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花との約束  作者: 赤鉄 ロボ
一章 大切なもの
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五輪目 マリーゴールド

【五輪目 マリーゴールド】

私は母さんのお腹の中にいる時から今に至るまでの全ての記憶が残っている。胎内記憶っていうらしい。

彼が本当の家族じゃないってことも知っている。

私は真っ白の毛をしている母さんがいた。

大堰川にピンクの花びらが満開に咲き誇ったあの日、土手の川沿いで私は生まれた。

父親は私達は生まれた時には居なかったが、母親が大切に育ててくれたのを覚えている。

一緒にご飯を食べたり、昼寝したり、狩りの方法を教えてもらった。

ただ、一つだけ聞いていないことが………私はある時、母にある質問をした。

「ねぇ、母さん私の父さんは何処にいるの?」

母さんは私がした質問に解答するのを少し拒んでいるように見えた。

「父さんはね、お花になったんだよ」

「お花?」

「そう、お花よ…」

「どんなお花なの?」

「黄とオレンジの花がたっくさん咲いている"マリーゴールド"ってお花」

「へぇ〜"マリーゴールド"か…綺麗なお花だね〜」

「そうでしょ?お父さんの思いが詰まったお花なのよ………」

「どんな思いなの?」

「お花にはね、"花言葉"といって色んなお花に込められた思いがあるのよ」

「じゃあ、この"マリーゴールド"にはどんな思いが込められているの?」

母は私の質問に解答するのを躊躇した。少し時間を空けてから話始めた。


私は小さい頃に母親に捨てられた。

体が弱く、狩りをすることも苦手で生活していくのには足手まといになっていたと私はそう思う。

母親に捨てられるのも当然の身分だ。

公園で餌を毎日、私達にくれる老人がいた。

体の大きい猫にも、体の弱い私のような猫にも皆に平等に餌を分け与えてくれた。

ある日、その老人は私に声をかけてきた。

「美味そうに食べるねぇ〜」

「ニャーー」

「きみも野良かい?」

「ニャー」

「家族はいるかい?」

家族?そんなものは私には居ない。

「ニャ……」否定気味に答えた。

「そうか、一人か……わしも独りぼっちなんじゃよ………寂しいよな」

老人は呟いた。

老人の問いかけに対して私は鳴くことしか出来ない。老人を慰めることも出来ない。

「ずいぶんとお腹をすかせていたんか〜?」

「ニャー、ニャー」

今度は二回鳴いてみた。腹が減っていることを彼に伝えたかったのである。

「そうか、お腹が減っていたんじゃな……辛かったじゃろ?」

「ニャー、ニャー、ニャー」

さっきよりも強く、力を込めて三回鳴いてみた。私が経験した安定した餌のない辛さ、安心して暮らせる場所、自分を愛してくれる家族が私には居ない。そんな辛さ、苦しみをこの人なら分かってくれるような気がしていた。

小さい頃、母に捨てられる前の記憶の中に母にこう言われたことがあった。

人間は私達を捕まえて酷い目にあわせるんだよ。狭い檻の中に入れて、最後には殺すらしいと。

でも、この人にはそんなことをする気配は感じられなかった。

寧ろ、この人からには母からも感じられなかった"不思議な力"を感じた。

この力はなんだろう……

心があの老人に奪われていく……まるで、心を許せる自分の居場所が見つかったように。

「そうか、苦しかったんじゃな………明日も公園に来るからな」

老人はそう言って、公園から去っていった。

また、来てね。いや、絶対に来てほしい。彼にそう伝えたかったが、意思疎通が出来ない。

その夜、雨が降ってきた。冷たい風と雫が私の体に打ちつける。

私は雨風が防げる東屋のベンチの下で眠った。

次の日、昨日言った通り、老人が現れた。

「ほれ、煮干しを持ってきたぞ〜、お前も食べんさい」

「ニャ〜、ニャ〜」

「お前さん、昨日よりも今日の方がいい声で鳴けたじゃないか〜」

「ニャ〜」

老人からもらった煮干しを頬張る。

「美味しいか?相変わらず、美味そうに食うなぁ」

「ニャーーー」

「あんた、住む所はあんのかい?」

「ニャ…」

「無いのか……そうだ、わしの家にいるやつと友達になってくれないか?」

「ニャー」

「有難うな〜」

老人は私を抱き、家まで連れて行ってくれた。

いつもなら、凩が私の体にあたる。しかし、今は彼の温かい胸の中。こんな風は全然平気だった。

木造の年期の入った家についた。庭には盆栽や植木鉢に植えられた花が無数にあった。私はその中でもマリーゴールドに目がいってしまった。普通、この季節なら枯れているはずのこの花が雪に埋もれながらも咲いている。

彼は私を家の中に入れると汚れていた体を丁寧に洗ってくれた。

見たことのない大きな音と強く暖かい風が吹いてくる機械で私の毛を乾かしてくれた。

人間に飼われる家猫になったのだ。私は家猫デビュー出来たのだ。

「野良だから名前無いじゃろ?」

名前とは何か分からない…………

「お前の名前は"ユキ"だ。よろしくなユキ」

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