ウィロー
妖精の歌11
【お片付け】カラスの娘とキャシー
ショタガラスはゴスロリモードだ。
キャシーはわたわたしながらお宝の山を整理している。
そのお手伝いの積もりなのか、ロリガラスも同じくわたわたしながら引っ掻き回している。
それじゃ終わらんだろ、と突っ込む者はいない。
三娘が、だだっ広いダンジョンの中で、ちんまりと机を寄せてお仕事中であるからだ。
【コア】歪なダンジョン
実の処、キャシーを通じての漂泊のダンジョンからの提案は渡りに船でもあった。
歪のハーレムの嫁の総数は三千五百から頭打ちだった。
理由はと言うと、
一つには魔素を大量に消費する[ルーム]
一つには、マスター虎治の嗜好の変化。
「だって召喚年齢って、子供じゃん」
初期の嫁達が軒並み二十歳に近づくに連れ、性的に未熟な少女達に食指が動かなく為っていたのだ。
勢い召喚は滞り、コアの最初期からからの目的である、古代人(この時代から見て)の再生は破綻の気配を色濃く漂わせている。
神樹の眷族としての目的、ダンジョンの保全と安定はほぼ満足出来る水準に達している今、その目的は最重要化しつつ有った。
『人に寄り添い、これを助けよ』とは[母]の命である。その人とは、イバーラク世界では無く、方舟艦隊に乗っていた古代人の事、そして、個人個人を指すのでは無く、集団としての、種としての人。
オリジナルにスポイルされた三番艦の人員を召喚するのは、恐らくコアとそのデュプリ達の役割なのだろう。反発心の強い批判能力に優れた人材は、種族[人]に取って、どうしても必要なのだ。
「そちらの魔素の許す限りに於て出来るだけ多くの召喚をお願いしますね」コア
『あの、あの、召喚する方々の所属はどうなるんでしょう』キャシー
「当ダンジョンの畑地との兼ね合いも、有りますし、男性一千名程お譲り頂いても?」コア
「畑地が広がれば更にお引き受け出来ます」同
『えとえと、此処はあんまり人手要らないんダンジョンなんですけど』キャシー
残りの一万五千名程を抱え込むのは、無理すぎる。
「これからは、必要に為りますね」コア
軍事的に、神樹の検索枝が通っている処で有れば、何処へでも兵を送り込む事が出来るのだ。シャオは、漂泊のダンジョンで人族の召喚が可能である事を知れば、当然そう言う戦略を立てるだろう。
「それに、砂漠のダンジョン、小さなダンジョンでも人手は要る様になるでしょう」コア
ロリガラスに袖を引っ張られて、キャシーはお宝の整理を始めた。コアと違い、リンクを繋いだままで他の作業は、まだ無理だ。
【シャオ】歪なダンジョン
コア達プロシージャは、同時に複数のリンクを扱う事が出来る。
キャシーとのリンクの最中に、シャオがリンクを繋いできた。
「今、ロール魔石を送った、それを使ってそちらのパペットの独立化を図って欲しい」シャオ
パペットとは、人形の事だろう。殆どの人形がコアの作業領域を経由して、動いている。まだ、圧迫すると言う程では無いけれど、限界に達するのは時間の問題でもある。
「一つ問題があります」コア
「訊きたい」シャオ
「オリジナル虎治様のギフトの一つに[九十九遣い]があります。虎治様の[人形遣い]の上位版ですね。オリジナル虎治様の認識範囲に、独立人形を入れると管理権を乗っ取られます」
「了解した。注意しよう」
【休憩中】三娘
改良型耳栓のバグ取りを意外に早く終えて、三娘はコーラブレイクの最中である。勿論、大皿にてんこ盛りのポテトチップスはデフォルト。
シャオ様のまねだろうか?三娘Cが両の手をポンと打ち鳴らして、耳栓を召喚し出した。
「何を思い付いた?」B
「虎治の嫁達に配る」C
「トラブル発生の予感」A
「オリジナルもうすぐ来る」C
「あー、そっちのが重要か」AB
「あの、あの、私がしましょうか?」キャシー
作業が滞る事を案じての発言。
「おー、どじっ娘が自主的に」B
「てか、四つ足に作らせた方が良くね?」A
「全部で二万個位必要になるねー」B
「!!」C
Cは、物凄い勢いで四つ足用のコードを書き出した。休憩どころでは無くなった様だ。
「あの、あの、こんな物が届いたんですけど」キャシー
「なに?巻物?」B
「ロール魔石?シャオ様謹製じゃん」A
「すごいね、普通の魔石の二十個分は書き込めるっぽい」B
「あ、でも隙間多いな、魔素無駄に消費しそう」A
「銀箔張り付けただけだから?」なぜかC
「コーディング終わったの?」A
「ん」ぺらりと紙をBに差し出すC
「えーと、どれどれ?」バグ取り始めるB
「あ、これ接着器使えそう」A
「えと、これでしょうか」お宝整理の甲斐があったキャシー
「おお、さんきゅ」早速使ってみるA
極々薄い繊維構造体に超薄手の銀と銅の合金の箔を張り付けた魔石は、それでも、一回りスリムになった。
「うん、これなら、いける」A
三娘は、また仕事を増やしてしまった事に、まだ気づいていない。
シャオに知られれば、四つ足用に超分子振動接着器の解析をする事になるだろう。勿論コーディングも。
【一本】歪なダンジョン
ここの処、アサミは虎治の相手をする事が多くなっている。
閨の事では無く、トレーニングだ。
何合か打ち合った後、虎治は鋭く横に変化し小手に打ち込んだ。
「小手ーー」
アサミは、薙刀を引き小手を交わすと、脛を石突きで払った。
交わされてバランスを崩していた虎治は、堪らず、どうっと倒れる。首筋に突き付けられる薙刀。
「一本!」
ギャラリーから、ほうっと溜め息がもれた。虎治が敗れたのが残念らしい。
コアはキャシーとシャオとのリンクを繋いだままで審判をしている。
「アサミ様、死に戻り上げでもあるのですから、止めを差して頂いても宜しいのですよ」相変わらず物騒なコア
コアはアサミ達が佐官に昇進してから敬語を使う様になっている。
「穂先が竹刀だからね、一息で殺せないと大事な旦那様を苦しませるだけになる」物騒さでは負けていないアサミ
刃先が実刀では、虎治は倒せない。どうしても[起こり]が鈍くなり交わされてしまう。なので竹刀を使っているが、もう順応してきている。実刀に戻して流れの中で倒す事を考えた方が良いかも知れない。
実は、実刀でも振り出しが鈍くなるだけで、振りの早さは大して変わら無いのだ。寧ろ最終速度は、先端の適度に重い実刀の方が筋弾性が働く為、加速がつき速くなる。
「アサミは強いなー」
虎治は負けたのに嬉しそうだ。悔しがる事が無くても上達する。得難い才能かも知れない。
「虎治様も、あれ位でバランスを崩してどうします。あれでは決まっても一本になりませんよ」虎治には相変わらず厳しいコア
「ちょっと遠かったんで、のめっちゃた」てへ顔の虎治
「飛び込むか、一旦引くかだったね」アサミ
「人形改良の目処が立ったので、それに期待しましょう」
主を殺す事が悲願に為りつつある、コアであった。
【野戦】ツァロータ王混成軍
ウーシャラーク騎兵の主兵装は長めの曲刀と、複数の使い捨ての石弓である。この石弓は数メートル程しか命中を期待出来ないちゃちな物でしかないが、それでも構わない。相手の喉元に鏃をくっ付けて打てと指導される、近接武器なのだ。
騎兵大隊は、この石弓の代わりに滷獲したイバーラク式歩兵銃を装備していた。前鞍の石弓用のホルダーに丁度よい具合に納まる。石弓と違い連発出来る。両手使いの鍛えた手首の所以で片手でも扱える。
使い方は石弓と同じで、銃口を的にくっ付けて撃つ。
馬を止めて、両手で持てば、狙撃も可能だ。その訓練はしていないのだが。
「これは良い物を手に入れた」
大隊長はそう評した。
幾度と無く、敵に遭遇した。護衛の三騎を置いて十騎のロックバグが先行する。騎兵の突撃に合わせ、隠蔽を解き、敵の戦列を蹂躙する。これを繰り返した。
だが、次第に厚みを増してくる。
国境まで後少しの所で、重厚な布陣に行き当たった。
後ろからは、例の一個連隊が迫って来ているだろう。
【艦隊】三か国軍プラス1
偵察の円盤機はイバーラク陸軍機が出現しなく為ったと報告してきた。
折しも、イバーラクの使者が、撤収の為の停戦を申し入れて来た所であった。
「王の囲みを解くのが先であろう」太守
「テロリストが遠話中継塔を破壊した所以で該当部隊とは連絡が付かない」使者
「伝令を出せば良いではないか」
「既に十組は出している」
猟兵団の優秀な工作活動が王の危機を招いているとは、皮肉だ。
カンウーは母艦を出す事にした。他の軍にも異存など無い。
「出撃令が出ました。退艦願います」
キーナン母船を訪れていたワクーラ技師に甲板士官が、言った。
「戦闘があるなら是非見学したい」
「部外者を危険に晒すわけにはいきません」
「私は技師だ、この先この艦に載せる艦載機を作っている。部外者ではない!寧ろ当事者だ!」
ワクーラの無茶苦茶な屁理屈に困惑した士官は艦長に報告した。
呆れ返ったキーナン公は同行を赦し、艦橋に招いた。
高名なキオトの技官を視てみたいと、思った事もある。
【風竜】サスケラ
届いた耳栓を風竜の耳に埋め込む事にした。
嫌がるのは、判りきっているので、サスケラ自身が監視につき、作業はマティーに遣って貰う。
「臥せろ、頭を床に着けるのだ」竜に命令するサスケラ
「どの辺が良いでしょう」マティー
竜の耳はそれなりに大きい。何かの折りに千切れる事も有るだろう。
「うむ、耳の中が良いのではないか、脳に近くなる」
額の辺りが近そうに見えるのだが、実は、その辺りは骨と空洞で脳からは遠い。
「では、その様に」
三十分程で全ての作業が終わった。結果が出るのはまだ先の事だが、上手く行けば、竜騎兵を手に入れられるかも知れない。
【薬用酒】漂泊のダンジョン
サスケラに出来上がった耳栓を届けた後、Cは情報子制御のレクチャーをABにしていた。その内勝手に思い出すのだろうけれど、期日は多分マイナスなのだ。幾らかでも戦力になって貰わなければ困る。
「あ、じさま!」突然叫ぶB
「何事!」AC
「早いとこ、ロール魔石対応四つ足送って貰おうよ」B
術式組上がってからでは遅い。新技術なのだ、装着してから出る不具合と言うのもある。
「あー、それ最優先」A
「キャシー!」いつの間にか連絡係に任命されたらしいキャシーを呼ぶC
お宝の山の上から、ひょっこりロリガラスが顔を出す。
「キャシー伸びてるカァー」
「はあ?」ABC
三娘が見に行ってみると、キャシーは酒瓶を抱えて寝ていた。
「キャシーってプロシージャだよね?」B
「その筈だけど」A
「ツカレトール配合プロシージャ専用薬用酒」酒瓶の効能書きをC
「疲れてたんだ」A
「てか、プロシージャって疲れるんだ」B
どこから取り出したのか、そっと毛布を掛けるC
「連絡どうしよう」A
「じゃんけん」C
「良いよ、あたしやっとく」B
数時間もしない内に二台のピカピカの四つ足が届いた。
【ウィロー】小さなダンジョン
病葉は病葉では無くなっていた。
ボロボロでしわくちゃな大きな数枚の葉は、幹に巻き付いたままでは有ったけれど、艶々で滑らかな、ちょっと見には気の利いた外套の様にも見えた。
葉を拡げると人の姿をした幹が、現れる。
「どこか、アリス様に似てらっしゃいますわ」オルファ
「マスターアリスが大好きなのでしょう」ドロシー
アリスは歌を歌っている
ウィローは拡げた葉を揺らしている
神樹の苗は仄かに光だした
土塁の外には光の粒子達が舞っている