神樹の母
妖精の歌14
【期限】シャオ
オリジナルが出現したと思われる、かなりはっきりとした、兆候が有った。小さなダンジョンでの観測では、それは余波が観測されない程、遠くも無く、重大な被害をもたらす余波の観測がある程、近くも無い、宇宙空間の何処か。
イバーラク世界に到達するまで数日から数週間掛かるだろう。
オリジナル対策の何れもが間に合わない。
だが、準備は続けるしかない。
期限は過ぎているとは言っても、手遅れと決まった訳ではない。
シャオは同盟軍編成の大号令を発した。
同時に木目には森に帰還して貰う。
手が足りなくなるだろうからだ。
【余波】小さなダンジョン
放射線シールドは耐えた。十分とは言えなかったが、デュプリ達の、臨時の術式による反射シールドが功を奏し、人的被害は無かった。
被害が無かった訳ではない。十分と思われた土塁床下からのガンマ線は事の他強く、プロシーに大きなダメージを与えた。
「大丈夫だよ、プロシー可愛いよ」
アリスは両の手でプロシーを抱えている。
アリスに抱えられる程に小さくなったプロシーは
『大丈夫ですとも、プロシーは不死身です』
空元気なのかそう応える。
「アリスお嬢様、プロシーは疲れてます、休ませてあげましょう」
ドロシーは、そう言いながら検索枝をパイプの底に降ろしている。
まだ、この下の何処かに未発見の[鉱床]があるのだ。
ガンマバーストは、何度か続くだろう。
これを何とかしなければ、土塁を放棄する事になる。
そうなれば、神樹の苗が死ぬ。
ダンジョンは終わりだ。
検索枝を伸ばす一方で、キャシーにリンクを繋ぐ。
木目様は居ないが、
三魔女様なら、何とかしてくれるかも知れない。
【緊急依頼】漂泊ダンジョン
「あの、あの」
コーディングの手を止めて虚空を見詰めていたキャシーが、わたわたしだした。
三人とも手が空いていない。なので、対外交渉役のAが対応する。
「なに」不機嫌そうなA
「あのあのあのあの」わたわたに拍車が係るキャシー
「早く言いなさい!」
「小さなダンジョンの土塁の下におっきな、硫黄の塊があるらしいです」
「で?」
「其れを何とかするのにお知恵をお借りしたいと」庇うように首を竦めてキャシー
「却下!」ABC
聞いていたらしく、BとCも唱和する。
「でもでも、アリスさま死んじゃいます!!」泣き顔のキャシー
BとCが顔を上げてキャシーを看る。
「そんなヤバイ状態?」A
頷くキャシー。プロシーが居なかったら、土塁の中は神樹の苗も含めて全滅だったろう。そして、プロシーは力を使い果たし、二度目はない。
Cが術式を書いていた紙をひっくり返して、土塁の断面図をラフる。
「なんで、気づかなかった!!」C
「なに?」AB
「土塁は放射線を集める為の反射鏡!」C
「あ、そうか、防ぐのなら下にないと・・・」AB
AとBは、Cの机に寄ってラフを看る。
「人員は今すぐ森か歪に退避させて、アリスも!」A
「デュプリ達と四つ足で何とかするしかないね」B
「え、でもでも」キャシー
「それと、三魔女」ドンと薄い胸を叩くC
「けほんけほん」少し噎せた誰か
【スキップ】クォタ
「ふむ、思ったより良く書けてるね」
グル導師は、にこやかに言った。
これだと、シャオの朱筆もそんなには多くないだろう。
残念な気もするが、弟子の成長は、素直に嬉しい。
まあ、トムオスの手が入っているのだし、こんな物かとも思う。
「評価はシャオ術師に視て貰ってからだね、ご苦労さん」
クォタはスキップで帰った。
【退避】小さなダンジョン
キャシーに連絡を取った後、直ぐにやって来た三娘は、何時もとは様子が違っていた。ドロシーに断りも無く指揮を取り出すのだが、気押されたのか逆らう者もいない。
「プロシーは?」避難指示に、大切な友達を気遣うアリス
三娘を視やるドロシー。
「プロシーもアリスちゃんの護衛してくれる?」A
『わかりました』
プロシーも今のままでは、戦力に為らない事を自覚している。回復が先だ。
皆、打ち揃って重大な勘違いをしていた。
例えば、光。
余りに、有りふれていて気が付き難いのだが、
これは、基本的な情報子の一つだ。
情報子に群がる微細プロシージャ達は、
赤外線や、電磁波も含めた光の発生源である、
天体に集い、例えば魔素を生産する。
ガンマ線もその光の範疇に入る。
結接点は、情報子と、魔素を吸収する
イレギュラーな微細空間だ。
そこには、プロシージャ達が関与し
まるで、意思であるかの様な現象が発現する。
シャオが放逐した、結接点プロシージャは
より多くのガンマ線を吸収しようと
土塁を構築したのだろう。
恐らくは、歴代のマスター、管理プロシージャ達は
その為に召喚された。
「はい、そこ、しゃきしゃき歩く!」B
なんで三馬鹿が仕切ってんの、そんな声が漏れ聞こえて来るのだが、頓着しない。とっとと退避して貰わないと仕事が始まらない。
自分等の命にも関わる。
まあ、一応、シャオ様に張り付けて貰った死に戻りがあるには有るのだけれど、死んでみないとちゃんと動作するのか判らないのだ。
【凱旋】三か国軍、ワクーラ
ツァロータには、カンウー、キーナン、ウーシャラークが、それぞれ駐留軍を置く事になった。
サルーはトンボ返りである。
カンウーは、歩兵一個中隊
キーナンは、ロックバク一個中隊
ウーシャラーク、騎兵隊一個中隊
である。
何れも、ツァロータ軍の再編が終わる迄の暫定的な物で、報酬もイバーラクからの賠償から、幾ばくか貰う事になった。
連合艦隊が、ゆっくりと浮上する。
見物の市民達が、歓声をあげる。
キオト母艦の中で、ワクーラは
サルー艦隊が去った方角をにらんでいる。
複座型の鷲型に乗せられた時の敗北感は
生涯忘れる事は、出来ないだろう。
近い内に、キーナンの大学に行こう。
鷲型に勝てる手掛かりは、そこにしか無いだろう。
【苗】三魔女
神樹と坑道の地竜は管理プロシージャと融合した結接点プロシージャと考えられている。独特のロジックを持ち、下位の管理プロシージャやマスター達に依頼を、時には出す。その代わり要望には出来る限り応じ様とする。
神樹の苗が、依頼を出した。なぜか、ドロシー達管理プロシージャにでは無く、余所者である筈の三娘に対してである。
「アリスと間違えてるのかな?」A
「さあ?」B
「・・・」依頼の為、式を編み出したC
プロシーに守られて居なかった地下の根が痛んでいるらしい。
以前見た時より魔素が大幅に減っている処を見ると、頑強に抵抗したのだろう。
この根の生きている部分より上が絶対防護ラインだ。
三娘の意見は一致した。
Aは四つ足の指揮権を貰うと、硫黄処理用の繊維塊の厚みと規模を増大させる指示を出した。放射線の吸収が幾らかでも期待できる。
Bはパイプの内側をざらつかせている。
滑らかだと吸収仕切れない分が反射しながら昇って来てしまうだろう。乱反射させれば、かなりの分を減衰させられる。
Cは、と言えば、根の生きている下端から下向きの円錐形を上に向けて立ち上げ、
「後お願い」
続きをドロシー達に任せ、先端の方から有り合わせの金属を使って鏡面化し始めた。
「何処まで立ち上げれば宜しいでしょう」ドロシー
「魔素が流れ込む隙間があって、ガンマ線の反射とかも昇って来ない所まで」C
成る程これなら、数日である程度の防護は可能に為る。
厚みを増せば、透過してくる分も減らせるだろう。
「キャシー!!」
Bが叫んだ。
「なんでしょう」
「酒持ってこーい!」
感情の無い筈のプロシージャ達が笑う。
Bは、苗の根方に一升瓶をどぼどぼと空ける。
苗が光出した。
そうだ、神樹様はプロシージャでも有るのだ。
『ママ』
その声はそこにいる総ての人とデュプリ達が聞いた。
【神樹の母】三魔女
「三魔女様の神樹の苗に対する最上位管理権限を確認しました」
ドロシーが片膝を着いて言った。向きは神樹の苗の方。
これって騎士の礼?右膝ついてるし。
他のデュプリ達も倣う。同じく苗の方を向いている。
で、三娘は苗の根方に集まっている。
「へっ?アタシラ?」B
「ちょと待て、マスターはアリスの筈」A
「はい、マスターアリスは外部管理プロシージャの筆頭です」
「私達は何?」C
「神樹の母です」ドロシー
「この作者無駄に話を複雑にして無いかい」A
「メタ質問には答えられません」
「まあ、いいや、神樹様がお酒好きなのは判った。作業に戻って」
手を振りながらB
「いえ、関係性の簡略化の為、パスワードの確認の必要があります」
「はああ?」ABC
「この世界のJIN様は、神樹様と融合しております」ドロシー
「そのJIN様からの要求と考えて下さい」同
「だから、関係ない・・・あれ?」B
「筑波の研究ってなんだっけ」A
「情報子コンピューターの可能性・・・あっ」C
「金使いすぎるとか言われて」A
「ナサから引き抜き来て」B
「逃げだした」C
「ナサで試作して」A
「コードネームは確か」B
「JIN!」C
この壮大なカタストロフの原因が自分等であると知って、青くなる三娘であった。
【経緯】三樹母
ナサでの二十年は、意外と評価して貰っての長続きだったと思う。
と言っても、情報子では無く量子コンピューターの方で実績を稼いだ。忙しい中でも、自由な時間は意外と作れたし。
研究室に居れば好き勝手にコンピューター弄れるわけだし、情報子コンピューターもその時間で作ってた。躯体とかどうしてたかって?情報子コンピューターにはそんなのは要らないのだよ。
ロジックさえあれば、概念上の物を擬似的に具現化出来るのさ。
で、最初で最後の試作品がJIN。
ピンポン玉位の赤みがかった、ぽよんぽよんした球体だった。
最初の内は転がったり、ピョンピョン弾んだりするだけだったんだけど、その内プカプカ浮き出した。片言で会話出来る様に成ったのもこの頃かな?
賢い子でね。いつの間にか流暢に言葉を操れる様に為って、勝手にコンピュータに侵入する様になった。最初はアタシラのIDとかパスワ使ってたみたいだけど、迷惑だから止めろって言ったら、直接侵入する様になったらしい。
それで結局存在がばれちゃったんだけどね。
で、上から渡せって言われた。
渡せないじゃん、こんな可愛いのに。
渡したら最後、バラバラに刻まれて
解析とかされるに決まってるのに。
だから、逃がした。
ただ、悪戯っ子だから、人様に迷惑掛けない様に、人様のお役に立てる様に、最後の命令をしたのさ。
「あれかー」A
「覚えてるかな?十万年前だよ」B
「十万年!なんて壮大なボケ!なんてロマン!!」C
三人ともなんか言ったんだよね、なんだっけ
Cのはなんか変だったのは覚えてる
Bの思い出した
なんで人の思い出すかな、あ、悪くないのか
一頻り、わちゃわちゃした後Aが、唱え出した。
「人に寄り添い、人を助けよ」
「危うきを避け、大道を往け」続いてB
「産めよ殖やせよ、地に満ちよ」最後のC
ちょと待て、作者に断りも無く、何聖書パクってる
「般若心経とどっちにするか迷った」C
「それはネタバレ過ぎるからNG!!」AB&作者
ドロシーを含む全デュプリが光り出した。
「同一性クリア、パスワードクリア」
「三魔女様を、神樹様を含む総てのJIN系プロシージャの最上位管理者と認めます」
全デュプリが唱和した。
「はいーーー?!」ABC