八輪目 シオン
俺はアズの話を聞いて心に何かが突き刺さったようなそんな感触になった。
さっき通りすがりに見た花も道に生えているだけならただの花にしか見えないが、
今はただの花ではなく自分には決して届かないような場所にあるものに思えた。
俺もアズもそして、"あの子"もここにいる仲間も同じなのかな……
「この話はあの三人にもしたのか?」と質問が咄嗟に出てきた。
「三助さんにしかしてないよ」
「何故、俺だけにしたんだ?」
「一番、自分のことを分かってくれそうだったから……」
「いや、俺はまだここに来てまだそんなに時間も経ってないし、アズ達と出会ってそんなに経ってないよな……」
「私が勝手に思っていることかも知れないけど…」
アズはその後の言葉を濁して、何を言っているのか分からなかった。
川のせせらぎが耳の隣で囁いているが、水面に反射した太陽の光が目に突き刺さる。
アズは一拍、間を開けて先程の続きを話し始めた。
「三助さんと昔、会ったような気がしたんだ、だから三助さんなら私のことを分かってくれると思って……」
「昔会ったことがあるって言っても、昔の記憶が何故か覚えてないんだよな…」
「そうなんだ……覚えていないんだね。私の記憶の中には多分だけど会ったような気がしただけだから気にしないで」
「助けになれなくてごめんな……」
「大丈夫だよ、何か三助さんにも事情があって記憶がないのかもしれないよ」
「俺の過去か………そんなこと考えたことないな…」
暫く、自分の過去を思い返して見たが結局、記憶は出てこなった。
アズが悩みこんでいる俺はの顔を眺めながらいった。
「私がお母さんとはぐれた後の話、してなかったからその話もしようか?三助さんの力にもなれるかも知れないし」
「それは助かるよ」
川の流れる音や周りの虫の声、川の水面から反射される光などは視界に入れず、アズの話を聞き始めた。
強い日差しでアズ以外は真っ白になり、視界にはアズのみ映し出されていた。
「お母さんが居なくなった後、私は独りでこの街をさまよっていたんだ。暗い軒下を歩き、家もなく、自分の知り合いも誰もいない。まるでお母さんみたいだね。途方にくれて一週間ぐらい経ったときに師匠と出会ったんだ」
「あるものって何?」
「勇敢でとても強い人だよ」
それって誰だろう……考えていた。堤防に生えている雑草が風で揺れ動く。滑らかに。
「あの人は凄いよ、本当に…ね」
「それって誰?」
「誰ってあの人だよ」アズが指した先にレフコスがいた。
「レフコスとはどうやって出会ったんだ?」
「いろいろあったんだけどね……」
アズはレフコスと出会ったときのことを述懐し始めた。