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チート級お兄様 その2



「まずはお嬢様の得意属性を確認しましょう。こちらの鑑定盤に右手を乗せてください」


 兄妹のやり取りを微笑ましく聞いていた、白い髭を豊かに蓄えた家庭教師であるハインツ翁は、会話が一段落したのを見計らってフランツェスカに白く濁る水晶のような材質の板を見せる。その板の中心には、六つに分かれている円が刻まれていた。

 侯爵夫人から急に、ギルベルトだけでなく7歳の娘の魔法勉強も一緒に見てほしいと依頼された時は驚いたが、会話を聞くに随分しっかりしたご令嬢に育ったようだ、とハインツ翁は思っていた。かつて家庭教師としてギルベルトと対面した初めての日、兄の肩に寄りかかって微睡んでいた幼子を思い出して思わず頬が緩む。子どもの成長とは早いものだ。


「はい。よろしくお願い致しますわ、ハインツ先生」


 フランツェスカはこれから指導してくれるハインツ翁に、覚えたばかりのカーテシーを披露してから鑑定盤に手を乗せた。

 フランツェスカの身長に合わせて屈んだハインツ翁は、好奇心でいっぱいといった表情をしている彼女を見て微笑みながら説明をする。


「お嬢様、鑑定盤と言うのはその名の通り、この板に触れた魔力の得意属性を鑑定する魔道具です。魔力の流し方は分かりますか?」

「魔力の流し方? うーん……お恥ずかしながら、どうやるのかわかりません……」

「では、まずはイメージからです。魔力は身体の中を循環しています。身体の中に魔力が流れているのをイメージして、それを一時的に右手に集中させてみてください」

「うーん……難しいですわ……」


 15歳になったフランツェスカは当たり前のように魔法を使っていたが、その感覚まで覚えているわけではない。まず身体の中の魔力の存在すら知覚出来ていないのだ。右手を鑑定盤に乗せたまま首を傾げるフランツェスカを見かねて、ギルベルトがフランツェスカの左手を取った。


「ツェスカ、僕がおまえの左手に魔力を送る。それを知覚できれば、自分の魔力もイメージしやすくなるはずだ」


 それと同時に、ギルベルトに手を取られた左手から暖かな感覚が伝わる。熱のように感じるそれは、左手からフランツェスカの身体を巡るようにして溶け込んでいった。


「左手から暖かな何かが溶け込んだように感じましたわ!」

「それが魔力だ。ツェスカにも僕と同じように、その暖かな何かが流れているんだ。今度は、その暖かなものを右手から鑑定盤に送るようにイメージしてみろ」

「はい、お兄様!」


 フランツェスカはギルベルトの言う通り、暖かな熱を右手から鑑定盤に送るのをイメージする。すると鑑定盤は一瞬大きな光を放ち、次に六つに刻まれていた円の二箇所が、赤い光と白い光をそれぞれ放った。


「光りましたわ! これは成功ですの?」

「素晴らしい、これは炎属性と光属性の二種があるという印です! 坊っちゃまの全属性の光を実際にこの目で見た時も驚きましたが、お嬢様も希少な二属性持ちとは……いやはや、当代のクラウゼヴィッツ侯爵家に家庭教師として選ばれたことは、私の一生の自慢になるでしょう」


 炎と光の二属性、と言われてフランツェスカは首を傾げた。前世の記憶では『フランツェスカの得意属性は炎だ』と言われていた。光属性との二属性持ちだったなんて情報は無かったはずである。


「あの……本当に私が二属性持ちなのでしょうか? お兄様の魔力と混ざっちゃったとか……」

「僕が流した魔力は微量だし、仮に本当に僕の魔力が混ざっていたら六属性全てが光っているはずだ。これは間違いなくツェスカの魔力だぞ」

「その通りです。六属性持ちの坊っちゃまの魔力の中から一属性か二属性だけ光る――というようなことは、鑑定盤の構造上ありえません。お嬢様は素晴らしい才能をお持ちですよ」


 ニコニコしているハインツ翁には申し訳ないが、未来の自分を知るフランツェスカにとっては、自分が二属性持ちなどにわかには信じ難い。そう思って仮説を立ててみるものの、ギルベルトにあっさり否定されてしまった。家庭教師であるハインツ翁からも補足されてしまっては、本当なのだと信じるしかない。


「(全部が全部、ゲームと同じとは限らないってことかしら? まぁ違うといえば、私に前世の記憶があるという前提から違うわけだし……)」


 フランツェスカは無理やり自分を納得させて、ハインツ翁の話に耳を傾けることにした。少なくともここで悩んでも、自分の属性は変わらない。


「お嬢様。二属性持ちは希少ではありますが、他人においそれと自分の属性をひけらかすのはいけません。何故だか判りますか?」

「何故? えっと……自慢するのがダメってことかしら?」

「ほっほっほ、そうですな。私のような一属性しかない者にはお嬢様の二属性は羨ましいですとも。得意属性とは、翻って自分の弱点を晒していることになるからです」

「あっ、そうだわ。私が炎属性と光属性が得意ってわかったら、相手は水属性か闇属性で攻めればいいってバレちゃうってことでしょうか?」

「その通りです。お嬢様はもう魔法属性における有利不利の関係をご存知なのですね。勉強熱心で大変よろしい」

「え、ええ。属性のことは本で勉強しましたの」


 本当は前世のゲーム知識だとは言えないフランツェスカは、慌てて本で予習していたことを匂わせる。そこではたと兄の属性を思い出し、思わず振り返った。


「ということは、お兄様は全ての属性が弱点ということになりませんか!?」


 水を向けられたギルベルトは、フランツェスカの疑問に緩く首を傾げる。


「まぁ、理論上は。でも、全部弱点だから、逆に意識しないというか……受けるダメージは何属性だろうが全部同じくらい痛いだけだしな」

「な、なるほど……? 何を受けても全部一緒だから、逆に弱点を意識せずにいられるのですね……」

「私も最初はそこが不安だったのですが、慣れて魔法の練度が上がってくれば気にならないようですね。魔力が体内で循環している人間には、元々魔法に対する抵抗力があるのです。炎は物を燃やすことが出来ます。これを人に向けるのは危ないのに、何故、炎魔法は許容されているのか――それは、魔法で作り出された炎は、魔法抵抗力のある人間には効きづらいからです。何度も魔法を使い練度を上げていけば、より体内の魔力は練り上げられ、魔法抵抗力も高まっていきます。仮に今のお嬢様が全力で坊っちゃまに炎魔法を放ったとしても、坊っちゃまは火傷一つ負わないでしょう」

「そうだな。むしろ暖かくてちょうどいいくらいかも知れない」


 つまりゲームでいう経験値とレベルの話だろう。属性によって有利不利があっても、レベルが高ければ被ダメージはそこまで気にする必要はないし、そもそもゲームの演出で炎といった危ないものを人に向けて大丈夫なのか、という問題も魔法抵抗力で強引に解決できる。

 ハインツ翁の話を誰にでも分かりやすく数字で見せるなら、経験値とレベルになるということね、とフランツェスカは頷く。理論としては解るが、やはり数字で表されるレベルの方が自分の強さが判りやすいのに……とフランツェスカが内心ため息を吐いた瞬間、ふと視界の端が水色に光った。


「あら?」

「ん? どうした?」

「いえ……今何か……いいえ、光が反射しただけかもしれません」


 ギルベルトの問いに答えようとフランツェスカがもう一度その方向を見ても、そこには何も無かった。



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