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剣帝ディハルトの矜持 2

「代々、己の剣を信じて騎士として仕えてきた身だ。与えられた力に頼る真似などしたくなかった」


 ディハルトがすべてを語り終えた時、私はかっこいいと思った。

 国内で魔術師やゴーレムなる魔導兵器が台頭してきても、人工魔術式なる胡散臭いものが生まれても。

 この人は国の為に剣を振り続けた。この話を聞いてなんだか私は少しだけ頭の奥にズキンとくるものがあった。

 かつて転移の魔術式が刻まれた際に絶望した自分の姿が頭の中に映し出される。

 恵まれない魔術式だからといって磨こうともせず、すべてを諦めて孤独に歩いている自分。魔術式が刻まれず、魔力に恵まれずとも腐らずに剣を振り続けたディハルト。

 昔の私はそこまで必死だったかな? まだよく思い出せないけど、ひどい境遇で生活していた気がする。

 それでも術はあったはずだ。恥ずかしい。実に恥ずかしい。昔の自分がそんなにも情けなかったなんて。


「強いね」

「なんだと? この私が?」

「自分より強い存在に主導権を握られても、あなたは自分を見失わなかった。それって誰にでも出来ることじゃないよ」

「私が強い……?」


 生きたいならもっと頭を使うべきだ。ナイフ一本でも持って命を守るべきだ。

 自分の剣を信じたからこそ、このディハルトは人工魔術式を受け入れなかった。

 自分の剣を捨てられなかったからこそ、今日まで生きてきた。きっとこういうのをかっこいいと言うんだろうな。

 私に負けたけど、だからといってこの人が弱いことにはならない。

 やろうと思えば、あそこにいる部下に命令して戦わせることもできたはずだ。

 自分より強いとわかっている相手に、それでも自分の力を信じて挑んできたディハルトに私は敬意を表した。


「……何にせよ私の負けだ。止めを刺すがいい。しょせん私はあの男の傀儡、ここで果てるのもいいだろう」

「殺さないよ、もったいない。それより」

「おい、いつまで続けるんですか?」


 ディハルトの部下の一人が痺れを切らして、剣を振りながら歩いてきた。

 ふらついた歩き方からして柄が悪く、どこか人相も悪い。瞳に凶暴性が宿ったかのように隊長であるディハルトをギロリと睨む。


「すまない。この戦いは私の負けだ。見届けてくれて感謝する」

「終わったんなら、そこの女をボコりましょうよ。よく見たらかわいいし、たっぷり楽しめますよ。あっちの小さいのはちょっと趣味じゃないんですけど……」

「どういうことだ?」

「嫌だなぁ。隊長、いつもやっていることじゃないですか」

「いつも、だと?」


 ディハルトの表情が強張る。その言葉の意味合いを理解した時、剣を地面に突き立てて立ち上がった。

 私と戦っていた時には見せなかった憤怒の表情に変わって、下衆な部下にいきり立つ。


「貴様ッ! まさか私の目を盗んでそのようなことをッ!」

「あれ? 隊長、気づいてなかったんですか? てっきり黙認してくれたものだと……」

「するわけがないだろうッ! スゲル! 貴様ァッ!」

「はぁ……。うるせぇなぁ」


 スゲルと呼ばれた騎士が片手をディハルトの腹に向ける。ボン、と爆発したと同時にディハルトが吹っ飛んだ。

 もしかしてあれが人工魔術式? スゲルからは確かにそれなりの魔力が感じられる。でもどこか歪で、まるで魔力に着られているような印象だった。

 スゲルの体と魔力がまるで別物のように見えるし、独立した生き物のように揺らいでいる。


「ぐはッ……!」

「あんたの堅物っぷりには前からうんざりしていたんだ。任務の前には酒を飲むなだの騎士道十戒だの、いつまでジジイどもが決めた古臭い決めごとを振りかざしてんすか」

「スゲルゥ!」

「あんただけ頑なに人工魔術式を刻むのを拒んだよな? 俺達はこの力のおかげで救われたんだ。俺に刻まれた魔術式は『爆掌』、体の一部を爆破させることができる。これ、強くないっすか?」


 スゲルが両手を爆破させて遊んでいる。自分にはダメージがないみたいだ。

 スゲルが剣を投げ捨てて、ディハルトに爆破を見せつけた。


「もう剣なんていーらねっ! お前らもそうだろ! 各々に刻まれた魔術式があれば、俺達だって魔術師だ!」

「そうだ、そうだ! アザトゥス様のおかげで俺達は生まれ変わった!」

「ディハルト! あんたの時代なんてとっくに終わってんだよ!」

「今までよくも偉そうにしてくれたな!」


 大勢の騎士達がディハルトに罵声を浴びせている。ディハルトは膝をついたまま、微動だにしなかった。

 顔を上げられずに何も言えない。こんなことになっても、まだこの人は剣を握ることができるかな?

 少しの間、見守っているとディハルトが立ち上がった。


「……お前達の腹積もりはよくわかった。今までお前達がいかに虚像で飾り立てていたか、理解できた」

「そっすか。じゃあ悪いけどあんた、ここで死んでくれるか? そこの魔術師の女は後で可愛がってやるよ」

「お前達もまた国に仇成す逆賊だったというわけだな。よくわかった」

「今、国のお荷物になってんのはあんただよッ! とっとと死にな!」


 スゲルが平手をディハルトに向けた時、片手が飛んだ。ディハルトが剣を振り上げていた。


「あ、あ、あぁぁ! あっ! お、おれのっ! 手ッ! 手がぁ!」

「全員が私を好いていないのはよくわかった。私もつくづく人望がないな」

「ひいぃ! ああぁぁいやぁぁ! た、助け」


 スゲルの頭が宙を舞った。生首が地面に落ちて、ディハルトは部下だった人達を見据える。

 敗北して、部下にも裏切られても。それでも絶望せずにそれでもあの人は前へ進むわけか。

 強い。強いよ。ちゃんと剣を持って立っている。


「スゲルが殺されたぁ……!」

「落ち着け! 敵はたった二人だぞ!」

「あいつらを殺せば王国内で俺達の地位は上がる! 殺せぇーーー!」


 全員が血走った目をして一斉に駆けてきた。それぞれが魔力を帯びていて、様々な魔術を見せつけてくる。

 全身が水で包まれた人、手足が炎で包まれた人、氷像を作り出して動かす人。

 人工魔術式が刻まれた人間はあんな風に形だけの魔術でも使えるようになるわけか。

 魔術式が刻まれなかった人が魔術を使えるようになる。夢のような話だけどあの人達を見て、果たして羨ましいと思える人が出てくるかな?

 殺意と凶暴性を剥き出しにして、どこか品がない。私からすれば、得をしているのは人工魔術式を生み出した存在だけとしか思えない。

 ディハルトさんはあの人達に応戦をしているけど、さすがに数が数だけに苦しそう。私のところにも来たけど、適当に壊転移で頭部を消し飛ばして瞬殺した。


「くっ……!」

「ディハルトォォーーーー!」

「私は倒れん! 最後までこの剣と共に戦う!」


 ディハルトさんが一振りで数人まとめて斬り殺したものの、少しずつ劣勢になる。

 呼吸も上がってきて、それでも気力だけで戦い続けていた。


「まだまだぁ! ぐぅッ!」


 背後から一撃を受けたディハルトさんがついに剣を杖代わりにしながら倒れそうになる。

 その隙を見逃さなかった人達がまた一斉に襲いかかった。ディハルトさんは渾身の力を振り絞って一閃する。

 仲間が殺されても恐怖することなく向かってくるあの連中はもう魔物と変わらない。今じゃ完全に奇声を上げて向かってくる。


「はぁ……はぁ……!」

「ディハルトさん。諦めないで」

「お前はなぜここにいる……逃げようと思えば逃げられるものを……」

「少しだけ考え事をしていた。で、今は答えが出たよ」

「なに……」


 向かってきた数人を壊転移で迎撃した後、私はディハルトの隣に片手をかざした。


「転移召喚。烈剣王」


 そこに現れたのは傷だらけの兜や鎧を装着した人物だった。肌の色は全身が充血したように赤くて、赤い悪魔とも形容できる。

 ディハルトに負けないほど巨大な剣を携えたその人物、いや。魔物は天獄の魔宮四十層の災厄、烈剣王だった。

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