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妖精の詩  作者: 南雲司
23/24

誰も死なない戦争

妖精の歌23


【アーカイブ】木目(シャオ)

 木目(シャオ)は学生達や、デュプリキャシー達に指示を飛ばしながら、意識の半分をアーカイブの中に置いていた。

 JIN=神樹様は[三体の眷族]と言っていた。プヨとウィロー、三体目と思っていたウッディは、しかし、土塁の入り口近くで警護に就いている。では、もう一体は何?


 学生達に吸い込まれた検索枝は、程なく、アリスと二体の眷族に向かって伸び、魔力を送り込む。その魔力は方舟の思念体の元へと流れ込む。その流に乗り木目(シャオ)は、勇者=飛竜を見付けた。



【地下へ】歪の虎治

「あれー?」虎治

 どうやっても開かなかった扉が勝手に開いた。

 後続の人形部隊から、四つ足借りて来て、自立ボルト打ち込んで貰おうかと、考え出した矢先だった。

「そっか、壊されるの嫌で開けたんだな。頭良いな」虎治


 君の頭が悪すぎるのだ、と突っ込みを入れたくなるのだが、実は虎治は兵学校の座学の成績は悪くない。魔術関連でも興味を持った物なら、人より早く覚える。

 では、この天然振りは何が原因なのか?

 作者こそが知りたい。


 とまれ、虎治隊は最深部に突入した。



【玉座の間】三娘

 再召喚をインターセプトするのは、上手く行った。

 陸戦隊に中庭を任せ、三娘は特殊戦部隊と共に上階へと駈けのぼる。ご免なさい、嘘つきました。慣性制御の自己付与で足は着いてるのだけれど、実は飛んでるみたいな?


「背中電気!」A

 時おり現れる敵を、うぎゃうぎゃ言わせながら進む。

「てかさ、初めからアタシラが背中電気使えば良かったんでね?」B

「だねー」AC

 片っ端から捕虜にすれば、インターセプトなんて無駄な魔素使わずに済んだ。縛って転がしとけば良いのだ。


 扉を蹴破り、兵達が飛び込む。殆ど瞬時に展開し、総ての方向に筒先を向ける。

 玉座の間はもぬけの殻だった。


「地下!」C

 そうだ、いたいけな少女の霊体に、拷問するなんて、サディスティックなシチュエーションって、オリジナルの大好物じゃん!

 ならば、地下にいる!


「虎治が危ない!」A

 死に戻りを無効化する手段など、いくらでもある。

「JIN!アタシラを地下に転移して!」B

『基準点が不明です』JIN

「虎治を基準点にする」C

『了解しました』JIN



【駆逐】宮殿の外

 アサミは列機に指示を出す。効率的に遣らねば抜かれる。たったの四機しか来て無いのだ。三々五々現れる攻撃ヘリを分隊毎に千メートル程の上空から駆け降り駆逐する。

 丸太組の受け持っている空域でも墜落したヘリが上げる黒煙が数条立っている。彼処(あそこ)の指揮官はカマーンチュだ。

 逸ろうは無いだろう。


 と、地上に焔炎が走る。風竜のブレスだ。車両が立て続けに爆炎を上げる。

 散り散りに為った敵兵をメイデンが薙ぐ、ロックバグが白兵戦を仕掛ける。

 蟻の子一匹、通す積もりは無い。



【飛竜】木目(シャオ)

『何故此処に居る』木目(シャオ)

『妹が居るからだ』小さな飛竜

『虎治に妹はいない』

『事実は真実に劣る』

『未来永劫、妹を護るか』

『無論』

『では力を与えよう』



【オリジナル】方舟

「王よ、劣化体です」方舟のJIN

「今度のは、若いね、ふふ、美味しそうだ」オリジナル


「アリスを返せー」

 虎治は、駆ける。

 その後ろから、左右に展開しながらゆっくりと走る人形部隊。

 虎治の後背やや上空に光輪が現れ三人の人影が出現する。

 三娘だ。右手をオリジナル虎治に向けて伸ばしている。

「御母様!」方舟のJIN

 他の存在は概ね把握できていた。

 だが、三娘の事は今の今まで認識出来なかった。

 何故?


 オリジナルは、訝しげに三娘を見やる。

「悪い娘をお仕置きに来たよ」A

「言い付けをちっとも守って無いじゃん」B

「・・・以下同文」台詞を思い付けなかったC

「王よ!御注意を!御母様方は完全体です!」方舟のJIN

「あの娘等か、プログラミングの天才なだけだろう?何を注意するんだい?」オリジナル


「背中電気!」空中に浮いたままABC

 しかし、電撃は三娘に向かう。

「敵も、反射持ってるぽい」C

 背中電気を打ち続ければ、反射し合い、急激に放電が太くなる。

「魔力切れるとやばい」B

「なら、此方が有利!」A

 神樹からの魔力供給は無限だ。


 虎治は、駆ける。

 得物を振りかぶる。

 一瞬歩幅が大きくなった。

「めぇぇぇぇ・・・」

 面を打ちに行った、虎治が掻き消えた。

 持っていた得物が回転しながら

 オリジナルの顔面に衝突した。

 ゴム棒だった。



【超回復】オリジナル

 ゴム棒が顔面に当たって、注意が逸れたのか、偶々(たまたま)魔力が切れたのか、反射の連鎖が途切れ、巨大な放電がオリジナルに吸収された。

 一瞬で炭化するオリジナル。ゆっくりと倒れる。

 が、倒れる中途で足を踏み出した。


「成る程、完全体ってこう言う事か」にこりとオリジナル

 表情が動いた拍子に、炭の欠片がぼろぼろと溢れ落ちる。

 ぶるんと体を振ると、バラバラと音を立てて艶々の体が現れた。

「ぐへへ、素っ裸ショタ虎治」C


「魔力切れても、ギフト発動するんだ」A

「ご都合主義過ぎね?」B

「あっちのJINからの魔力供給ぽい」C

「なる」AB

 無駄口の傍ら、歪のコアに連絡を取る。

 虎治は無事、死に戻りしたらしい。

 しかし、どうやって歪の虎治を倒したのだろう?三娘は森のJINを呼ぶ事にした。サポートが無ければヤバイかも知れない。


「エマージェンシー!超強力な劣化体が出現します!」方舟JIN



【膨張】飛竜

 ここに現れている飛竜=勇者は、ほんの一部に過ぎない。

 神樹程とは言えないが、アーカイブの中に核を持ち、無数の[現在]に枝を伸ばす多次元生命体と成っている今、この小さな竜は、その枝の先端、表層に映った写像に過ぎないのだ。

 木目(シャオ)は思う。自分ごときが、どう弄った処で傷つけ様もない。


 なので木目(シャオ)は、遠慮なく飛竜の中に指を差し込み、魔力を流し込んだ。


 飛竜が膨れ上がる。

 電子の檻が歪む。

 方舟のJINは、その檻を維持しようと

 力を振り絞っている。


「エマージェンシー!超強力な・・・」方舟のJIN


 檻が弾けた。

 JINは、存在の過半を消し飛ばされ

 泡宇宙に退避する。

 オリジナル軍の最大戦力が、今


 掣肘された。



【目覚め】小さなダンジョン

「思念体の回収に成功した。諸君(みんな)戻って来て」木目(シャオ)

 ほうっと息を吐き、くたくたと座り込む男三人。カーシャは平然としている。流石はドワーフ。


「兄様!」カバリと体を起こしてアリス

 プヨが身じろぎする。

 ウィローはパタパタと葉を動かした後、再び動かなくなった。

 眉根を寄せる木目(シャオ)。エントの幼体は、また方舟に戻った様だ。何故だ?


 とまれ、ここでは、もう遣る事はない。預かったレポートを添削して、森に帰還する事にしよう。木目(シャオ)は小さな机を召喚して座った。



【吸収】勇者=飛竜

 宮殿が消し飛んだ。

 突入部隊の殆どが死に戻った。

 酷いフレンドリーファイアも有った物だが

 そもそも、飛竜に友軍と言う意識は無い。


「これは凄い!実に美味しそうだ!」オリジナル

「何これ?」A

「展開に着いて行けないんですけど」B

「・・・虎治の波動、感じる」C


「オリジナルの劣化体と、飛竜が融合した物です」森のJIN

「て、例のイェードウの勇者?」B

「肯定」JIN

「ロマン!」AC


 首を伸ばしてオリジナルに食い付こうとする飛竜。

 オリジナルは右手を差し出す。

 飛竜が掻き消えた。歪の虎治の様に。

「吸収されました」JIN



【暴走】オリジナル=飛竜

 オリジナルの裸体が膨らむと、竜に成った。

 竜は雄叫びを挙げ、飛翔する。ブレスを吐く。

 宮殿の外にいて無事だった丸太が一機、隠蔽を解かれ、一瞬で燃え尽きる。


「目標!飛竜!」アサミ

 撤退命令は出ていない。ならば、敵性存在と戦うしかない。

 飛空艇用の自立ボルト=ミサイルでは殆ど効かないだろうが、生き残っている味方の撤収の時間稼ぎ位は出来るかも知れない。


 風竜が一騎落とされた。魔石を消耗し隠蔽の解けた丸太が、退避していく。

 飛竜のそこかしこに自立ボルトの爆炎が上がるが、効いている風はない。


 オリジナルは焦っていた。吸収したのは良いが、まるで制御できない。分離は?・・・。出来そうだが、した処で、喰われて仕舞うだけに思える。これでは、どちらが吸収したのか分からない。

 オリジナルは笑った。

 その笑いは竜のブレスとなって、地上の、空中の、あらゆる物を燃やす。


 突入部隊で生き残っているのは三娘だけになった。



【竜の呪縛】方舟

『ワレを縛レ』・・・

「なに?今の」A

『ワレはヒリう、ワレは勇サ』飛竜=勇者

 ウィローが(ひかり)出した。


「お任せを」森のJIN

「なんか分かんないけど、任せた」B

 ウィローの光が強くなる。眼をきつく閉じても眩しい程の光。

「ヤバし」C


 光が弾けた。

「え?神樹様?」ABC

 光の神樹は光の速度で枝を伸ばし

 光の竜に巻き付く


 幾重にも巻き付き、巻き付き、光の繭になった

「隙間を開けます、爆弾を捩じ込んで下さい」JIN

「解った、キャシー!慣性爆弾ちょうだい!」A

「爆発させちゃ駄目だよ、こっちで術式起動するから」B


「いっけー!」C

 光の繭は、急速に膨張し

「やばくね?」B

 方舟の内側一杯まで膨らみ


 唐突に消えた。



【誰も死なない戦争】木目(シャオ)

 木目(シャオ)の処にデュプリコアから連絡が来た。

『三樹母様を除く、突入部隊全員の帰属ダンジョンへの帰還を確認しました』デュ

「三樹母様はご無事か」木目(シャオ)

『JIN様に依れば、優位に戦いを進められて居られる様です』


 一人の戦死者も出していない?

 何か非現実的な事の様に思える。

『尚、漂泊のダンジョンでの捕虜召喚は三千人を越え、なおも増加中です』

『既に、大幅なcapacity超過に尽き、引き取りを懇願されています』


「歪とユグダにどれくらい引き受けて貰えるか問い合わせて」

 残りは森で引き受けるしかないだろう。


 木目(シャオ)は添削の終わったレポートを魔導師に渡した後、呟いた。

「誰も死なない戦争・・・」

 そう、敵すらも死んでいないのだ。



【オリジナル】方舟

「まいったな、僕の敗けですね」オリジナル虎治

「げっ!オリジナル!」A

「なんで生きてる!」B

「ショタ虎治、ぐへへ」C

「一瞬、隙間が開いたので、光の竜を分離して、そこから抜け出したのですよ」笑うオリジナル


 身構える三娘マイナス一娘に手を振って、

「敗けだと言ったでしょう?降参です、条件を言ってください」オ

「総ての大陸から撤収する事!」C

「南大陸は、残して貰えませんか?あれは侵略の内には入らない筈だ」オリジナル虎治

「それに、これから賠償する為の経済的基盤にもなる」同

「手強い」C

「静止軌道に居座られちゃ、却って危険かもねー」A

「その代わり、方舟一個貰うってのは?」B

「残りの人員を南大陸に降ろして良いのなら、旗艦を差し上げます」


「あ、JIN、方舟貰う事になっちゃったけど、維持管理出来るよね?」A

「可能ですが、かなりの人員を必要とするでしょう、その価値が有るでしょうか?」JIN

「スペースオペラするのに、必要」C

「オリジナル軍の監視」Cの意見を聞かなかった振りのB

「南大陸を直接爆撃出来るのは大きな抑止力」Cの意見を無視のA

「了解しました」JIN


 各国への賠償は、当事国を集めての会議を開いてからの事になった。

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