工場制圧しました
ケルベロスが首を垂れてガルムことセイに平伏している。魔物といえど、抵抗しなくなったなら戦う理由がない。
セイのところへ行ってケルベロスを見上げると、ギロリと睨まれた。なるほど、このケルベロスの中にある序列で私はセイより下なんだ。
魔物の中には自分を含めた序列を作っている。相手が自分より上なら従うし、そうじゃないなら見下す。セイは完全にそのタイプみたいで、私はたぶん一番上に位置している。
「ガァァウッ!」
「くぅん……」
なんか通じ合ってる? 私を睨んだケルベロスをセイが上から威圧している。
やがてケルベロスがお座りして私を見据えてきた。こうなったら今更、脅して従わせる気もない。
私はケルベロスと目を合わせた。ケルベロスは三つの頭についた目で私を見ていたけど、頭を床につけてしまった。
「くぅぅん……」
「そっか。セイが認めたなら私を認めるってことね」
「くぅん」
「それなら私からは何もしないよ。ところでここから出たい?」
ケルベロスがバウッと吠えた。今すぐにでも出たいらしい。
それなら決まりだ。元飼い主はあそこで腰を抜かしたままだから念のため、許可を取りにいこう。
私がデルマンに近づくと我に返ったように這って逃げようとした。
「こら、逃げるんじゃない」
「は、はひっ! 勘弁してぇなぁ!」
「あのケルベロス、うちで引き取ってもいいよね?」
「それで助けてもらえるんでっか!?」
「は? なんで交換条件を出してくるの? そんなことができる立場?」
「ひぃぃ! すんまへん!」
デルマンが頭を抱えてブルブルと震え出した。これは了承ってことでいいかな?
セイを通して私はケルベロスと交渉をした。その結果、デルマンを今すぐにでも殺したいとのこと。
術戦課の魔術師総出で捕らえられて閉じ込められたせいでストレスが溜まっていたらしい。
私の下へ来るなら、天界で神獣と仲良くすれば住まわせてあげられる。食べ物にだって不自由しないし、広くて運動にも困らない。
ケルベロスは納得してくれたのか、座り込んだまま尻尾を振っていた。セイと比べて現金な子だ。
ケルベロスはセイことガルムよりも知性が低くて、理解させるのになかなか苦労した。
「それでデルマンさん。ケルベロスは私達で引き取ることになったけどいいよね?」
「いい! いいからもう帰ってくれまへん!?」
「いや、そんなことのために来たんじゃないからね。私はあなたとお話をするために来たの」
「か、金ならいくらでもやる! いくらや!」
デルマンが懐からサイフを出して、震える手でお金を取り出す。懇願するような目で、もうこれでいいだろと言わんばかりだ。
「お金なんかいらないよ。まず一つ、私と私に関わる人間に危害を加えないこと。これはあなたが命令した場合も含む。
もしあなたが関わっていたとわかった時点で殺す。逃げてもどこまでも追いかけて殺す」
「や、や、約束、する!」
「……ホントかなぁ?」
デルマンは激しく首を縦に振る。簡単に信用していいものかな?
信用できないからデルマンの周囲の床を壊転移で消失させた。丸形のくぼみが円形で出来上がり、逃げたらどうなるかを教えてあげた。
デルマンは涙と鼻水に加えて失禁してしまった。ちょろちょろとくぼみに溜まって汚い。
「やくぞくじますぅぅぅ!」
「じゃあ、もう一つ。このズドック工業を改革すること。現状、無理に働かされて従業員が憔悴しているのは知ってるよね?」
「はい! じゅううぶんにっ! 存じておりますわぁぁ!」
「ホントに?」
本当にわかったかどうか確かめることにした。デルマンの額に超手加減した上で神剛の宝玉を打転移。
衝撃でデルアンの頭が弾かれて、床に後頭部を打ち付けた。やばい、やりすぎたかな? 生きてる?
「あ、あ、う、ぎ……あぁぁッ……い、だぃ……!」
「よかった。生きてるね。じゃあ続きだけど、具体的な改善方法をまとめて私に提出してね」
「う、は、はぃ……」
痛みで返事どころじゃないかな? デルアンが額を押さえて涙を流していた。
「落ち着いた?」
「か、か、堪忍をぉぉ! ワイどうすればええのかわからんのですぅぅ!」
「しょうがないなぁ。じゃあ後でアドバイザーを連れてくるから従ってね。あ、この子に危害を加えようとしたらわかってるよね?」
「わかっておりますぅぅぅ!」
涙と鼻水と血でぐしゃぐしゃになっているデルマンが床に手をついて頭を下げた。
残念だけど、まだあるんだよね。私はマジックポーチから一枚の紙を取り出して、デルマンに渡した。
「これは……?」
「これは私との契約書。今、言ったことが書かれているから読んでね。ミルアムちゃんに教えてもらったけど、お仕事をするにもこういう契約書が必要なんだってね」
「これに、サインすればええんでっか……?」
「そう。サインした後に契約に違反したらあなたを殺す。ちなみに私の魔術式は転移。いつでもあなたの下にいけるということを教えておくよ」
「転移……。そんなもんが、あるん、でっか……」
この人は魔術師じゃないから、魔術式には詳しくないんだと思う。でも転移という言葉と実演のおかげで大体の想像はついている。
私がその場で転移しまくると、丸い顔の血の気が引いていた。見栄を張っているわけじゃないと言うことを今一度、教えてあげた。
「わかった?」
「はい! はいはいはい!」
「わかったならすぐに戻って作業に入ってね。しばらく見ていてあげるからさ」
「ただちにぃぃ!」
デルマンが階段を駆け上がって社長室にダッシュした。社長室で私がデルマンに付きっきりで事業改善書の作成作業を見てあげた。
細かいところを指摘するたびに震え上がって、泣きながら修正作業を繰り返す。何度か繰り返したけど今一つ良くならない。
これは生半可なやり方じゃダメだな。私は手を抜かずに指導した。だけどそのやり方がまずかったのかもしれない。
「ねぇ、何度言ったらわかるの? あなたは家畜、言う通りにしないとね?」
「ずみまぜん! 私は無能な豚でございますぅぅ!」
まぁ私は魔王でも災厄でもないから、さすがにミルアムちゃんに頼んでみよう。
別に靴まで舐めろと言ってないし、汚いから顔面を蹴ってやった。
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