三輪目 羊草
【三輪目 羊草】
大堰川のせせらぎ、雲はひとつもなく太陽がスポットライトのように俺達をあてている。
「レフコス、何処に獲物を狩りに行くんだ?」
「池に行きます!」
「いいね〜」
「楽しみだなぁ」
「楽しみですね」
兄妹が口々に答える。
俺達は空と同じ水色の橋を渡った。橋から大堰川にいる魚の鱗が太陽に反射して輝いている。
「魚ですね!」
「お兄さん、魚が飛び跳ねてる〜」
「美味しそうだなぁ〜」
「相変わらず、グリは食いしん坊だな」
「あれ全部食べられたらいいのになぁ〜」
レフコスが楽しそうに子供達を話している。俺達はグリの話を聞いて笑った。
橋を超えた後、交差点があった。案内標識を見ていると"国道四百七十七号線"と書いてあった。
交差点の左には運動公園があり、子供達がサッカーをしていた。
「人間の子供がいますね……皆、気をつけてください」
レフコスは俺達に注意喚起をした。もし、子供達が襲われたら……あの時みたいに…レフコスの記憶が蘇る…
レフコスは一瞬、立ち止まったが気を取りなおして前に歩いた。
"府道二十五号線"の方に俺達は歩いていった。
青々とした空に入道雲の白、成長した稲の若葉色の三色で作られる田園が見えてきた。
若草色の稲は風でたなびいている。
「今の季節に蝗はいないかぁ……」
グリは残念そうに独り言を呟いている。
「あ!」
グリはいきなり元気になった。
グリの目先に虫を取りに来たネズミの親子が居た。
ネズミの親子は虫に集中していてグリには気づいていないようだ。
今だ!……
グリはネズミの親子に飛びついた。
グリは親の方を捕まえた。
「やったぁ〜」
グリは喜んで帰ってきた。子ネズミは呆然としていた。風がだんだん強くなってきた。
グリは子ネズミも捕まえようと再び、田んぼの方へ………
「やめろ………」
誰が言ったのだろうか…
グリは田んぼに向かって行ったので聞こえてはいなかった。
広大な田園を一時間ぐらい歩くと池が見えてきた。
平の沢池と書かれた交差点を左に曲がり、「水鳥の道」に来た。
池に咲いている睡蓮の花と池に反射されて映る空の色が見えた。
レフコスは池の近くにいる森の中の獲物を狙いに来たようだ。
池の奥にある森に近づいた。木陰からは烏の鳴き声が聞こえる。森の入り口は薄暗く不気味だった。
「木の隅に隠れている獲物を狙ってください、あと他の動物には気をつけてください」
「分かりました」
兄妹は元気よく答えた。
「今から一時間、誰が獲物を沢山捕まえられるか競争しましょう!」
レフコスはそういって薄暗い森の中に入っていった。
「僕達も獲物捕まえるよ〜」
フルーフも気合をいれて森の中へ……あとの弟妹も森の中へ入っていった。
俺も負け時と森の中に入ろうとしたが少し不気味で暗い森に入るのは躊躇した。
俺はレフコスの命の恩人なんだぞ…恩人がこんなに怖がりでいいのか?
と自分に言い聞かせた。
この世界で生き抜かなければならない。こんな所で立ち止まる訳には行かないのだ。
「助けてーーー!」
森の中から声が聞こえた。アズの声がした。
助けに行かないとー!
しかし、足が動かない………何故だ…
レフコスを助けた時はすぐに体が動いたのに…
俺は森の入り口で呆然と立ち尽くしていた。
『ここで助けないとお前は一生悔やむことになるぞ、それでもいいのか?』
聞いたことのない年寄りの声だ。
『レフコスなどに馬鹿にされても良いのか?』
俺は年寄りの声に押されるように光りごとく助けを求める声の方へ俺は走っていった。
茶に縞模様の入った俺と同じぐらいの年のメスが烏達に追いかけられていた。
烏に啄まれたような傷が彼女の体に無数にあった。
風が強くなり、木々はワサワサと音を立て森の中の不気味を引き立たせているようだった。
俺はレフコスを助けた時のように烏を追い払った。
烏は仲間を呼んで東の空から無数にやって来る。
追い払っても、追い払ったも………烏達は容赦なく俺達に襲いかかってくる。
もうお終いだ。そう、心の中で告げた。
その時、俺達に襲いかかろうとした烏が吹っ飛んだ。
俺も彼女も呆然としており事態を把握してはいなかった。
「貴方も私を追ってきたの…………?」
彼女は疲れ切った表情でそう言い彼女は目を瞑った。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫〜?」
「怪我はない〜?」
「体は大丈夫ですか?」
フルーフ、アズ、グリ、レフコスの四匹が飛んできた。
あっという間に俺達を襲ってきた烏の群れを倒した。
「あの時の借りを返せましたね!」レフコスは満面の笑みでそういった。
「ありがとう……」この一言でしか言い表せなかった。
平の沢池の帰り道、田んぼの青々とした稲と夕焼けのオレンジの空が俺達を優しく包み込んでいた。
「おじさん、この娘どうしたの?」
アズが俺に質問してきた。
「俺はおじさんじゃないけどな………森の奥から助けを求める声がしたんだ。その後はあまり覚えていないけど、気がついたら俺はこの娘を助けていたんだ」
「そうだったんだね」
「皆、助けに来てくれて本当に有難うな」
「あの時の借りを返せて良かったです!」
「おじさんが無事で何よりです」
レフコスとフルーフが話した。
「俺はおじさんじゃないけどな…」
「そういえば、貴方のお名前は聞いていなかったですね…こんなに仲良くなったのに聞いていなかったのも不思議ですが…もし、宜しければ名前を教えてくれませんか?」
「俺の名前は"三助"だ!」