表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷雪の華  作者: 白石 楓
第一章 剣士となるためには
5/25

第一章4 「二年目の来客」

「はっ!はっ!はっ!」


 修行を始めてから二年。素振り千回のこの修行もだいぶ慣れてきた。


 最初の頃の修行は困難を極めた。素振りなんぞ百回が限界であったし、その後に行われる属性や技の勉強も種類が多すぎて覚えるのもやっとであった。

 そんな過酷な修行を続けて半年。この頃から修行は時が経つにつれて種類が増え続けた。朝の瞑想、二時間の走り込み、千回のジャンプなどが新しく追加され、修行はよりきつくなった。だが、


「やっと、今日で二年が経った。」


 修行は三年間ということが明哲によって事前に決められており、二年間の修行を終えたものはある技を教えて貰えることになっている。

 その技というのは秘奥義と呼ばれる究極技だ。秘奥義は技の中でも最上級の強さを誇り、しばらくの硬直と体力をかなり消耗などのデメリットが出てしまうが、狙えば一撃で敵を落とすことも出来るという技となっている。それをマスターすれば、剣術に関しての修行は全て――


「終わりだッ!!」


 氷雅は太くなった腕で千回目の素振りをし終える。二年前はガリガリが相応しい腕であったが、今ではかなり筋肉もついた。これも鍛錬の結果だと思うとかなり嬉しく感じる。


「よぉ、鍛錬してるなぁ!」


 そこに颯爽と現れたのは、二年前に初めて会ったあのお坊さん。名前は明楽(メイガク)。修行が始まってからというもの、寺の仕事の合間に暇ができるとこうやって様子を見に来てくれる。

 そしてこれは後から聞いた話だが、どうやらこの人と明哲は兄弟らしく、兄弟でこの寺を管理しているのだそうだ。


「はい!これから後一年、頑張らなければっ!」


 威勢の良い声で返事をする氷雅。それを聞いた明楽は安心したかのように軽く二回頷き、そして言葉を放つ。


「兄の明哲は教えるのが下手くそでな、性格も少々嫌われやすい性格だから君も辞めるのではないかとは思っていたが、ここまで続いていて感心だな。」


「お褒めのお言葉ありがとうございます。」


 そう言うと同時に、氷雅は明楽に深々と一礼をする。


 確かに明哲は気性の激しい性格で、周りからすると嫌われる性格だと思われるだろう。けれども、自分にとっては逆にそれが嬉しかった。安心した。何もかもをなくした自分にあれだけ親身になって接してくれることがとても救いになったのだ。

 それに明哲は悪いところばかりではない。自分だけの意見を持ち、誰に対しても優しく接して、救いを求めるものは遠慮なく救う。もし、自分を救ってくれた人が明哲でなければ、剣術を習うことさえも出来なかっただろう。だから――


「感謝してるんです。明哲さんには。」


「うむ。そうかそうか。あいつにもこんな優しい弟子ができて幸せ者だな。」


 と、明楽は再び軽い頷きをひとつ入れる。


 明楽は弟ながらも兄の性格のことでかなり心配をしていた。まだ青年であった頃は気性がすぐ乱れて暴れてしまうことだって多々あったし、ひどい時は障害だというレッテルを貼られて人が近寄らなくなったこともあった。

 だが、明哲にもやっとこのような優しい弟子に恵まれる時が来たのだ。これには明楽は終始ほっとした。とてもめでたい、めでたい·····。


「おめでたいのう·····。」


 そう言って、明楽が仕事をするために元の部屋へと足を向けたその時――


「おーい!!誰か来てくれぇ!!!」


 突如、明哲の救いを求める叫び声が玄関の方から響き渡った。それを聞いた明楽と氷雅は急いで玄関の方までダッシュ。そして、そこで見た光景は、


「し、師匠!これは一体!?」


「なんという事だ!明哲、まさかお前·····。」


 2人が見た光景。明哲が両手に抱えていたもの。それは、黒髪で長髪の、肌が所々焼け焦げた若い女の子であった。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「ということで明哲!説明してもらおうか!」


 六畳ほどの狭い部屋。その部屋には明楽と氷雅、明哲が向かい合って座っている。なぜここに三人が集まったのかというと――


「どうして幼女なんかを持ち帰ってきたりしたんだ!!」


「そうですよ!明哲さんはさすがにそこまで酷い人だとは思っていなかったのに·····。これはあまりにも酷すぎます!」


「えぇ!?ちょ、ちょっと待て落ち着け!!」


 突然問いただされた明哲は両手を2人の方へと向けて待っての合図。しかし、二人の言葉は止まらない。


「まさかお前にそこまで性欲があっただなんてなぁ!?僧侶の名に欠けるぞ!」


「そうですよ!早く手遅れになる前に元のお家へ返してあげてください!じゃないと·····。」


「あぁぁあ!!二人とも誤解だ!ちがうんだぁぁあ!!」


 明哲は大声で二人の止まらない言葉の旋律を断ち切る。そして、明哲は今しかないと確信し――


「違うんだよ!あれは戦争で怪我をした子供がいたから保護をしただけで、単に私が幼女好きだからと言って趣味で持って帰ってきた訳じゃないんだよ!!分かる!?」


 その言葉に二人は唖然。そして少しの間が流れた後、二人は明哲へと誤解をしていたことに気が付き、乱れていた姿勢を正す。そして、


「「大変申し訳ございませんでした!!」」


 と、頭を床につけて謝罪。土下座という技を明哲へと繰り出す。そして、それを見た明哲はまぁまぁと言いながら頭をあげるようにさりげなく指示。二人の頭が上がったところで――


「ま、まぁ誤解は誰にでもあるさ。うん。とりあえずは気を失っているようだから、女性の治癒能力者に身の回りは任せてある。あの傷は氷雅よりもかなりの酷さであったから、完全治癒は厳しいであろうが·····。」


「なるほど、そういう事でしたか。しかしながら明哲さん。傷を直した後のことはどうなさるおつもりですか?」


「うーん。そのことなのだが、氷雅のようにこちらで引き取ろうと思っている。最近ではこの地域で戦争が頻繁に行われていてな、この子もきっと戦争で家を無くしてしまったのだと思われる。もしそうなのであればこちらで引き取ろうと思っているのだが、依存はないか?」


「あぁ、私は明哲の指示に従うよ。氷雅はどうだ?」


「はい、もちろん依存はありません。同じような境遇の人を放ってはおけませんから。」


 こうして三人の意見は一致し、無事女の子をこの寺で引き取ることが決まった。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「その後の調子はどうだ?葵癒(アオイ)。」


 明哲が女の子の世話をしている治癒能力者、源元葵癒(みなもとあおい)へとその後の調子についてを尋ねる。


「はい、これといった大事はまだありません。治癒の方は行ってはいたのですが、やはり外傷が酷く、完璧にまではいきませんでした。」


 葵癒が目を向ける先、そこには右腕に刃物で引き裂かれたような傷跡がくっきりと刻まれていた。


「女の子なのに、可哀想に·····。」


 氷雅も過去看病をされていた大きな部屋でポツリと小さく呟く。


 女の子にとって肌と髪は命と言われているほど大事なもの。だが、その一つを戦争で奪われてしまったのだから、起きた時のショックは馬鹿にならないであろう。本当にかわいそうだ。


「しかしながら、この子はこんなにも綺麗な髪色をしていたんだな。」


 明哲の言葉に反応して、氷雅は女の子の髪色を確認すると、そこには桃色で美しく光を反射する髪があった。


「最初に見た時は黒色の髪だと思ったんですけど、洗ってみたらびっくり。こんなに綺麗な色だとは思いませんでした。」


 最初に見た時の黒髪。どうやらそれは戦争によってついた汚れだったらしい。


 桃色に光り輝く髪。よく見るとその髪の所々に淡い水色の髪色もあるように思える。


「この子の属性は何属性なんだろう。」


「うむ。少し気になるところだな。少々拝見させていただこう。」


 そう思い立った二人は右手の甲に刻まれた文様を拝見する。花びらが三枚ほど散っているように見える文様。まさにこれは――


「桜花だ。この子の属性はあの桜花だ。」


「お、桜花!!」


 桜花という属性は氷雅にとっては憧れのような存在だ。なぜならば、どの属性を極めるかというのを決める際に流星が桜花を希望していたからである。


「良いなぁ、桜花。うらやましい。」


「うむ。うらやましいなんてものじゃないぞこれは·····。何せ、前皇帝の属性は桜花だったからなぁ。」


 前皇帝と同じ属性という情報が耳に入り、余計に羨ましく思えてくる。前皇帝が使っていた属性ならば、きっと強い属性なのだろう。うらやま·····って


「ん!?ちょっと待て!今は戦乱の世の中だろ?前皇帝ってどういう事だよ!?」


「ん?氷雅はこの国の歴史ですら知らないのか?前皇帝っていうのは今別れている七つの国を一つに収めた一族のことだよ。こりゃあ歴史も教えなければいけなくなったなぁ。」


 初めて知った新事実。そもそも世俗から離れた村にずっといたのだから、そのような歴史的知識を知らないのは当たり前だとは思うが、そんなことがあったなんて知らなかった。だがしかし――


「どうしてその帝国は滅びたんですか?」


「うーん。そのことはようわからん。もう153年も前の事だからな。災厄によって滅んだとは伝えられているが、その情報も定かではない。」


 災厄。その正体も暴きたいという興味が出てきて仕方がないが、とりあえずここで話すようなことでもないので一旦保留。

 しかしながら、皇帝と同じ属性というのは本当にすごい。その他の属性というのは知名度もあまりなく、その属性に選ばれたものも少ないので、もしかしたら元王族の血を引いている可能性がある。


「期待が膨らむなぁ!」


「氷雅。テンションが上がっているのは良いのだが、私も明楽も最近は仕事が忙しくなり、この子の世話をできるほど暇がない。だから、氷雅にこの子の世話を任せることになるが、してくれるか?」


「はい!もちろん!この子の世話は俺がします!なので、お仕事頑張ってください。」


 修行を始めて二年。この日から氷雅のすることがまた一つ増えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ