危機
妖精の歌19
【侵攻】西大陸
遊牧民は搭乗員達がポインターを設置し終わった頃、襲って来た。馬に乗っていた。だが、彼らは戦争をしに来たのだ。直ぐに応戦し撃退した。
二人重傷を負ったが戦死は出なかった。部隊を召喚する傍ら、負傷し逃げ遅れた遊牧民を見て回る兵もいる。怪我が軽いなら応急の手当てをし、助かりそうにないなら、止めを差す。国際法等と言う物はここには無い。
「まて、おりはにほんじんら」
そう言う者がいた。随分と訛っているが、日本語に聴こえた。
方舟に送った。
【シャトル】漂泊のダンジョン
「バグ取り、おね!」
Cが叫ぶ。
Aは書き上がった構造式を初号機に渡し、
「Cのコードを、これに合わせて直せるか試してみて」
Bの指示に従いながらだよ、と無理難題を押し付ける。
指揮系統が入れ替わった。
慣性爆弾は、一ダースのキャシーをBがこき遣う。
ポインターは、Aがこれまた、一ダースのキャシーと弄る。
シャトル本体は、出来上がったばかりの解析器を持ったCが数名のキャシーと共に・・・ん?
「誰?」C
「ワクーラだ。飛空艇の解析をしに来た」
小娘と見て、紹介も待たず名乗るワクーラ。
「ワクーラ技師、このお三方は森の頂点に立たれる方々です。
無礼を働けば国際問題に為ります。
お気をつけください」ドロシー
ポカンとするワクーラ。
「なぜ部外者が?」C
「取引の結果、シャトルの調査に参加して貰う事に」片膝を着いてドロシー
「なるほ、キャシー!」C
「は、は、はい!」番号不明機
「バックラ技師の解析器用意!あんた取説係兼助手」C
「イ、イ、イエスマム」不明機
「質問宜しいですか」ワクーラ
「ん」C
「ここのメイド達は皆同じ顔していますが?」
「キャシー答えて」説明が面倒なので丸投げのC
「お、お、同じ個体をベースに樹母様方がお作りに為られたですー」ワクーラの助手キャシー
「なんと、それではゴーレム!」ワクーラ
三魔女のとんでも伝説の始まりだった。
【四つ足】神樹の森
漂泊の開発は軌道に乗った様で、試作品が次々と送られて来た。
検証の困難な死に戻りアミュレットは、取り敢えず完成品として各ダンジョンに分けて送り、アミュレット製造ロール魔石の動作試験を、シャオは[キャシー]の一人に命じた。
そう、漂泊からは1ダースのキャシー達も送られて来ていた。
試作品の検証を概ねキャシー達に割り振った後、シャオは送られて来た四つ足を調べる事にした。
四つ足は、じさまが作って起動を[歪]に依頼している。自立用のロール魔石をコアに頼んでいるが、四つ足用のはまだ完成していない。
漂泊から送られて来た四つ足は、半自立ゴーレムと言うべき物で、判断力は脆弱だが、製造魔石に抜けさえ無ければ、十分役に立つ様に思われた。カーシャプラグの採用は、恐らくこれからの標準にもなるだろう。
シャオは最も喫緊と思われる、漂泊型ロール魔石の製造をこの四つ足でする事にした。
【捕虜】方舟
訛りに訛った日本語を話す捕虜は「トゥラーディカブラー」と名乗った。四十五というが五十前には見えない。
虎治は興味を持った。
玉座の前に引き出された男は、虎治の顔を見るとやにわに立ち上がった。
「おりら、おりがいる!」びっこを引きつつ玉座に寄る男
止め様とする衛兵を手を振って下がらせると、虎治は男が寄って来るに任せ、JINに語りかけた。
「なにか分かるかい?」
「この男の情報子振動パターンは、王の情報子振動の分節に一致します」JIN
「それで?」
「何かの折りに、王から分離した劣化体であるのかも知れません」
「随分、年取っちゃってるね」
「次元航行中に分離して、先にこの世界に辿り着いたのでしょう」
「おりお、かいせ!」虎治に掴み掛かろうとする劣化虎治
オリジナルは煩わしそうに手を振る。
彼に触れる事など出来はしないのだ。ギフトがある。
「あれ消えた?」オリジナル虎治
「劣化体の情報子振動が王に吸収されたのを確認しました」JIN
「また、王の情報子親和性が0.5%上昇しました。因果律を検証中です」JIN
「面白いね、劣化体を吸収すると強くなるのか」オリジナル
【騎竜】木目
「問題ない、風竜の戦列化を待って作戦開始としよう」木目
『風竜は強いぞ、期待してくれ』サスケラ
木目は、リストに騎竜三騎を加えた。
【捜索令】東大陸
西大陸にも同じ命令が出たのだがこの様な物だ。
王の劣化体が存在している可能性がある。
降伏する敵は殺すに及ばず。
劣化体の捜索と確保に努めよ。
指揮官は問い合わせた。
亜人の中には存在しないと思われるが如何に。
さすれば、残滅を基本とするも可では無いのか。
了と応答があった。
【量産型】森のじさま
じさまの処にも一ダースのキャシー達が送り付けられていた。
そもそも、百人のキャシーの召喚は、シャトルの場所を大急ぎで確保する為に行ったのであって、頭脳労働を本分とするデュプリの使い方としては、如何にも勿体ない。低コストとは言っても、人形達と比べれば、格段に魔素を消費する。
なので、漂泊のダンジョンでは、必要としそうな処へと分散中なのだ。
勿論、突き返されない様な対策も、念の為、してある。
「樹母様方からの提言ですー」モブキャシーその一
「ジユボサム?なんだ?見せてみろ」じさま
「高性能火薬を繊維構造体の技術応用で作るです」その二
「ふむ」モブキャシーから奪い取った術式を斜めに読んでじさま
「お主、魔石に刻めるか?」同
「出きるです」
「じゃ、やれ!もたもたするな」
一人一人に仕事を割り振った後、じさまは、愕然とした。
「しもた、儂の仕事がない」
後世、ジユボサム火薬は、その高性能さから、開発者である筈のジユボサムと言う名前の技師の探索が何度も行われたが、見付けられなかった。年老いたドワーフとも、うら若い少女とも言われている。
【ステップ】歪なダンジョン
剥離防止ソケットを取り付けた試作自立人形は、快調だ。
学習能力も高く、強敵である虎治の技も盗む。
素早く体を入れ換え、時折変則的なステップでトラップを仕掛けようとする。
虎治と人形の影が、華麗にステップを踏み、絡み合い解け・・。
まるで、恋人同士であるかの様に、激しく美しく踊る舞踏家達の様に、観客達の時間を止める。
「時間!それまで!」アサミ
鈴なりのギャラリーからため息が漏れる。
コアの代理で審判をしているアサミは舌を巻いている。
人形のスピードに目が付いていかない時が、何度かあった。
それを虎治は余裕で交わした。
交わし続けた。
自分に出きるのか。そう思った。
コアは四つ足の自立化の為の基本式を書いているのだが、なかなか進まない。二本足と違ってロジックを論理的に飛躍させるルーチンが、なぜか働かない。
タスクの三分の一程を投入して、漸く手掛かりらしき物が見えてきた。開発用の四つ足だと次元数が足りないのだ。ロールが十層分程足りない。
コアは、戦闘用の四つ足だけに照準を絞ることにした。
【リンク】漂泊のダンジョン
ポインターの解析は直ぐに終わった。
「てか、迂闊じゃね?セキュリティ付いてないし」A
「座標示すだけなので、必要ないと考えたです」二号機
「応答信号辿れば、向こうのゲートの位地も判るんだけどねー」A
「中継使うです」二
「ピン撃てば、中継も辿れるしって、そか、向こうのシステム知らないと無理なんか」A
「取り敢えず、やってみんべ」A
一発で繋がった。
「あれ??」ABC
「アーカイブの拡大を確認したです」二
Aはリストを開いてみた。他の二人も作業を中断してリストを見ている。
「やべ、オリジナルのリストそっくり手に入ったぽい」B
「取り敢えず、スイッチ切る!」C
此方の情報も筒抜けになる可能性がある。
三娘は、キャシー達に後の仕事を任せると、緊急作戦会議と言う名目のコーラブレイクに入った。
「初号機!カモン!」A
キャシーの情報も必要だ。
【出航】南大陸
東と西の情報から、この世界は恐らく[大航海時代]以前に相当すると見為されていた。知識の拡散や新知識の発見が少ないだろう。異質な知識同士が結び付き、思想や宗教が変容し、富が一ヶ所に集中しようとする時代には至っていないだろう。ならば、急激な学問や経済を含む社会の[進化]はない。
未だ、構築の緒に着いたばかり軍港から五隻の軍艦が出港した。
一隻はヘリ空母、一隻は強襲揚陸艦、三隻のイージス艦。
先ずは、北大陸の南から西に走る島嶼部を目指す。
南方海域の制海権を握れば、大規模な商船団を好きなだけ送り付けられる。
軍艦が出た後の空いたスペースに次々と艦が現れる。暫くの慣熟の後、この艦隊も出航するのだろう。
【危機】小さなダンジョン
二度大きなガンマバーストがあった。あちこちに小さな不備があって、その度にプロシージャ達や人形達は配置を変え修正を加えた。
「もう大丈夫でしょう、人員を呼び戻しましょう」
ドロシーが戻って来るまで、プヨが指揮を執る。
土塁の中の居住スペースは撤去された。どの道住め無く為るのだ。
祭壇と祭儀用の空間が在れば良い。
マスターとオルファ、マスターのご友人達が訪れて来た時の為に其れなりの大きさの家を外に作る必要がある。
安全が確認されている狭い退避区画、土塁と補強済みの壁に挟まれた部分が更に狭くなる。二階立ての宿舎を三階、四階に増築する一方でもう一周分の壁を補強する事になるだろう。
呼び戻したのは、マスターアリスとプロシー達側近眷族、そして必要な作業員百名程だった。アリス達は暫く会議室辺りで寝泊まりする事になる。
「ここで寝るの?」アリス
会議室と言っても、広目の部屋に机を並べただけの物だ。その机を寄せて寝台代わりにしてある。降り易いように横にはベンチ式の長椅子をぴったり付けてある。寝相の良いとは言えないアリスの為に、複数の人形達が取り巻いている。ウッディもその中にいる。
マットもブランケットもふかふかだ。
早速、アリスは飛び乗った。
ベッドが揺れた。いや、アリスのせいではない。人形達も揺れている。
『緊急!緊急!総ての人員は、森に避難、して下さい。
今までにない、大規模な、魔素漏出が、確認されました。
繰り返します!!
総ての・・・』プヨ
アリスは降りられない。揺れが大きすぎる。人形達も立って居られない。ばたばたと倒れもがいている。
ウィローが歌い出した。アリスの歌に似ている。
『アリスさま、歌ってくださいとウィローは言っています』プロシー
アリスは歌い出した。
兄様助けて!
ウィローの拡げた葉から光の粒子が弾け出した。
目を開けていられない程の沢山の光の粒は
集まって巨大な竜に成った。
竜は地下を見据えると、まるで水に飛び込むかの様に
消えた
程無く、地震は消え去り
起こる筈のガンマバーストは起こらなかった。
プロシーは知っている。
偉大な存在が、アリスさまを護る為に
総てのアシキ物を食らったのだ。
そして、きっとこれからも
アリスさまを護って下さるのだろう。
いつの間にか、ウィローはベッドの上に上がり、
アリスの側に座っていた。
いつの間にか、アリスは寝ている。