天界からの旅立ち
「アリエッタ。改めて天獄の迷宮の踏破、おめでとう」
フェリル達、神獣が祝福してくれた。最後の災厄がちょっと締まらない相手だったけど、ようやく踏破した実感を感じる。
神獣達はよくがんばったなとか、何回殺されたんだとか、色々な言葉で祝ってくれた。
神獣達に囲まれてもふもふに包まれながら、私は今後の行動をどうしようか考えている。
ここに来た時、私はフェリルと出会って天獄の迷宮に挑んだ。だけどなんで私があんな恐ろしいところに挑もうとしたのか、よく覚えていない。
そうなると、私は元々どうするつもりだったんだろうと思わざるを得ないわけだ。
人間界に行ってグリドーラに色々と教えるみたいな目標はあるけど、私自身は何をしたいのかな?
「アリエッタ。これから人間界に行くんだろうけど、何かやりたいことはあるのかい?」
「それがねぇ。ないんだよねぇ」
「今の君の力は私達、神獣と大差ない。正直に言って、これは私も予想外だったよ」
「そこまで?」
「うん。だから人間界に行けば、大体の望みは叶うよ。自由気ままに旅をするのも良し。贅沢をして暮らすのもよし。人間界を支配するのも自由さ」
そうか。私はそれだけの力を手にしたわけか。当たり前だよね。
支配なんてしても面白くなさそうだし、贅沢は十分にしている。だったら、ここにはないものを探せばいい。
フェリルのおかげで何となく行動指針が見えてきた。
「フェリル。ありがと」
「礼には及ばないよ。私はずっと君を面白がっていたのだからね。途中で心が折れて廃人になっても、それはそれで面白いと思っていた」
「最初は死ぬかと思ったけど感謝してるよ」
「ハハハ、何回も死んでるじゃないか」
神獣にとって人間はあくまで観察対象であり娯楽だ。生きようが死のうが、どうでもいい。
でもこの500年間、私はかなり大切に扱われたと思う。
本当にどうでもいいと思っているなら、自分の体に私を寝かさない。
私に何度もまともなアドバイスもしないし、適当なことを言って苦しませることもできたはず。
私はもう本当の親がどういう人間だったかも覚えていない。だから私にとってフェリルは親みたいなものだ。
私の勝手な妄想だけど、フェリルのことはそう思ってる。
「迷っているんだね?」
「え?」
フェリルが私を見透かすように見つめる。やっぱりわかったか。
「君がどこへ行こうが、何をしようが自由だ」
「私が悪いことをしても?」
「それも人間界の行く末さ。まぁさすがに人類全滅はやめてほしいけどね」
「アハハ……それじゃまるで魔王ですね」
私が魔王と言うと、セイがワォンと鳴く。魔王殺しのガルムがここにいたのを忘れていた。
当たり前のようにスルーしていたけど、人間界には魔王なんていたんだ。
魔王に限らないけど、きっと面白いものがたくさんあるはず。私はフェリル達に手を振った。
「じゃあ、行ってくる!」
「いつでも帰ってくるんだよ」
こうして私は人間界に転移した。だけどここで大切なことに気づく。人間界のどこに?
転移先がさっぱりわからないまま私が行きついた場所は――
* * *
「いってしまったなぁ、フェリル」
「キュウはからかう相手がいなくなって寂しそうだね」
つい500年前に出会った人間の少女は元気よく人間界に行った。
最初は何とも思ってなくてただの暇つぶしだったのだけど、私の中で何かがポッカリと失った感覚がある。こんな感覚は初めてだ。
転移魔術の使い手は人間界でもあまりいない。いたとしても、様々な理由で淘汰されてきたのを知っている。
一つは単純に人間達にとって難しい魔術であり、正しく使いこなせる者が出てこなかった。
もう一つ。それは本当にもっと単純である意味、人間に根付く根深い問題だ。
「キュウ。君は転移魔術があそこまでのものと思っていたかい?」
「当然だろ? なんたって俺様が育てたんだからな!」
「今回は真面目に答えてほしい」
「……いや、さすがにびびったよ。ありゃ、俺様よりやべぇんじゃねえのか」
キュウが本音を言うのは珍しいことだ。私と相違ない見解で安心した。
アリエッタの成長こそが転移魔術の答えだ。人は理解できないもの、邪魔なものを恐れる。
そうして排除した結果、転移魔術というものが淘汰された。長い歴史の中、転移の魔術式が刻まれた人間の中にも極めようとした人間はいたのだからね。
だけど、その人間達はすぐに生涯を終える。要は自分達より秀でた者が出ると都合が悪いんだ。自分達の立場が脅かされるんじゃないかとね。
転移魔術に限らない。アリエッタは40層の烈剣王に苦戦して、長いこと突破できずにいた。だからアリエッタは何度も私に相談を持ちかけてきた。
烈剣王も元は人間だ。かつて多くの人々を救って多くの災厄を打ち倒した英雄と称えられた人物も、やがて迫害されるようになった。
烈剣王の力を恐れた人間達は彼を受け入れず、討伐対象としてしまう。
そんなものに関わらずに烈剣王は山にでも引きこもればよかったんだけどね。彼は真面目だった。人々と向き合おうとした。
しかし誰も彼の目すら見ようとしない。こうして烈剣王も人と向き合えなくなり、残ったのは闘争本能だ。
戦いだけを求めて、来る日も強者に挑んで勝ち続けた。そんな日々を送るうちに烈剣王は自我を失ってしまったというわけさ。
私はキュウの隣にいる人物に目をやった。
「アリエッタは数百年も殺され続けようが自分を見失わなかった。かつての自分と比べてどうだい、烈剣王?」
「……私は弱かった」
「そう自虐するなよ。君は強かったよ。でもアリエッタのほうが更に強かった。ただそれだけさ。彼女に別れの挨拶をしなくてよかったのかい?」
「そんなものは不要だ。彼女……主君が私を必要とした時、私はこの剣を振るおう」
アリエッタは最終的に烈剣王を殺さずに勝利するほど強くなった。おかげで烈剣王は敗北を知り、自我を取り戻して今はこうして暮らしている。
だけどアリエッタとは気恥ずかしいのか、ほとんど顔を合わせていなかった。
それでもアリエッタが転移召喚を使えば、彼は剣を振るうだろう。口下手な彼がアリエッタに恩返しをするにはこれが一番なんだと思う。
そこにいる60層の災厄と70層の災厄も似たようなものかな。つまりアリエッタは世界を滅ぼしても余りある力を持つ災厄達を殺さずして従えていた。
私やキュウに同じことができるかとなったら、ね。
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