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妖精の詩  作者: 南雲司
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メイデン

[欠片かけら]

 ツァロータにはサルーの空軍に鍛えられた精兵、降下猟兵団が居る。王城を脱出したツァロータ王を近衛と共に護り森に潜んでいた。

 歴戦の飛空艦は残念ながら鹵獲されてしまったが、基幹となる魔石は抜いてあるので、空軍ならいざ知らず、陸軍では運用等出来ないだろう。


 夜陰に紛れ出撃する。糧秣を奪い、敵を疲弊せしめるのだ。地の利は此方に在る。数年に渡り駐屯しているとは言っても、所詮は異国人、隘路の隅々まで知っている分けではない。次第に、薄く薄く展開し、靴底に紛れ込んだ一欠片の小石の様に、降下兵達は敵をなずませる。


[探し物]

「あれ?なに探してたっけ」

 三娘Aが独り言ちる。暇を見付けては、お宝の山を整理しているのだが、勿論さっぱり進まない。嫌気がさして仕舞いそうなものだが、時折変な物があって、意外に嵌まる。


 今は、何かしら必要な物があって、確かこの辺にあった筈だと探し始めたのだが、連続で変な物に嵌まってしまった。

 一つは全自動耳掻き、刻まれた術式を解析すると、なにやらトンデモルーチンが天こ盛りで嵌まってしまった。耳掻きをするとリラックスできて、頭痛も治まり便秘治るという優れ物だ。


 もう一つが、今手に持っている超分子振動接着機で何でもくっ着けてしまう。短期記憶装置が付いており、くっ付けた物を元通りに剥がす事も出来る。手を床にくっ付けてしまった時は焦ったが、お陰で無事元に戻った。

 だがしかし、記憶の一部まで剥がされてしまった。いや、それは魔道具の所以ではないと思うのだが、結果的に、まるっと忘れた。三娘Aは、探し物が何であったかを探し始めた。


[メイデン]

 その遊びはキーナン魔法大学で始まった。地面からほんの僅か浮いた板の上に立ち、バランスを取りながら、地表を滑る。勿論複数の魔法を組み合わせての事だ。

 [車椅子]依頼、足繁く大学を訪れる様に為っていた軍務卿の目に留まり、その板は、陸軍に買い取られた。

「此れは、空間魔法の応用ですかな」

 魔法省に持ち込んでみたが、手に負えないと突き返された。已む無く、再び大学に戻る。学業を理由に断られる事は目に見えているのだが、此のままでは軍用には為らない。

「研究や開発であれば、学業のうちですので御協力は出来ます」

 幸いな事に色好い返事、量産は小さなダンジョンを通して森に頼む事に為る。

 高度十メートル以下の極超低空を疾走する機体が開発された。[メイデン]と名付けられた。


[オアシスの花]

 砂漠にも季節はある。唯々熱いだけの季節、砂嵐の吹き荒ぶ季節、極短い雨の季節。雨の季節とは言うが、その時期なら雨の降る事もある、と言うだけではある。そして、屡々《しばさば》砂漠に、大河を作る。その季節に歩き易い河床に留まってはならない。砂漠で最も多い死因は溺死なのだ。

 サルーのダンジョンは豪雨の地域からは外れていた。とは言っても比較の話であって、三日三晩ダンジョンから出る事が出来なかった。漸くの事、上がった空を視ようと外に出たサルーは思いがけない物を視た。


 オアシスの木々一面に花が咲いていた。


[新機軸]

 [メイデン]の量産タイプの設計は、案の定と言うか三人娘達の担当になった。騎士団の母艦用の魔石は、何とか一回り大きめの物に慣性と隠蔽を押込む事が出来て、後は適当にサボろうと思っていた矢先である。

「シャオ様は理不尽」

 三娘Cは勿論聴こえない様にこそっと呟いたのだが、残念シャオは地獄耳である。

「高度十メートルで安定して巡航可能にする」

 シビアな条件が追加された。

 [メイデン]は底面から極近い存在を対象に強い斥力を発生させて浮かぶ仕組みだ。斥力を十メートルに設定すると、勢い余って十数メートル迄上がってしまう。それから、数メートル迄下がり、十メートルラインを中心に振動を繰り返す。

 それを自動でピタリと留めろと言うのである。


「ぴえん」ABC。

 色々条件を変えて、丁度良い斥力勾配を見付けねばならない。


[連合艦隊]

 打診はしてみたが受けて貰えるとは思っていなかった。ウーシャラークに何ら益の在る話では無いのだ。キーナン公は、首長自らが出陣すると言うウーシャラーク軍の為宴の準備を命じた。


 太守カンウーを通じて、ツァロータからの援軍要請が来た。カンウーに取っては益の在る話だ。イバーラクとの間に緩衝地帯が出来る事になる。キーナンに取っても、そう悪い話では無い。将来カンウー領が抜かれれば、イバーラクの大軍は直ぐにキーナンに殺到する。水車や、魔石の取得に制限の在る今の内なら、ツァロータからイバーラクを駆逐するのは可能だろう。ウーシャラークにはその様な地勢的な不安はないし、多少の謝礼は出るにしても、軍費を上回る事はない。持ち出しなのだ。しかし、その疑問は直ぐに解ける事になった。

「婿どの」首長は、キーナン公にそう呼び掛けた。オルファ姫は、姫自身の観測とは違い、首長に取っては目に入れても痛くない末娘で在ったのだ。娘の安全を期する為に万全を尽くす。その為の出陣であった。

 翌朝、四隻の新鋭艦が東へと向かった。


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