樹母様
妖精の歌22
【アリス】方舟
『大丈夫だよ、僕が守ってあげるから』竜の兄様
『私も居ります』プロシー
ウィローは葉を拡げてアリスの前に立っている
竜の兄様は、地震の時に力を使い過ぎて小っちゃくなっている
アリスの膝の上で、ちっちゃなブレスを吐く
プロシーはアリスの体を覆っている
「強力なプロテクトが掛かっている様です」方舟のJIN
「逃げられないんだろう?ゆっくりで良いよ」オリジナル
二人の前には情報子で補強した電子の檻。
中には透明な少女が怯えた目で虎治を視ている。
偽者の兄様だ、偽者のドロシーだ、偽者の国だ。
【木目】小さなダンジョン
木目は、三樹母の要請を受けて小さなダンジョンに来ていた。
『あ、シャオ老師、レポート取って来て良いかい?グル老師の処に有るんだ』カーシャ
「では、先に他の二人を此処へ」木目
『あ、あの、俺も行っちや駄目ですか』クォタ
「誰?」木目
『板に軍事機密の術式書いた奴です』アマーリ
木目は小首を傾げて考える。将来有望な青年だ、顔を見て措くのも悪くないかも知れない。
「構わない」
【帰還】ワクーラ
「これは貰っていっても良いのだね」ワクーラ
シャトルは移動してはいない。だが、漂泊のダンジョンのほぼ真ん中にある様に見えていたのに、部隊を転移させる為に、更に広げられた空間の端の部分に位置していた。
「構わないですー」取説係のキャシー
「もう少しすれば、ショタ様の手が空くですから、門を開いてシャトル毎お持ち帰りくださいです」同
キャシー達が居れば、重要部分の解析は、あっという間に終る。
シャトルに、解析データと情報子操作解析器をおまけにつけて、キオトに返還するのになんの不都合もない。
それに、一度ダンジョンに取り込んだのだから、召喚リストに、実は、載ってもいる。後で必要になれば、何機でも召喚できる。
「カアア」ショタガラス
転移門の準備が出来たようだ。
「感謝するよ、気球を進化させられる知識が得られた」ワクーラ
【転移門】方舟
コア達デュプリケイトは、当然ながら方舟一番艦の構造を熟知していた。ならば、彼女等が此処に来て先導するのが、てっとり早くて良いのだが、オリジナルには[九十九遣い]がある。
人以外の知的存在なら、容易に支配されてしまう。
いや、人ですら、ややもすると、支配されて仕舞い兼ねない。
共感、依存、親近感を抱いたりすると危ない。
かって、三娘が、人に寄り添え、危うきを避けよ、と命じたにも関わらず、JIN達がオリジナルの非道とも言える行いに加担しているのは、その所以である。
デュプリ達が出力したマップを基に突入隊は行動する事になる。
マップと言っても、実は一つの建物とその周辺だけである。
歪の虎治の人形部隊を先陣とする突入隊の出現した門は、
オリジナルの宮殿の中庭に開かれたからである。
「地下へ!」歪の虎治
森のJINの情報を基に五十体の二本足人形は地下を目指す。
『虎治さん、道筋の監視カメラの情報、送ります。
破壊しながら進んでください』森のJIN
デュプリケイト達には危険でも、十万年分の分厚い情報構造を持つJINは鼻で笑う。
「支配出来ると思うのなら試して貰いましょう」
なので、場違いなメイド長が門の傍らで指揮を執っている。
「中庭周辺を制圧してください」JIN
後続の特殊戦部隊と陸戦隊に指示をだす。
騎竜達、航空隊に敵増援の警戒と遅滞を指示した後、つい、叫んだ。
「御母様!」
「三人だから[方]付けよう」B
「向こうの虎治出て来たら、アタシラしか相手になんないじゃん?」A
「ショタ虎治、ぐへへ」C
【段取り】小さなダンジョン
アリスのベッドは土塁の中、もう苗とは言えなく成りつつある、神樹の苗の根方に移されていた。ウィローとプヨも両隣だ。
「これはアリスの魔力波動との親和性の高い君達にしか頼めない」
「応急的な措置だが、神樹からの魔力をアリスに注ぎ込む為の中継をして欲しい」木目
アリスの魔力回路はまだ成長の途上にある。柔らかく脆弱だ。森からの魔力を直接注ぎ込むのには危険を伴う。だが必要だ。
高エネルギー情報子の被曝に抵抗するアリスの魔力は限界に近付いて来ている。尽きれば精神が破壊され、廃人となる。
「お、俺は?」クォタ
「二人の補助をお願いする」木目
慣れていない作業だ。つい、自分の分の魔力まで注ぎ込んでふらふらに成る事もあるだろう。それの補填をクォタに遣って貰う。
「シャオ先生なら一人で出来るんじゃないですか?」アマーリ
「私は治癒魔術師でもある。アリスの内部に入り込みすぎる。手加減を間違えると、かえって危険」木目
「あ、それで・・・」トムオス
以前、アリスのインナースペースから前の結接点プロシージャを排除した時、木目は補助に徹していた。そういう理由か。
転移門が開いた。
「遅くなって御免、老師も連れて来た」カーシャ
カーシャと並んで車椅子と呼ばれる騎乗ゴーレムが入って来た。
【ラスボス近況】地下
「侵入者です」JIN
「また、クーデター?無駄なのにね」笑うオリジナル
「いえ、[外部]からの侵入の様です」
方舟の外は真空の宇宙だ。一瞬あっけに捕られた虎治は、もう一つの可能性に行き当たる。
「ゲートから入り込まれたのか、どのゲートからか分かるかい?」
「該当するゲートが存在しません。侵入者が設置したゲートの様です」
「面白いね、原住民?」
「可能性大です。しかし、真っ直ぐここを目指していると思われますので、降下部隊の中に内通者がいる可能性もあります」
「へー、現地人を使ったクーデターか、新しいな、ここまで来させてあげよう」
「危険です」
「むしろ、侵入者に取って危険だと思うよ」嗤うオリジナル虎治
【交戦】中庭
なかなか、厄介な事に為っていた。
虎治が地下目指して宮殿に突入した後、警備兵がわらわらと出てきた。突入口は後詰めで小さなダンジョンの人形兵達が侵入していて、そこからは出て来ていない。
そこまでは、良い。序盤で相手するのは宮殿の警備兵位な物だろうと、予想されていた。
だが、いくら倒したも数が減らないのだ。
「再召喚、速くね?」B
「再召喚の速度じゃなくて、召喚場所が近いのじゃないかな?」A
「我が軍不利ぽ」C
[我が軍]の場合、一旦、死に戻りポイントの、それぞれのダンジョンで再生してから、漂白に転移のち方舟に転移する事になる。オリジナル軍に遅れる。
「リスト!」Cが叫んだ。
「なによ、リストって・・・あ!」Bも気がついた。
「キャシー!キャシー!敵の再召喚インターセプト出来る?」A
漂泊のダンジョンでも、オリジナルの召喚リストは閲覧できる。
ならば、召喚も出来る筈だ。先に召喚してしまえば、このゾンビアタックを制限できる。
『で、で、出来るです』初号機
「じゃ、やって!一人残らず!!手が空いてるキャシー全員動員して」A
キャシー達なら、一々リストを開いたり、アイコンをクリックしたりとかは、しなくて良い。直接アーカイブから引き出せる。
『じゅ、じゅ、樹母様問題がー』初
「なによ!」A
『ひっ』初
「早く言いなさい!」A
『全員召喚するとダンジョンに入りきらないですー』初
リストに載っているのは、今死んだ者ばかりでは無い。未だ召喚されていない数十億の人類、日本人に限っても一億人も載っているのだ。
「戦闘で死んだのだけに絞って」A
初回召喚時の年齢が十四才未満であるのには、理由がある。
個人差はあるが、凡そ十四才後半ごろに脳の成長が止まる。それからはゆっくりと老化が始まる。ハードウェアとしての脳の性能が最も良いのは十四才頃であるのだ。
サッカー、テニス等のスポーツ、バイオリン、ピアノ等の演奏技術、凡そ際立った才能が必要な分野では、大成するのに[十四才]迄に基本技術を習得している事が必要になると言われるのは、その所以だろう。
なので、仮令九十才の老人でも、十四才頃の体と脳で召喚される様に[式]は書かれている。残り七十六年分の記憶はアーカイブから紐づけられるのだが、思い出すのには時間が掛かる。
そして、イバーラク世界で生きていく為に必要な[魔力回路]が、作り上げられる最後のチャンスを持つ年齢でもある。
「それと、余裕が出来たら、魔力回路持ってる15才以上の召喚もしといて」割り込むB
【マリコ】キオト国境
こんなものか、マリコはそう思った。
母艦は後方だが、キオトからの通過許可が下りた時点で、長距離移動可能な天馬型と鷲型は発艦し、キオトの南側の国境を越えていた。
未だ、記憶は完全ではない。事前のブリーフィングで得た知識だけがオリジナル軍の情報でもある。奇妙な形のそれでいて何処か見覚えのある敵飛空艇を三機立て続けに、撃墜した。
巨大なペラを日傘の様に上に取り付けた、魚のような機体だった。
警戒していた高速高機動の噴進型飛空艇は影も形もない。
と、三条の噴煙が地上から伸びてくるのを見付けた。速い!
「敵自立ボルトに、囲まれた!逃げられない!」マリコ
マリコは神樹の森同盟軍の最初の戦死者になった。
同時に、死に戻りアミュレットの最初の使用者にもなった。
「ただいま」マリコ
【作戦部】方舟
見えないロケット航空機の出現は作戦部を大いに慌てさせた。
三次元レーダー付きの対空車両が無かったら為す術が無かっただろう。
最も有効であろうジェット戦闘機が使えない所以で、戦闘ヘリに制空権を任せたのだが、最初に出現した円盤機ならともかく、このロケット機相手に、有利には戦えない。レーダーに映っていても、視認出来なければ、引き金は引き難い。居るのかどうか判断できないのだ。攻撃を受けて、やっと、見えない敵なのだと気付く。手遅れになる。
西大陸の航空基地に、訓練を急げ、と指示を出した。
ヘリならばともかく、ジェット機では方舟の中で飛ばす分けにはいかない。畢竟、訓練は地上に降りてからになる。いかに高性能でも、訓練が十分でなければ高価な棺桶でしかないのだ。
対応に追われ、「来るに及ばず」との王の命令もあり、宮殿の侵入者への反応は遅れた。致命的なほどに・・・。
【魔力】小さなダンジョン
「ご無沙汰しております」木目
「済まんな、学生達がどんな修行をするのか、見せて貰いたいのだ。いや、邪魔はする積もりはない」グル師
邪魔しないと言っても、学者馬鹿の魔導師の言だ。質問の雨が、いや豪雨が、いつしか始まり止まらないだろう。
さすがに、それは困る。
少し考えた後木目は、アリスのベッドに侍っているキャシーのデュプリの一人を呼んだ。
「この眷族に質問は願います。私は手が放せなく為りますので」木目
神樹の苗から、魔導師の為に可視化された無数の検索枝が伸び、四人の学生の体に吸い込まれる。
「あれは何だね?」魔導師
早速、デュプリキャシーへの質問攻めが始まった。