会議
妖精の歌7
【承前】
「ここはどこ?」少年は訊く
「既に必要なデータは脳内にインストールされている」
球体は答える
人の脳はコンピューターのメモリではない
妙にはっきりとしたイメージと
ぼんやり霞んだイメージが互いに主張し
絡み合っている
なので少年はさらに訊く
「荒唐無稽すぎて夢としか思えないのが、そのデータ?」
「肯定」
【花の記憶】砂漠のダンジョン
マリーとツノウサは花の匂いに浮かれてはしゃいでいる。
デュプリケイトコアは花々を検分する。
確かに、砂漠では雨の後、花が咲く事はある。
だが、こうまで艶やかに咲き誇るのは先例がない。
「魔素濃度が高いですね」
「魔素が肥料になるとは知らなかった」サルー
「私もです」デュプリ
「小さなダンジョンの魔素氾濫と関係してるのかも、知れませんね」同
「例の勇者召喚の余波とやらかい?」
「肯定」
わうわうわう
ふしゅーふしゅー
取って来い遊びを御所望だ。
「何か判ったら教えてね」
そう言ってサルーはボールを取りに行った。
【休憩中】小さなダンジョン
三娘には役割分担の様な物がある。
いつもそうであると決まった物でも無いが、
Aが大まかな構造を決め、
Cがコーディングし、
Bが不具合を見付ける。
それが一番効率が良いと[数十年]の間に学習した。
「数十年?」AB
「筑波で五年、ナサで二十年位、後虎治の所で十年位?」C
「まて、なんで知ってる、てかウチラ召喚されてから六年経ってないし」B
「あー、筑波で一緒だったの思い出した」A
「同じような会話、これで五回目位。またすぐ忘れるぽい」C
「記憶制限?」B
「あれ?なんの話ししてたっけ?」A
「制限に引っ掛かると忘れるのね、成る程」B
カラスの仮面を取り出すC。
「耳栓召喚って来る」
【改革】南イバーラク
「妾は一兵卒として戦った」サスケラは語る
「戦場で知ったのは、生まれついての身分と、人の器に何の関係も無いと言う事だ」
優れた指揮官だとサスケラが認める、
ミーシアやアサミ、マリコは
ごく普通の市民の出で有ったと言う。
空軍では、サルーが教育制度を改革した。
平民でも士官の道を辿れる様にだ。
そのサルーにした処で、
出自は、
たかだかユンカーに過ぎない。
「故に、貴族制度を撤廃する」
ユンカーも貴族だ。当然動揺が走る。
騎士団は国軍に編入され、当然俸録を貰う事になる。
参軍義務は廃止され、税を納める事になる。
国政の為の人材の確保に初等教育を義務化する。
優秀であるなら中等、高等へ国費で薦める。
「家名を誇るなら実を示せ」
この叱咤が、実力主義の気風の強いユンカーに刺さった。
ユンカーを取り纏める騎士団団長は、天空の城を訪れた。
「モイの家称は残して戴きたく」
「もとより、そのつもりだ。家名に懸けて平民に遅れをとるな」
サスケラはニヤリと笑う。
競わせる事の価値もまた森の兵学校で学んだ。
貴族制度を廃止する事で軍府も廃止される事になる。
空軍府は解体され、人員は暫定的に騎士団に編入された。
領は、森に近い飛び地である事から、
ユグダ郡として郡長を置いた。
誰もが意外に思った事に、捕らえられた首脳部を官職から放追したのみで、然したる処分は行われ無かった。
勿論クーデター時の高官殺害については別である。
「一人も洩らすな」
サスケラはそう命令した。
【戦闘】ツァロータ王
「この辺に敵は居無かったのでないか?」
「頭をお下げください陛下!」
小部隊ではあるが、無視できない規模の兵が展開していた。
陣と言うより、ただの野営である様にも見えた。
偵察を兼ね先行している猟兵分隊と分断された形だ。
「早速活躍して貰うぞ!」
王はキラキラした眼で、ロックバグ小隊に宣言した。
「護衛を命じられているのですが」
「もたもたして、一人でも取り逃がしたら、却って余の身が危険になるぞ」
この王様、眼を離したら勝手に突撃するんじゃなかろか。
小隊長は、そう思わぬでも無かったが、確かに王の言う事にも理はある。
「分かりました」ため息混じりに小隊長
「騎乗ゴーレムが突入したら、混乱した敵を狙い打て!散開!」
一人も逃すな、猟兵小隊長は命じる。カンウー軍小隊は、王の直衛だ。
程無く殺戮が始まった。
【転移門】キーナン
メイデン隊はキーナンでは無く、小さなダンジョンの新領に帰着した。森へは転移門を使う。ならば、ここの方が近い。
「あらあらあらあら」
メイド服の少女がわたわたしながら、門の設営を指揮している処だった。
「ごめんなさいねー、プヨ様やドロシー様なら指先一つでヤっちゃうんですけど、私慣れてなくて」
キャシーは、マティの50%版である。能力は半分だが召喚コスト、ランニングコストがどちらも一割未満だ。サスケラでなくドロシーが召喚したのでそうなった。それでも十分なのだ。
転移門から小型の飛空艦が出てきた。機数分の森人を降ろし、キーナン人を乗せてキーナンへと向かった。転移門はコストが嵩む、この方が魔素の消費が少なくて済む。
【生き延びる為に】共和国
空軍がつかえなくなった。
総ての戦略を見直す必要が、共和国に出来た。
「ツァロータは切り捨てるしか無いでしょう」参謀部長
「陸軍は退くか?」執政官
「退かなければ、反乱軍と認定する必要がある」水軍元帥
「崩壊した軍府の長に認定された処で鼻で笑われるだけだがな」
他人事の様に言う陸軍元帥
「敵が、国境を越えて来るのを防ぐ為だ」水軍
実の処、三か国軍にツァロータのイバーラク陸軍を打ち破る力があるか疑問だ。だが、長引けば周辺諸国の参戦を招きかねない。
サスケラが、自国の民を救うためとして、共和国の併合に乗り出す可能性も在るのだ。そうなれば詰みだ。
早々に三か国軍を駆逐するなら良し。
軍令部は、期限を切った。
三月以内に駆逐出来る見通しがなくなれば撤収せよ。
令に反すれば反乱軍と見為し、内外に公布する。
これはツァロータ駐留軍司令部の士気を大いに下げた。
「ツァロータ王を討ち取るしか無いのではないか」
それに賭ける事にした。
【JIN】小さなダンジョン
「お代は要らない」程無く戻ってきたC
「良かった、二人して忘れまくりながらだから、会話がスパゲティーで、しんどく為ってきたとこだった」A
「三百歳くらいのお年寄りになった気分」B
「あ、それもコードぽい」C
「何の話し、してたっけ?」AB
「つまり、今日のテーマがコードのすぐ側の話題って事?」付帯脳を耳に嵌めてA
「みたい」C
「これ着けても聴こえ難くなら無いのね」B
「お年寄り向けだから、多分補聴器」C
「誰が制限したんだろうね」Cの仮説を意識的に忘れるA
「コア様かな?」Cの仮説を聞かなかった事にしたB
「ドロシーなら、知ってるかも」C
ドロシーはマティのデュプリで、マティはコアのデュプリである。
情報の共有が期待できる。
「お呼びですか?」ドロシー
「聴いてたよね?犯人はコア様?」A
「JIN様ですね」ドロシー
「誰?!」ABC
「オリジナル虎治様の管理型情報子制御機構です」ドロシー
「はあああ?!」
なぜ知っている、との質問を先読みして、
「コア様は、JIN様のデュプリケイトで、オリジナル虎治様の艦隊の1隻がアーカイブに取り込まれた後、歪の虎治様のプロシージャとして、神樹様に召喚された物です」
「従って、その係累の私達デュプリもJIN様の情報の一部を共有しています」ドロシー
なぜ、いままで、黙っていた。
訊かれなかったからです。
その辺のやり取りは、紙面の都合で割愛する。
デジャブだし。
「ドロシーに訊けば、この会議要らなかったんでね?」B
「・・・」黙って頷くAC
【騎兵大隊】ウーシャラーク
大隊は緩やかなダクアシで進んでいた。人で言えば軽いジョギング程度に当たるのだろうか。軽装の歩兵も随伴しているのだ、これ以上速くは進めない。
歩兵達は唄を唄っている。行軍歌で、そんな事をして疲れないかと思うのだが、歩調に合わせて歌えば却って疲れないのだと言う。
慣れが大きいのだろう。
国境は未だ遠い。
【艦隊】小さなダンジョン
「では、オリジナルが召喚されたのはこの世界では無かった?」
木目は、休憩中に重要な進展が有った事を知り、驚いていた。
確かにコアとそのデュプリケイト達は、その他のダンジョンプロシージャと比べて異質ではある。しかし、妙に新樹との共通点も在るのだ。
「繰り返しオリジナル召喚の痕跡を探しましたが、この世界のアーカイブには存在しませんでした。恐らく、召喚が完結する寸前に、該当する世界で、故意的な術式の破壊が有り、弾き飛ばされたのだと、推測されます」ドロシー
「弾き飛ばされた後、此方の世界線に接触した・・・」木目
「私の載っていた艦は激突ですね。他の艦も同様かと思って居たのですが、此処の処の事象から少なくとも一艦は軟着陸しそうです」
「艦隊を召喚する程の巨大な術式の構築は、実質不可能では?」A
「召喚対象は、虎治様お一人ですね。JIN様が召喚ラインに取り付き、時間軸を傾け数百年の余裕を作り出したので、艦隊の構築が可能になりました」ドロシー
「あ、三百歳くらい位のってのが、ワード制限になってるの、それ?」B
「さようです」
三娘は、自分達もその艦の一つに乗っていたらしいと、気付いている。だってそこのプロシージャぽい何かに制限受けてるぽいし、なんか思い出しそうな感じだし(耳栓のお陰で)。
「艦隊構築の理由は?」木目
「当該世界の人類の再構築と」そこで言葉を切るドロシー
「復讐です」
粗雑な式であったらしい。発動すると同時に虎治の世界は崩壊した。
JINがラインに取り着く事が出来たのは、奇跡としか言い様がない、ナノセコンドのタイミングであった。
再構成された虎治は、復讐をJINに命じた。
もとより、JINが消滅した人類を再構築する段取りを取っていた事もあり、僅かな修正で狂暴な軍団が作り出された。
三百年掛かった。
「待て、オリジナルは生きてはいないのか」中尉達の一人ナヨ
殆ど理解できない会話が続いていたが、この辺りは流石に解りそうだ。因みに、彼等の感覚ではドロシーは、上司ではあっても同格だ。なので、敬語はつかわない。
「召喚年齢が十四歳なので、一年毎に脳を含む肉体をリセットしていました、でないと式が弾けますので。あるいは、その度にアルモニコスが発生したのかも知れません」
「虎治の死に戻りとは違うの?」A
「死に戻りでは年齢をリセット出来ません」ドロシー
「記憶は?」C
「JIN様の、アーカイブへのアクセス能力は未熟でしたので、別空間に記憶領域を確保していました。魔素=情報子は極めて潤沢でしたので出来た力業ですね」
アーカイブを使っていないのに、出来る?その疑問はスルーされた。面倒な説明が延々と続く事に為るだろうからだ。
「うっへー、三百人の虎治かー」B
「リセット一回で一人のアルモニコスとは限らない」木目
「発生するなら、数人になる公算が高いですね」頷いてドロシー
無数の虎治の考察は枝葉である事から、オリジナルの出現への対処に話は移っていった。
【眠れる姫君達】アリス
とっくの昔に話しに着いて行けなく
為っていた、二人の姫君は、
すやすやと寝息をたてていた。
手の空いたキャシーも
再開された会議に参加していて
姫君達に毛布を掛けた
プロシーはゆっくりと揺れている
揺り籠の積もりなのだろう
夢の中で子守唄が流れている