なし崩し
妖精の歌21
【騎竜】天空の城
鞍には嵩の短い背凭れが付いていて、そこから肩ベルト腰ベルトを締める。ぴったりと座って居れば風竜の魔法で落ちる事は無いのだが、腰が浮けば保証は出来ない。
「インメルマンいくぞ!」
小隊長が叫ぶ。遠話缶は煩わしいので載せていない。風竜に乗っていれば、なぜか、声が届く。竜に命ずれば、城の女王にすら届く。
「さん、に、いち、今!」
四騎の騎竜が一斉に上昇に入る。
インメルマンは宙返りの頂点で背面から、ロールを打って通常姿勢に戻す、急旋回の一種だ。編隊でそれをやる。
訓練は仕上げに入っている様だ。
【陥落】南西諸島
迎撃に出た百隻余りの船団はほんの十数分程で壊滅した。
総ての船が沈められずに済んだのは、明らかな逃走姿勢を見せた船、白旗を揚げた船が標的から外されたからだ。
アマーリの父チムタカ頭領は一番の大船に乗っていた。
真っ先に沈められ、真っ先に戦死した。
その日の内にオリジナル軍は、本島に上陸し、陥落させた。
しかし、島嶼部全域を掌握するのには一週間程掛かった。
島の数が多かったからである。
だが、この大陸の戦力を上方修正する必要が出てきた。
二機の円盤機が出て来たからである。
20ミリガトリング砲で撃墜するのは容易ではあったが、
上陸する部隊には十分な対空兵装が必要になる。
【援軍要請】キオト
近い所以でオリジナル軍の動向は、すぐに知る処となった。
ありったけの軍団を国境に移動させる。
イェードゥ新領を抱えている諸国に援軍を要請する。
キオトが抜かれれば、イェードゥ新領は蹂躙される事になる。
要請に応じる国は多いだろう。
【ロクヨン式】東大陸
威力の足りないハチキュウから旧式のロクヨンに小銃が変わった。旧式とは言うが、性能が落ちる訳ではない。
口径を小さくし威力を落とした分、取り回しの良くなったハチキュウが、新式となっただけだ。
威力が有り過ぎる為、連射の時にフルロード弾を使用すると反動が大きく、ジャミングも時に発生する。だが、弱装弾では亜人相手には威力が足りない。
フルロードを単射か点射で使う事に為る。
これなら、人形のトカゲを一撃で倒せるだろう。
【選抜】キーナン公国
キーナンには、早い内に突入作戦に参加出来るか、打診があった。勿論、否やは無い。既に選抜は済ませ、作戦を待つばかりだ。
なので、木目からの出動要請に、寸暇を入れず、部隊を送る事が出来た。
「何故、余が出陣出来んのだ」
公はそうぼやいて、側近を苦笑させた。
【大拠点】西大陸
ほぼ平らな草原は、少しの労力で航空基地と化す。大拠点となる。
遊牧民を平定し終えた後、建設機材、資材が大量に送られてきた。戦闘車両も、平行して召喚される。
大陸全土を支配するのは時間の問題だ。
【影響】キーナン大学
南西諸島が陥落した事は、遠話缶の普及の所以で翌日には大陸全土に知れ渡っていた。
「おい、止めろよ、死ぬぞ」トムオス
親友のアマーリが義勇兵の志願書を書いているのを見つけた。
「俺は親父の仇を取らなきゃならないんだ、
頭領の息子だからな」アマーリ
「大学で兵器開発とかしてた方が効率的じゃないかな?」カーシャ
「アピールって奴さ」肩を竦めてアマーリ
「こっちの方が良いぜ」クォタ
クォタの差し出したのは、キーナン陸軍の大学に向けた臨時技術士官募集のペラだった。大学に在籍したままで仕官し、戦後復学が可能と為っていた。
その時カーシャの転移石がブルブル震えた。
木目からだった。
『大至急この間のメンバーで、小さなダンジョンに来て欲しい』
【南方派遣軍】神樹の森
サスケラから準備が出来たと、連絡があった。
突入部隊を早速召集するにしても、連携の為の訓練は必要だ。
一週間から十日は視ないといけない。
遅滞を目的とした軍団が編成され、一部が出動した。
母艦二艦、護衛艦五艦のユグダ郡打撃部隊、
武功艦ヴァルハラを旗艦とする母艦二艦編成の森空軍、
ユグダ郡母艦には鷲型が、森の母艦には、其々丸太と木馬が載っている。
目的地はキオト、島嶼との距離から言って、すぐにも敵が侵攻してくるだろう。
サルーは後続だ。装甲の脆弱な輸送艦に陸上部隊を詰め込んでいる処だ。終わり次第出撃する事になる。
突入部隊の手配を終えた木目に樹母様の一人からリンクが繋がった。
『突入作戦前倒し!決行は今日!集められるだけ急いで集めて!』A
【ゴーレムマスター】歪なダンジョン
「俺、人形遣いなんだよね?」虎治
「はい、間違いなく」コア
「なんで皆ゴーレムマスターって言うんだろ」虎治
「一般人には、ゴーレムと人形の違いは判り難いですから」
「どう違うの?」
「ゴーレムはぶきっちょで、人形は可愛いです」
「そかー」
いつもの様に、虎治が騙されている所に、木目から連絡が来た。
『大至急、人形部隊とワルキューレを各一個小隊、用意して。
準備出来次第、漂泊に送る』
【捕囚】小さなダンジョン・漂泊のダンジョン
ドロシーは帰還して直ぐにアリスの様子を見に行った。
アリスは寝ていた。しかし、何か変だ。傍らに侍るプロシーも、アリスの側でペタンと座り込んでいるウィローも、只の置物のようだ。
「プヨ!」
ドロシーは叫んだ。何かがあったのだ!
「お母様方、小さなダンジョンのマスターが、オリジナルの捕囚に成りました」JIN
「はぁー、!?なにそれ!」ABC
「早急に救出する必要があります。思念体の状態で高エネルギー情報子に依る解析を受けています」
「むちゃくちゃヤバイじゃん!」B
「眷族三体が防御を試みていますが、長くは持ちません」
「ショタ!門の準備!」C
行ける者だけで行くしかない。
Aは木目に連絡を取る。
「突入作戦前倒し!決行は今日!」
「キャシー!慣性爆弾、大急ぎで量産、作れるだけ作って」B
「効果的な爆発ポイントも大至急計算!連続で爆発させるのも計算に入れる」C
「なに考えてる」B
「壊さずに軌道から弾き飛ばす」C
「転移要請ありました。ショタ様お願いします!」二号機
「こ、こ、こっちもですー」初号機
一つの門からは騎竜三騎、
もう一つから、ロックバグとメイデンが、
漂泊のダンジョンに入ってきた。
続々と転移要請が入る。雑多な部隊が、それでも、如何にも精鋭らしく、整然と隊列を組んで後続の邪魔に為らぬよう、機敏に移動する。
「死に戻りアミュと、じさま式隠蔽魔石はこちら!
持ってない方!取りに来てくださーい!」キャシーの誰か
「新型歩兵銃エーケーと弾薬セットは此方!」別の誰か
いつ、拵えたのか、幟を背中に括り着けている。
その隣には[取説係]の腕章の捻り鉢巻姿のキャシー達
なんで捻り鉢巻?
「御茶にお菓子ーおせんにキャラメルー」カート押してるキャシー
ロリガラスの指揮でブラスバンドやってるキャシー達や
その音楽に合わせ軽業ダンスのチアリーダーキャシー達もいる。
「虎治来た!先陣おね!作戦開始!」C
まだ総ての部隊が揃った訳ではない。だが、一刻を争うのだ。
なし崩し突入作戦は開始された。