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花との約束  作者: 赤鉄 ロボ
一章 大切なもの
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七輪目 アネモネ

七輪目 アネモネ

「おい、起きろよ!」

クリの声で目覚めた。部屋の電気は消えており静まり返っていた。私達の出発を歓迎していないかのように妙に静かにだった。

「さぁ、準備するぞぉ」

クリは張り切っている逃げることしか考えてないようだった。

「お前も準備手伝ってくれ」

「分かったわ」

私達は部屋から出て廊下を渡り、トイレの中の窓から出た。

安心できる場所から危険のある荒野へ………

私は再びこの世界に帰ってきたのだ。

クリは嬉しそうに外の世界を見渡している。

「これが外の世界なんだな、窓から見ていたものとは違うな、夜空が見えるじゃないか星が綺麗だな」

クリは満点の星空に感服していたみたいだったが、私には少し雲がかったように見えた。

「さぁ行くぞ!」

クリは張り切っている遠足に行くような気分で………

私は外の世界の厳しさ、怖さ、苦しさ……云々を知っている。

家と家の間を抜け、大通りに出た。逆三角形の青色の中に数字の"九"と書かれた文字がある看板があった。

「これは何だ?」

シュン、シュンと風を切る音を鳴らして通り過ぎた。"あれ"だ

「あの速い速度で動くのは車と言ってものすごい速さで走っているものだから気をつけてね!」

「分かってるって」

「タイミングを間違えると轢かれて死ぬかもしれない………」

と言いかけたときには彼は道路に飛び出していた。

危ないという台詞よりも体がとっさに動いたが…

間に合わなかった。

彼を守ることは出来なかった。

私にできた初めての仲間が目の前で一瞬に消えた。

車は止まらず、クリを引きずり飛ばした。

「クリ、クリ、返事して………」

「ユキ………子供をよろし……くな………」

最後に私の名前呼んでくれた。いつもなら"お前"としか呼ばないのに……

「もう一度返事して………」

彼は私に返答はしなかった…

クリが轢かれた場所の電信柱の下に一輪のマリーゴールドが力強く生えていた。

マリーゴールドの花言葉………今の私の気持ちと同じなのかな…

私はその花が枯れるまでに近くで数カ月間待っていた。彼をとっさに助けられなかった私の罪滅ぼしとして。

やがて、マリーゴールドは枯れて種が出てきた。

その種をここに植えてクリに見守ってもらうために…


「ごめんね……辛いこと聞いてしまって…」

「お父さんは周りがしないような挑戦を行った偉大だなぁって今になって思うの。あなたがお父さんのことを聞いてくれなかったら私はこのことを誰にも話すことはなかったわ」

あの話から、雨が強く春の嵐とも言えるぐらいの激しい雨だったが突然、母は狩りに出ると言った。私の食料を取るために。

「こんな荒れた天気の日に狩りに行かなくてもいいんじゃないの?」

「でも、食料がないの…」

「母さんは毎日、私達の為に働いてるから少しは休まないと………」

「母さんは大丈夫よ、アズの食料が無くなり空腹になって苦しむ姿を見たくないの」

「でも、この雨じゃ危ないよ…」

「アズは心配症なんだから」

母さんは冗談ぽく言った。

「分かったけど、早めに帰ってきてね」

「分かりましたよ」

母さんは私にそう告げて私達の住処だった大堰橋の高架下から嵐の中へ飛び出していった。

母さんの背中から元気でねって言っているような感じがして母さんを止めようとしたときにはもう遅かった。

降りしきる雫の中、母さんは行ってしまった。

母さんの姿を見るのはこの日で最後になってしまった。

今でも私の中にはあの時、母をとめておければよかったと苛まれる。

母はどこにいったのだろうか……でも、唐突に何処かに行ってしまったのは自分が母にあの話を聞いたからだと悟った。

お父さんのように………か

私は母のことを一生忘れられない。いや、忘れられない。

私に一人しかいない母。私は捨てられた。結局、母と同じなんだ。

辛い過去は忘れたくたって忘れられない。覚えるよりも忘れることの方がとても難しいのだから。


1章終わり/2章に続く

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