かに……あれはディハルトさんよりも凄まじかった……」


 グオウルムは部隊の士気向上を優先した。自分が大きく笑うことで、部下の不安を少しでも解消する。

 それでわずかな可能性で部下が生き残るならばと、グオウルムは笑顔を作った。部下の肩をバンバンと叩いて元気づける。


「ゴーレムなんて最初は誰も認めなかった。そんなもの使いものになるかと笑われた。だけど俺達はここまで来た。違うか?」

「は、はい。剣も魔術も使えない俺達をグオウルム隊長は導いてくれた……。あなたにはいくら感謝しても足りません」

「ようやくこの国でゴーレム乗りってやつを認めさせられるところまできたんだ。術騎隊の仇をとってやろうぜ! ガハハハッ!」

「グオウルム隊長……!」


 先ほどまで恐怖で震えていた部下が拳を握った。グオウルムが部下の手を握って再度元気づける。


「よーし、じゃあ最終点検を……」

「ちょっといいかしら?」


 野営地のテントに入ってきたのは同じ四星のシャモンだ。アザトゥスの指示通りなら、彼女が率いる部隊は更に後方に待機している。

 グオウルムは訝しがりながらもシャモンを迎えた。


「おう、寂しくて来ちゃったってか?」

「たとえ世界であなたと二人っきりになっても岩を抱いて寝たほうがマシよー。それより話は聞かせてもらったわー」

「そうか。必勝法でも思いついたか? ガハハッ!」

「そうね。ゴーレム隊と魔導術撃隊、共同戦線といきましょう。私にいい考えがあるの」


 シャモンが妖艶な笑みを浮かべて椅子に座る。ゴクリと生唾を飲んだ部下の視線が彼女の胸元に注がれていた。


「まずね、私達が敵を囲うように魔術結界を張るわー。準備に時間がかかるけど、成功すれば一定の範囲を跡形もなく消し飛ばすことができるのー」

「そりゃ大層だけどよ。まさか俺達に囮になれってんじゃねえだろうな?」

「あなた達のゴーレムだから出来るのよー。魔術耐性があるなら、うまくいけば敵だけ消滅させられるわー」

「なるほどなぁ。だけどそんなものすぐバレるんじゃねえのか?」

「クリプタ平原ごと覆うのよー。広範囲だから離れて準備すれば絶対にバレないわー」


 グオウルムは頬をぽりぽりとかいて考えた。ゴーレム部隊だけでどうにかなる相手という確証がない以上、シャモンの提案を受け入れるしかない。

 シャモンの魔術師としての実力は国内最強と評されており、実績においてもゴーレム隊を上回る。過激な作戦だがグオウルムは受け入れることにした。


「わかった! じゃあ、さっそく打ち合わせといこうか!」

「こっちの副隊長を呼んで打ち合わせをやりましょうー」

「浮気されたのによく手元に置いておけるな?」

「半殺しにした後で次やったらちょんぎるって言い聞かせたのよー」


 グオウルム率いるゴーレム隊と魔導術撃隊の共同戦線が決定された。お互いの指揮官クラスの人物が顔を合わせて、より綿密な作戦を練る。

 話を聞くうちにグオウルムは抱いていた不安が払しょくされて、シャモンはほくそ笑んだ。


(こいつのむさくるしい顔も見納めねー。魔導王国の頂点はあんたでもアザトゥスでもない。この私なのよー)


 その微笑をグオウルムは彼女の自信の表れだと考えて、腹の内までは考えもしない。シャモンは楽しくて可笑しくてたまらなかった。

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