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氷雪の華  作者: 白石 楓
第一章 剣士となるためには
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プロローグ「氷結の決意」

 燃える·····。燃える·····。燃える·····。


 立ち尽くす氷雅の目の前で今まで過ごしてきた場所が、大切にしてきた物が、人が、全て燃えつくされる。

 その熱は氷雅(ヒョウガ)の肌にも直に伝わり、焼けた鳥肉と同じような焦げた色に所々変色し始めている。


「こっちだ!まだここに村人がいるぞ!」


 突然の敵襲。火を放たれ全焼した村であったが、村人は近くの洞窟へと逃げ込み、自らが焼けるのと敵に見つかることを避けていた。だがしかし、戦いを幾多も行なってきた剣士には誤魔化せるはずもなく、洞窟の場所がすぐさま発見されてしまう。


 発見されし村人。その一声で敵は一か所に集り始める。しかし、村人もこのまま捕まるとは思っていない。村人の一人がただでは捕まるまいと敵の合間を潜り抜け、この場から逃げようと試みる。だが――


「うわぁああ!!」


 500もの敵の中をくぐり抜けられるはずもなく、村人は洞窟から数メートル離れた辺りで呆気なく捕まってしまう。

 殺される。そう思った。しかし、敵は捕まえただけで殺しはしない。誰かの指示を待っているようだ。と、そう思っていた矢先――


「殿、この村人達は如何なさいますか?」


 そう問いかけるは50代くらいの髭を生やした男性剣士。装備の装飾を見るに、敵国の中ではかなりの力を持った剣士だと思われる。

 そして、殿と呼ばれたその人物は馬に乗った少年のように思える。身長、体格から見て、年はいって15歳くらいだろうか。殿ということはこの人が敵大将なのであろう。


「――――」


「はっ!かしこまりました!」


 今何をしたのかが全く分からなかった。後方からこの光景を見ているので、口元は当たり前のように分からないのだが、それでも身振り手振りは何もしていなかったように思える。なのに、その意をあの老剣士は即座に分かったというのか。


「ぐわぁぁあ!!」


 と、突如悲鳴が上がる。悲鳴をあげた先に視線を移すと、それは逃げようとして捕まった村人から発せられていた。しかし、なにか違和感がある。先程よりも身長が低い。いや、違う。これは――


「村人風情がッ!逃げようとしたのが悪いんだよッ!」


 身長が低いのではない。首から下が消えているのだ。先程までは捕まっていただけなのに、一目視線が移っただけで息絶える·····。つまりは、あの指示で首を切られたということになるのだろうか。ということは、みんなが危ないッ!


 と、そう思った時にはもう遅かった。洞窟に視線を移したと同時に洞窟の中には火矢が一斉に放たれ、続けて村人達が悲痛の声を上げる。


「嫌だ·····。嫌だ·····。」


 今まで一緒に過ごしてきた人々。助け合いながら幸せを見つけてきた人々。そして、自分と喜怒哀楽を最も長く共にしてきた家族のみんな。その人々達が悲痛の声を上げ、喚き、今自分の前から消えようとしている。


「嫌だ·····。嫌だッ·····。」


 貧しくも、その中で一生懸命幸せを見つけて平和に過ごしてきたのに、それを一瞬の出来事で奪われてしまう。僕らは殺されるために、戦火の犠牲となるために生まれてきたわけじゃないのに·····。


「氷雅逃げてぇぇえ!!」


 多くの悲鳴の中、突然母の声が鮮明に聞こえた。その声に自分は敵に襲われそうになっていることを瞬時に理解し、氷雅は咄嗟に後ろを振り向く。すると――


「クソっ!外したっ!」


 振り返った直後、振られた剣が自分の目の前を掠める。血塗られた剣。このままでは自分も殺されてしまうことを赤き血によって強く諭される。


 ここから逃げろ。脳はそう命令し始めるが、どうやってもこの戦火から逃れることはできない。だが、逃げなければ殺されるだけだ。どうすれば、どうすればッ·····。


「なら、次でッ!!」


 剣士はもう1度剣を振るおうと構えを取り始める。


 時間が無い。これ以上考えても無駄だ。そう悟った氷雅は考えることを放棄し――


「うわぁああ!!」


 氷雅は叫びながら脳死でダッシュ。剣士の又の間を器用にくぐり抜けて、運良く2回目の攻撃を回避する。だが――


「あぁぁぁあ!!」


 回避した先は森の中にある急斜面。急斜面に気づき引き返そうとも思ったがもう遅い。氷雅は走った勢いのまま森の中をしばらく転がり落ちる。幸い、雪が積もっていたおかげとすぐ平地があったので勢いは収まり助かったが、体中痛みを伴う負傷をおってしまった。しかし、ここで歩みを止めるわけにはいかない。


 重い足取り。意とは反する歩み。


 本当は悔しかった。とても悔しかった。

 目の前には憎き敵がいるのに、手の届くところに大将はいるのに、でも自分にできるのは逃げることだけなのだ。


 許せない。許してはいけない。

 こんな皮肉な争いを続ける世の中を変えなくてはならない。いや、絶対に自分の手でこの世の中を変えてみせる。



 そして、きっと――、



「お前を、必ず――」



 ――討つ!!





 火野氷雅はここに誓った。




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