妖精の歌
妖精の歌24 エピローグ
【監視軍】サルー
「へ?もう終わっちゃった?」サルー
突入部隊の奇襲と勝利はサルーの処へも届いた。
『なので、監視軍としてオリジナル軍の撤退を見届けて』シャオ
監視軍の仕事は、言ってみれば、中原周辺諸国や沿岸諸国から、オリジナル軍を護る事だ。
「なんだかなぁ」サルー
神樹同盟軍総指令官サルー・モイ・チュダイ元帥はぼやきながら出動した。
【南大陸】オリジナル虎治
「再召喚が、阻害されている様です」南のJIN
「あの、三人かい?」オリジナル
「恐らく」
三娘は、方舟で極初期に召喚したグループに属している。即戦力になる有能なグループだ。
訊けばJINを作り上げたのだと言う。極めて優秀なシステムエンジニアで、JINは三娘の記憶が戻り次第、管理権限を渡すのだと言った。
虎治には九十九遣いが、ある。何の不都合も無い様におもえた。
が、次第に三娘を支配する事が困難である事が解ってきた。
のみ為らず、三娘の影響からか支配から脱却する者もじわじわと増えてきた。
早い時期に、三娘をパージする事を決めた理由だ。
「それより、どうも妙なんだ」虎治
肉薄し顔にゴム棒をぶつけて来た劣化体を吸収した筈なのに、強くなった気がしない。
「情報子親和性の上昇がありません。直前に反射フィールドを張らざるを得なくなった為、弾いてしまったのかも知れません」JIN
今のJINは人形では無く、球体である。以前より二回り程小さい。恐らく、各艦に配置されているデュプリケイト達より能力は低くなって居るだろう。
「そう言う事か」
なら、彼にも負けた事になる。
超回復のギフトで治ってい無ければ為らないのに、
額の痣は消えていない。
リベンジが必要だ。
次の機会を待つとしよう。
【鍛練】歪の虎治
完璧な踏み込みだと思ったのに、届かなかった。
虎治はこの世界に召喚されてから、初めて悔しいと思った。
鋭く!もっと鋭く!
虎治の素振りは延々と続く。
【召喚】三娘
「ただいまー、帰ったよー」B
三娘が帰還すると、沢山のキャシーが酒瓶を抱えて床に転がっていた。
それとは別に、迷彩服に捻り鉢巻きのキャシー達がおもちゃの銃を抱えて、捕虜の見張りをしている。
「それ、役に立つの?」A
「冷蔵庫で冷した水鉄砲です。濡れると冷たいです」迷彩キャシー
持ってて冷たくないのか?心なしか震えている様にも見える。
「三樹母様、ダンジョンの召喚レベルが上がったです」二号機
「!ガンダム召喚の予感」C
「あらあらあらあら」ガンダム召喚を試みる初号機
「無理じゃね?」B
「具体的に何出来るようになった?」A
「召喚コストが半分になったです」二号機
「虎治のとこの男の子召喚しよう」C
捕虜の大半は、案の定と言うか、オリジナル軍からの離脱を望んだ。
と言うか、三娘を見る目が怪しい。
「あんた等なんかした?」二号機に訊くB
「三樹母様の偉大さを刷り込んだです」二号機
「グッジョブ!」親指を立ててC
「いや、要らないから、戻しなよ」B
「一番深い位置に刷り込んだです、廃人になるです」二
「他所のダンジョンに引き取って貰おう」A
何千人もの崇拝の目線は、さすがに居心地が悪い。
「木目様にお願いしてるです」二
「成功したです!」初号機
巨大な、お台場ガンダムが立っていた。
【撤収】東大陸・西大陸
方舟旗艦の陥落は、オリジナル軍全軍に衝撃を与えた。
総ての戦力を地上に降ろした訳ではない。いや、未だ大半は方舟に残っている。
旗艦には、強力な軍団が残っていた筈である。それが壊滅した。
この世界は、大航海時代以前の世界では無かったのか?
「速やかに、南大陸へと撤収せよ」
この命令は、作戦部が消滅した事に因り、JIN直々に下された。
東大陸では、ポインターの座標を南大陸へ指向し、極短時間で撤収は終った。
西大陸でも、ポインターを使っての撤収となったが、広範囲に展開した部隊を纏めるのに、一定の時間が掛かるだろう。
【夫君】サスケラ
虎治が敵の王に肉薄し額に傷を負わせた事は、サスケラを大いに 喜ばせた。敵のギフトスキルに依ってその後、退場させられたのだが、問題はない。
盤上模擬では、王に攻撃が届いた時点で勝ちになるのだ。
【特別講師】グル師
グル師は四人の学生達と共に、大学に帰着した。説明係キャシーも、伴っている。
実は、レポートを受け取った際、三魔女を講師として派遣して貰えないかと訊いてみたのだが、なにやら複雑な理由がある様で、断られた。
その代わりに、説明係りとしてグル師に付いていた少女を寄越された。学生達に侮られない様、森人風に耳の先を尖らせピッタリとした黒のスーツ姿タイトスカート、銀縁の尖った伊達眼鏡を掛けている。
携えているトランクには二本ラインの赤のジャージも入っている。
場合に依っては熱血教師も遣る積もりらしい。
「念の為に訊くが、空間魔法は得意なのだね?」グル師
「空間魔法で産湯を使い、空間魔法の離乳食で育ち、空間魔法が生きる術になったです」女教師キャシー
グル師は比喩として理解したが、只の事実である。
【嫁会議】マリコ
意外な事に、三千名近くの嫁達が留まる事を選んだ。
開かれた嫁会議で議長に選ばれたのはマリコだった。
アサミは二票差で、副議長を務める事になった。
「えーと、現在のところ虎治へーかは、真面目に遣ってる様なので、特に事案も無いって事で良い?」マリコ
第一回の嫁会議は、議長と副議長の選出だけで終わった。
【窓の牡牛】マティ
サスケラの依頼で、暇を見つけては調べていたウインドウ=ブルの情報の中に少年時代の肖像画があった。
「これは、虎治様?」
マティは眉を潜める。伝説の大魔導師はアルモニコスの一人なのだろうか。
オリジナルを召喚した術式は、JINに依って、情報子レベルの解析を数百年を掛けて受けている。その結果は、係累であるコアのデュプリも知っている。不明の部分も多いのであるが。
そして明らかとは言えぬまでも、現存するウインドウ=ブルの術式との類似性は高い。
召喚される事に依って、結果的に発生したと見為されるアルモニコスが、その召喚式を書いた?
「タイムパラドックスですね」マティ
多元宇宙であれば、未来が過去を改変する事はあり得る。厳密に言えば過去に相当する平行世界の過去を、であるが、それは固定していると見為されていたアーカイブ=過去と[現在]との間を行き来する事が可能である事を示唆している様にも思えた。
マティは三樹母様に、報告する事を決めた。
【妖精の歌】アリス
会議室に設えたベッドの横には、小さな丸いテーブルがあって、その上に籠があって、金色の房飾りのクッションが置いてある。
そのクッションの上に、更に更に小さくなった竜の兄様が丸くなって寝ている。
悪い勇者の偽物の兄様を懲らしめたのだ。
力を使いすぎてちっちゃくなっちゃったのだ。
今ならアリスの小さな手の平にも乗っちゃうだろう。
起こさ無い様に、小さな声で
優しい声で
アリスは歌う
お休み兄様、楽しい夢を
優しい夢を
アリスは歌う
小さな光の粒が舞う、
妖精の歌を