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花との約束  作者: 赤鉄 ロボ
一章 大切なもの
6/8

六輪目 ゼラニウム

【六輪目 ゼラニウム】

「ニャーー」

名前とは相手を呼ぶときに使うものなんだな……

仲間が居ない私は生まれて初めて名前をもらった。名前っていいな。

「今日からお前の寝床じゃよ」

「ニャーーー」

ふかふかのクッションを彼は私の為に用意してくれた。

生まれて初めて私は安全で安心で世界で一番落ち着ける場所で眠った。

たった一日で生まれて初めて経験したことが三回もあった。初めての家、初めての名前、初めて心を許しあうことができる家族。

全て老人が孤独だった私を野生の荒波から探し出し両手で救い出してくれた。


「よぉ、新人」

私は飛び起きた。誰かが私に話しかけた。

「新人、寝ぼけてんのか?」

「わ!………」

「驚きすぎだろ………」

彼は失笑していた。

「君、あの老人に連れて来られたのか?」

「そ、そうなんだけど」

「あの老人に何かされなかったか?」

「色んなものをもらったよ」

「あいつは俺達から自由を束縛しているんだ、こんな所うんざりだぜ」

「私はそうとは思わないけど………」

「お前はここに来たばかりだからそうとは思わないだけだと思うけどな、だからこんな所早く出て、二人でどっかに行こうぜ」

「私ね、あの人に大切なものを教えてもらったんだ。だからお礼を言うまでは何処にあなたといくことは出来ない」

「こんな所でずっと飯食べてるだけの生活なんて面白くないぜ」

「あなたはずっとこの家にいるからそういうことが言えるんだよ、外での暮らしを経験したことがないからそんなことが言えるんだよ!」

彼に強気で言った。今まで貯めていた思いをぶつけたのだ。

「そのうちわかるさ」

彼は捨て台詞を吐いて私のいる部屋から出ていった。

壁掛け時計の秒針のカチカチという音が部屋に鳴り響く。

少し、言い過ぎたかな………


「新人、おはよう」

「びっくりした………また、あなたか…」

「またってなんだよ、またって………」

彼は昨日の私の言ったことなど忘れたような態度で接してきた。

「昨日の夜、言い過ぎてごめんなさい……」

「あーあ、あんなの別にいいぜ、俺そんなに気にしないからさ」

「有難う……私、ずっと独りぼっちで外で暮らしていたから"仲間"ってものがどんなものかが分からないの」

「そういえば、俺もあの吉蔵じーちゃんにペットショップで飼ってもらってからずっと独りぼっちだったな…」

「あなたも私も独りぼっちか………」

「そうだな俺達、独りぼっち!」

二人は笑った。同じ境遇の人がいたなんて………ただ、少し違うところは私が野良であなたが飼われているという所。

「でも、俺達これから"仲間"だよな?」

「私はあなたと"仲間"でいいの?」

「当たり前だろぉ?同じ屋根の下で暮らしているからな、俺はクリっていう名前だ。よろしくな!」

「よろしく、クリ!」

私にできた初めての仲間。茶色の毛がツヤツヤに光った濃茶色の腹にある渦がとても鮮やかで綺麗だ。

「クリ、あの人は仲間じゃないの?」

「吉蔵じーちゃんか、飯もらって生活してるけどな……自由のない束縛された生活が嫌でさ………」

この生活のどこが不満なのか………私はそれが疑問で仕方なかった。

「ユキ、クリ、カリカリ入れておいたからな」

あの人の声だ!「ニャーー」私は返事をした。

「ニャ〜」クリも返事をする。クリの鳴き声は宝石みたいにキラキラして美しい、これが飼い猫の鳴き声なのか!

「今日は吉蔵じーちゃん出掛けるな……」

とクリが言った時、ガラガラ………

あの人は木格子でできた引き戸を開け、外へ出掛けてしまった。

「クリ、凄い!よくわかったね」

「もう、三年もじーちゃんと一緒に居るんだぞ、それぐらいおみとうしだ」

「あの人何処行ったの?」

「多分、公園にでも散歩に行ったんだろう」

「そうなんだね、私はその公園であの人と出会ったんだよ」

「そうだっただな、あのじーちゃん色んな猫に餌あげてるらしいな、でもお前が来る前にじーちゃん俺に言っていたんことなんだけど公園に自分と同じく独りぼっちなやつがいたって。それお前のことだったんだな。いつもなら猫なんて拾ってこないじーちゃんがお前を抱いて帰ってきたときはびっくりしたぜ。じーちゃんとお前は似たところがあってじーちゃんはお前と姿を被せていたのかも知れないな」

「私とあの人が似てるか………」

「じーちゃんは一年前にトヨさんを亡くしたんだ。俺もじーちゃんもとても辛くて、悲しんだ………仲間が居なくなる悲しみってこんな感じなんだなって初めて経験した。でも、一番辛いのはじーちゃんだよな」

私には仲間を失う悲しみ、辛さを味わったことはないが、話を合わせておく。

「じいちゃんも辛かったんだろうね……」

「俺が出ていったらじいちゃんはもっと辛くなるかもって思うけど、それでも俺は自由がほしい、じーちゃんに束縛されない生活を。自分の行きたい場所、見たことのないものを見るんだ」

「それでも、外での暮らしは大変だよ…」

「お前、外から来たんだよな?」

「そうだけど…」

「すっげーもんとか珍しいもんとかあったか?」

まるで新しい玩具を買ってもらったような顔をして私に聞いてきた。

「昨日に言った通り私はクリが望むようなものはみてないよ」

「本当に?本当?」

「本当だよ、前から何回も言っているように外には今までにクリが経験したことのないものが沢山いるんだよ」真剣な顔で答えた。

「絶対、嘘だ!」彼は私の意見を全うから否定した。

彼はその台詞に続けて部屋の窓を見つめてこういった。

「俺はこの小さな額縁に描かれたものは世界の一欠片を映しだしているに過ぎないからね……青い空、君のような雲、力強い山々とかあと、じーちゃんに教えてもらった"海"が一番見たいんだ」

いつものクリのような台詞ではなかった。

「お前は"海"を見たことがあるのか?」

「ないけど………」

「元野良猫のお前も見たことがないなら俺達は初めて新しいものを観に行けるんだ」

「そうだけど……本当に観に行くつもり?」

「当たり前だろ?海をみたらすぐに戻るから、そしたらじーちゃんも悲しまないだろ?」

「でも、この生活から抜け出したくない、あの生活に帰りたくない」

「お前それでもいいのか?こんな牢屋で自由もない箱に入って一生を終わらすのは…」

「私が幸せだったって思える一生にしたいから私がこれを望むならあなたが言う箱の中で一生を終えてもいいと思ってる」

「でも、海を見れなくて死んだほうが俺はずっと後悔が残ると思うぜ。死んだ後も見とけば良かったって思うぐらいならいっそ、見に行って後悔を無くしてからまたこの箱に戻って来ればいいことだろ?」

彼の言う通り、後悔するなら彼と一緒に見たことないものを観にいこうか。しかし、助けてもらったあの人を裏切ることになる。

「俺が君を守るから外にいっても必ず君を守るから、これは約束だ。絶対だ」

「本当に約束してくれるよね?」

「命を預けてでも約束ぜ!」

私には守ってくれて友達と呼び頼れる存在の仲間など居なかったあの闇の世界から明かりの灯るこの箱の中にいる仲間と出会い、再び闇の世界へ大きな夢を観に初めてできた仲間と共に旅をするんだ。

今回は違う。私のことを信用して守ってくれる仲間が一番見たいものを叶えさせてあげることができるんだ!

「さぁ、今日の夜に出発だ」

「でも、ここから出れる場所なんてあるの?」

この家は一階に部屋が二つ、二階には部屋が三つある。

一階のリビングには食器棚や観葉植物があり窓からは出られなさそうだ。鍵もしっかりかかっている。

リビングの隣の部屋は棚がたくさんあり、窓が二つあるが、棚で塞がっており出られなさそうだ。

二階へいく階段には柵がついており、階段は使えないとクリが言っていた。

「一階のトイレの窓は換気をするために開けてあるからそこから出れば大丈夫だよ」

「よく調べたね」

「この家に来てから徹底的に調べたからな」

「そんなに家から出たかったの?」

「小さい頃からゲージに入れられていた俺は人間に自由を束縛されていたんだ。俺は自由がほしい。その一心でこの為に調べ上げたんだ」

「あなたは怖いもの知らずなのね」

「そうさ、怖いもの知らずだな、君は外の世界を知っているけど、俺と同じ海に行くのは初めてだ。だからお前も怖いもの知らずだな」

「私とあなたは同じ無知同士の仲間ってことになるね」

「お前と俺はそういう仲間ってことにしようぜ」

「希望を叶えるための同士ってことだね」

私の初めての仲間は勇敢で目標に目指して真剣に真っ直ぐ突き進む。

私の言うことにも意見を曲げようとはしない頑固さもあるが、それでも一つのことに真剣になれる彼を見ているとやっぱり憧れしまう。

「あとは脱走に向けての準備だな、食料は外に運んでおくか?」

「一応、外に運んでおいて置くことにしよう」

「じゃ、この棚に入っているやつを………」

そう言いながらキラキラ光る銀色の円柱形を取り出してきた。

「これは何ていうものなの?」

「これは缶詰っていってこの中にマグロとかサケとかイワシとか美味い魚が沢山入っているんだぜ、これとても美味いんだよな」

昔、野良の間で聞いたことがあったが、中身の入っているものは見たことがなかった。茶色の円柱形しか見たことがなかったので銀色の円柱形を初めてみた。宝石のように輝いて私には空の中央に浮かぶ太陽のように手に届かない崇めるようなものに見えた。

「あ、そろそろじーちゃんが帰ってくる時間だ。今日の夜に廊下にこいよな」

「分かったわ、じゃあまた夜にね」

私は自分の所定位置に戻った。

彼はが言ったとおり、じーちゃんは帰ってきた。

「ユキ、元気にしとったか?」

「ニャー」

「元気がなさそうじゃが、何かあったか?」

これからじーちゃんを裏切るような行為をする自分の気持ちがじーちゃんも伝わったみたい

「ニャーーー」

クリのために自分の感情を押し殺し鳴き直した。

「元気ならよかったんじゃよ」

今日でこの環境で寝れるのも終わりか……

これから、待ち受ける試練のために今日の夜まで私は眠った。


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