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妖精の詩  作者: 南雲司
17/24

三魔女

妖精の歌17


【侵攻】南大陸

 イバーラク、イェードゥ、周辺諸国のあるのは北大陸、或いは中央大陸と呼ばれている。東に東大陸、西に西大陸、南にやや小振りな南大陸がある。


 シャトルの内二機が南大陸に降りた。東の端と西北の内陸部である。南大陸には亜人を含む、人族は居無い。

 知恵の有るものは竜種だけである。中央部は、大陸全体の三分の二を占める大きな砂漠に為っていて、その所以で竜種の影も薄い。

 瞬く間に全域が占領された。


 真っ先に中央大陸に侵攻して来るのは、この軍団だろう。



【謎の飛空艇】ドロシー

 ドロシーは、外板の継ぎ目を探り、カチリと小さな蓋を開けた。そこにある、レバー引くとガコンとドアが開いた。

「何だー、魔法で閉めているんじゃねーのか」呆れ顔のドワーフ

 あまりに、ぴたりと閉じているものだから、てっきり魔法かと思った。そう、ぶつぶつ言うが勿論誰も聞いていない。



【反省】歪なダンジョン

「だって、本気で嫌がってるなんて思わ無かったんだ」虎治

「レイプ犯は、皆そう言います」コア

「やっぱりレイプなの?」

「一片の疑いもなく」

「どうしよう、謝った方が良いのかな?」

「謝罪は必要ですが、形で示すべきでしょう」

「け、結婚申し込むとか」

「顔を見るのも嫌でしょうね」

「シャクイあげるとか」

「はい?」

「俺って王様と同じ何だよね、シャクイとかあげられない?」

「ふむ・・・」


 いかなる経緯であれ、[関係]を持った以上、側室として扱うのが天上人たる王の態度であろう。それが拒まれたのなら、叙爵によりそれに替えると言うのも一つの方策かも知れない。

 身分的に[側室]に釣り合うのは、男爵以上になるだろうからだ。


 しかし、波及があるかも知れない。

「嫁達の中には、嫌々ながら従っている方も居るでしょう。

 その方達が離縁を望まれたら、どうします?」

「え!そうなの?」


 極論すれば、王に逆らえばそれだけで罪になる。ただ、逆らう者を、片っ端から罪人に仕立て上げるのは良い王とは言えない。

 虎治が良い王に成れるか、今問われている。



【申し訳ござませんが】カーシャ

 カーシャは、このごたごたが、小さなダンジョンにも障るのでは無いかと、何時もの[行商]には未だ早いのだが、訪れる事にした。グル師からは、例のクォタのレポートも預かってもいるし。


『申し訳ごさいませんが、当ダンジョンは現在、立ち入り禁止となっております』プヨ

 声はそっくりなのだが、微妙な言葉遣いで、カーシャは区別が付く様になっていた。これは、いつも応対してくれるメイド服の娘ではなく、プカプカ浮いている黒い玉の方だ。


「何があったんだい?」

『部外秘です』

「アリスは無事なのかい?」

『はい、神樹様の所へ訪って居ります』


 せっかく休みを貰ったのに、無駄になってしまった。

 どうしよう。

 その時、ポケットに仕舞った転移門石が、ブルブル震えた。

 誰かから遠話が入った?心当たりがない。

 誰だろう。

『やっほー!ドワーフの美少女。

 アルバイトしないかい?』

 エルフの美女三人組の一人だった。



【侵攻】東大陸、西大陸

 東大陸の南端、海岸沿いに着水したシャトルからは、乗員数名がゴムボートでポインターを伴って脱出した。シャトルは沈めた。

 近くには、大部隊を展開出来る地形がなく、必要な装備と一個小隊の特殊戦(レンジャー)部隊の召喚に留め、最も近い広い平野部のある西方へ進軍を開始した。

 そこには、文明を持つ何らかの存在があると目されていた。


 西大陸中央部に降り立ったシャトルは、いきなり戦闘をする羽目になった。

 荒れ地でも着陸可能な、車輪と橇を組み合わせた降着装置が、広大な草原の中で、まるで狙ったかの様に、遊牧民達が放牧している家畜の群れを四散させ、深々と三本の轍を刻んだからである。



【バイト】カーシャ

「休みは今日だけなんだ。一日で終わる仕事かい?」カーシャ

『休み延ばせない?なんなら大学に掛け合ったげようか』B

「老師に頼めば学長だから、延ばせるけど。オーケー出るかな?」

 カーシャは乗り気の様だ。

『わかった、今そっち行くから、繋げっぱなしにしといて』

 遠話のリンクを辿って転移してくるらしい。

 エルフはそんな事も出来るのか。


「カーシャ君の単位は足りているから、余計に休んで貰っても構わないんだが・・・」グル師


 グル師は考える。

 カーシャ君の実力は、[車椅子]の製作で森にも知られているのだろう。一線級の職場で一流の職人達の仕事に触れるのは、カーシャ君にとって財産に成るかも知れない。

「そうだな、このバイトとやらで得た物をレポートにして貰おうか」


 三人の森人の娘は、シャオの弟子だと名乗った。ならば、この三人が鬼才と噂される三魔女なのだろうか?いや、森の奥から出て来ない重要人物達だ、違うのだろう。

「なので、お三方、軍事機密の管理はしっかり頼みますよ」


「あ、老師、小さなダンジョン立ち入り禁止なんだ。いつ解除に為るかも、判らないらしい。レポートどうしよう」カーシャ

「森の軍事機密が、関わっているから滅多な移送手段は使えないのだよ。一度返して貰って、解除になってから改めて頼む事にしようか」グル師


「軍事機密って、慣性制御?」B

「カンセイセイギョとは?」グル師

「こう言うの」さらりと、空中に術式を展開するC

 そこには、クォタが書いた式が、洗練された形で光を放っていた。


「あれが、シャオ姉様の先生かあ」A

「頭柔らかそーだねー」B

「頭突きに弱そう」C

「いやそれ、同意の仕方変だから」AB

「・・・」

 カーシャは呆れている。


 グル師は忘れない内に書き留めた、慣性制御式を睨み付けている。クォタ君の書いた式より二割程も短いだろうか、シャオ君の真空制御式と共通した文脈だ。

 何より、三人の森人はこう曰まわった。

「真空も質量存在も、空間の変形した物だからねー」三娘の誰か

「制御式も似た様なもんになる」別の誰か

「ぶっちゃけ、同じ式にして引数で区別するのも可能だけど、バグの処理が大変」バグ取りが得意そうな誰か


 あれが三魔女だ。グル師は確信した。



【余裕】森の軍府

「降下用のシャトルですね」木目付きデュプリコア

 派遣を決めてから、ドロシーとのリンクは繋ぎっ放しにしている。

「恐らく、転移用のポインターを載せている筈です。それは確保する必要があるでしょう」

「理由は?」木目(シャオ)

「オリジナルの乗っている旗艦への侵入が可能になります」

 この大陸を目標にしていたシャトルはこの一機だけだろう。デュプリコアはそう言った。ならば、主力が到達するまで最低でも数週間の余裕が出来た事になる。


二月(ふたつき)・・・」

 木目(シャオ)は期限を切った。

 二月以内に最精鋭部隊を敵旗艦に乗り込ませる準備を終らせる。

 それ以外に勝ち目はない。



【ハーレム解散】歪なダンジョン

 コアルーム前の建艦に使っていた造船区画は、地上に移っていた。

 と言うのも、建造する艦が増えるにつけ、また、民間用の[飛空船]の建造も始まり、四つ足や二本足の人形達では手が足りなくなり、人族や森人、ドワーフ達を雇用する様になり、ダンジョンの心臓部に部外者を入れるのは、どうなの、と言う問題が発生したからである。


 その空いた空間、コアルーム前の未だ建造用の機材が彼方此方(あちこち)に残っている空間に、コアは嫁達を集め、ハーレムの解散を宣言した。

 騒めく。不安なのだ。ハーレムに属していれば月々の手当てがある。それはどう為るのだろう。


「身分保証の観点から、皆様には解散と同時に男爵位が授けられる事に為ります。

 但し、封領はご用意出来ませんので、年金の形で替えさせて頂きます」

「尚、解散後一月(ひとつき)後、希望者はハーレムに戻る事を許されます。また、希望者が三人以上であれば、奥の院(嫁会議)を開き、マスター虎治の暴走を掣肘(せいちゅう)する権限を持つ事に為ります」


 ほう、と言う声が揚がる。今迄より良くなるのでは無いか?

 嫁達は、オリジナルの所に居た時の事を思い出しつつある。

 クーデターの目的が今叶ったのでは無いか?



【サスケラ】天空の城

 虎治の正室であるサスケラの所には、事前にハーレムの解散と改革の通知が来ていた。正室であるので、直接には関係はない。

「嫁の数が減るな、如何程(いかほど)に為るのであろうか」

 虎治の嫁であれば、妾の嫁でもある。両刀使いのサスケラはそう認識していた。


 肝心の虎治の行状に付いては、

「後始末出来ぬ様では、離縁物だが、まあ、これなら問題無いであろう」

 と、本心かどうか鷹揚な物だ。


「念の為お訊きしますが、もし離縁となった場合、アーカイブでお育てして居ります王子様は如何致しましょう」マティ

「良血の子ぞ、そのまま育て上げよ」

 サスケラは、虎治との子を自分の(はら)で育てる積もりだった。だが、状況が許さず、受精卵をアーカイブに保存していた。今尚、妊娠で身動きが取れなく為るのを躊躇わざるを得ない状況と言える。

 国の形が固まりつつある今、世継ぎは欲しい。受精卵をアーカイブで育てる事にした。


 そこで、婚約の時の約束を思い出した。

「男子をもう一人育てよ。夫君の世継ぎも頼まれていたのだった」

「ダンジョンマスターに寿命は有りませんが?」

「構わぬ、夫君もその内マスターに飽きるであろう」

 サスケラもダンジョンマスターだ。だが、王国の方は王子が成人すれば譲る積もりでいる。



【再び暇】漂泊のダンジョン

「転移爆弾とかどうよ?」B

 安全式を取り払った転移式で適当な質量を転移させると、核爆発並のエネルギーが発生する。幾つかの符号を逆にしてやれば、出現した側にそのエネルギーは発生する事に為る。

 ただし、同一時間平面上の地上では、何故か安全式を省くと動作しない。宇宙空間ではどうなのか、やってみなければ解らない。

「真空とかに出現すると、リバースでこっちで被害出るんじゃない?」A

「あれ?そうなのかな?」B


 三娘は騎乗ゴーレム製作で十分な技量を示したカーシャを、アルバイトに雇って四つ足の製造を任せていた。

 詰まり、また暇になったので、作戦会議と言う名のコーラブレイク中だ。パリポリパリ


「普通の式で行ける」C

「爆弾作んなきゃ駄目じゃん」B

「作る」C

「ウランとかプルトニウムとか手に入れるのムズいよ」A

「鉛で十分」C

「?」AB

 手近な紙に式を書き出すC。


「あー成る程、近接転移で二個の鉛塊を圧縮しちゃうのか」A

「斥力分の爆発しか期待出来ないんじゃね?」B

 原子間の隙間は原子の大きさに比して広大だ。殆んどの原子は、その隙間に入り込む事になる。偶々(たまたま)ぶつかってエネルギーが発生したとしても連鎖反応は起こり難い。

 斥力と言う物があるから、かなり大きな爆発には成るだろうが、期待する程には成らないだろう。

「がーん」C

「あ、でもピンポイントで質点同士をくっ付ければ核爆発するんじゃない?符号弄んなきゃ駄目かな?」A

「!!」BC


 Cは物凄い勢いで術式を書き出した。

 Aは念の為、構造式を書いている。

 Bは、応援のキャシー軍団を招聘する。

「キャシー!何人か、こっちに来て!」



【ウィロー】神樹の森

 アリスの眷族の事とてウイローも森に来ていた。

「これは、珍しい樹人(エント)の幼体か」

 森人の長老の一人がウィローに目を止めた。

「えんと?」アリス

「まだ、幼いから動き回るだけの苗木に過ぎないが、成長すれば人語を話せる様になる。森の賢人とも言われ、とても賢くもなる」長老


 森には、ドロシーもプヨもいない。相談出来るのはプロシーだけだが、エントの育て方を知っているか訊いてみた。

『分かりません。水と太陽の光だけでは駄目なのでしょうか』


 なので、歌を歌う事にした。

 神樹の森に光の粒子が舞った。



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