フィルター#9
ナミが18になる年の、誕生日の直前の直前まで、俺たちはその話を全くしなかった。
日々のこと、テレビ番組、音楽のことを話す。たまに俺がお菓子をあげると次のときにナミがジュースをくれた。勧めた映画や本の感想を互いに言って、そして歌う、自然に。
ナミが18になる年、誕生日の一週間前が二週目の土曜だった。
「私、19日に18歳になる」
いつものようにちゃんと少し距離を開けて座ったナミが言った。
俺は次の言葉を待ったが、ナミは何も言う気配がない。耐えきれず俺が言った。
「誕生日会するか」
ナミは俺にほんの少しだけ近づいた。
「二人だけ?」
俺の方に重心を傾け、ナミが俺を見つめている。
「うん、あとコイツ」
言いながらギターのボディを叩いた。カンコンと音が鳴る。
ナミは微笑んで、重心を自分の真ん中へ戻す。
「何する?どこ行く?」
ナミは嬉しそうだった。その顔の背後でフィルターは強く色濃くなりほとんど世界は見えない。ナミだけがはっきりと浮いて、俺のすぐ目の前にいる。
「ここで待ち合わせてして、飯食いに行こう。その後は、その後はなんだろな」
俺はとぼけて、首を傾げる。ナミはえへへと笑って、少し照れたように両手で一瞬顔を隠した。
「やっとだね」
そう言われて、俺はギターを弾き始めた。ナミは体を緩やかに、しかしリズムにきちんと乗って、揺らす。そして歌った。