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チート級お兄様



 ギルベルト=クラウゼヴィッツ侯爵令息。

 妹であるフランツェスカとは対照的に、旋毛周りは白銀、そこから毛先にかけて鮮やかなライトブルーにグラデーションしていく髪を持つことから、後の社交界では『蒼炎の貴公子』と呼ばれることになる美少年である。長い睫毛の下から覗く瞳はフランツェスカと同じ赤色で、未だ幼い妹が魔法の勉強を始めるのが心配だとありありと目で語っていた。


「可愛い妹よ。僕はおまえが僕より一年も早く魔法の勉強を始めるのが、心配で仕方ない」

「だって、早くお兄様に追い付きたいんですもの。それにわたくしが魔法を使えれば、自分の身を守ることもできますわ」

「おまえがそんなことをする必要はない。僕がツェスカも母上も守る。そのために強くなったのだから」


 この『夕闇の学園と黄昏の君』というゲームの魔法には、四つの基本属性――炎、水、土、風と、二つの特殊属性――光、闇がある。

 古代は自然を司る四つの基本属性のみだったが、徐々に基本属性に属さない魔法属性を持つ者が出てきたことから、新たに特殊属性として光属性、闇属性が加わったらしい。


 ゲーム的には、炎は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は炎に強く――という四すくみプラス、互いが互いに強い光と闇の組み合わせだ。

 この国の人間はこの六属性の中のいずれか一つを得意属性として生まれ持つが、練習すれば得意属性以外の属性も使うことができる。

 例えば日々の生活に魔法を使う平民はあまり自分の得意属性を意識せず、洗濯には水属性魔法、料理には炎属性魔法など、その場その場に応じた生活魔法を使って生きていく。

 しかし、学があり魔力の高い者が多い貴族は、自分の得意属性を磨き専門職に就くことも多い。炎属性魔法による攻撃魔法を極めて魔導師団に入ったり、土属性魔法を極めて地質調査などの学者になる者もいる。

 そして古い血の残る貴族の中では、いずれか一つとされている得意属性を二つ保持する者もいる。ゲームの舞台がほぼ貴族しかいない学園なので当たり前のように得意属性が二つの者がゴロゴロしていたが、二つの属性を持つ者は国内でも10%に満たないらしい。


 では、魔法の天才と呼ばれるギルベルトの得意属性は何個あるか。


 ()()()()である。


 そう、ギルベルトは攻略対象の中でも、公式が認めるチートキャラだった。


 『夕闇の学園と黄昏の君』は、乙女ゲームと銘打っていながら、戦闘システムは本格的なRPGと同じくらいの難易度だった。ターン制のコマンドバトルかつ、有利不利が判りやすいので元からRPGをやり慣れているユーザーからしてみれば苦ではなかっただろう。

 キャラクターによって自分の好きなようにパラメータを割り振ることができ、得意属性一点強化型にするか、全属性満遍なく育成するか等の育成要素もあった。その上で使える魔法や補助スキルも自分で設定することが出来るので、同じキャラクターでもユーザーによって全く違う性能になるシステムだった。

 これらのやり込み要素はRPG慣れしているユーザーからは歓迎され、自分の考えた最強構成の推しをSNSで紹介するのが流行った。しかし、自由度が高すぎて何をしていいのか解らないという戸惑いの声も上がったため、運営が実装してきた答えがギルベルトだ。

 得意属性はまさかの全属性。攻撃力の基本となる基礎魔力の数値も最高水準、設定できる魔法やスキルも幅広い。つまり、何をどうしようが()()()()のだ。たとえスキルで使えるバフの種類と魔法が噛み合っていなくても、得意属性ボーナスの恩恵だけで攻撃力は常に1.4倍。そもそもバフといった補助を使わなくとも、基礎攻撃力に2.0倍が掛け算される有利属性で殴れば大体のステージはクリアできる。しっかり育成すれば高難易度ステージですら単騎でクリアできる程のヤケクソ性能だった。

 ゲームを始めてすぐ、特に推しが定まっていない場合は、とりあえずこのギルベルトさえ初回ガチャで引いておけば少なくともバトル面は安泰と攻略サイトでも言われる程。フランツェスカの前世でも当然のように課金してガチャを引いていたらしい。


 フランツェスカの前世では、当時のギルベルトの年齢は19歳。勿論、11歳の現在ではあれ程のチート級ではないだろうが、7歳であるフランツェスカにとっては心強い味方であることには違いない。

 そして、ギルベルトはとても家族思いなのだ。先行プレイアブルキャラクターとして実装されてはいても、本編シナリオでは未だ19歳のギルベルトは登場していなかったので、あと8年後、兄妹がどんな関係性になっているのかは分からない。しかし、少なくとも今までのギルベルトは、フランツェスカが『無条件で自分の味方をしてくれる』と確信できる程に、妹に甘い“お兄様”だった。


「お兄様ばかりに負担を掛けるわけにはいきませんわ。私だってクラウゼヴィッツ侯爵家の娘ですのよ!」

「可愛いツェスカ、おまえの気持ちはとても嬉しい。しかし兄とは妹を守るために生きるものだ。それが兄の使命だ」

「お兄様、頼もしいですがそれを言い切ってしまうのはちょっとどうかと思いますわ」


 フランツェスカは無限に頭を撫でてくるギルベルトの手をやんわりと外しながら言う。

 ギルベルトの個別ストーリーは未だ実装されていなかったため断言はできないが、ギルベルトは19歳になっても婚約者がいなかった。乙女ゲームの攻略対象なので婚約者がいなくても当たり前だとは思うが、この国の貴族は18歳でのデビュタントまでに婚約者を見つけるのが普通だ。15歳から三年間学園に通うのは、同世代の貴族との交流の他に婚約者を見繕うためという意味合いもあるのだから。

 まさかシスコン過ぎて女性たちから敬遠されていたとかだったらどうしましょう、と少しだけ未来を知っているフランツェスカは兄の将来を案じたのだった。




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