フィルター#8
それはナミが14、俺が23の頃だった。
「こないだ、部活の男の子に告られたよ」
ナミは吹奏楽部でフルートを吹いている。ベンチの隣、でもちゃんと俺から少し距離を開けたところにナミは座っている。
「おお、いいじゃん」
俺は妙な感情を表に出さないように相槌を打った。今日はいつもよりフィルターが濃いな、と思った。
「断ったよ」
ナミはザリザリと靴の裏で地面を擦った。
「なんで?そいつブサイクなの?」
俺は冗談めかしてすべてを誤魔化そうとした。
「ううん、普通。頭も良いしトロンボーンも上手いよ」
ナミはベンチの端を掴むようにしていた手を膝の上においた。
「えぇ、じゃあいいじゃんか」
俺は言葉の終わりと同時にギターをじゃらんと鳴らした。それをナミが横から手のひらで押さえて止める。
「…アキトさん、いるから」
ナミが俺の顔を覗き込みジッと見つめていることに気づきながら、俺は目を合わせなかった。
「あと四年」
それで全部が伝わったようにナミはギターから手を離して
「そだね」
と穏やかに返事をした。その返事で俺にも全部が伝わってきた気がした。
その日もナミだけがより強くはっきりとフィルターの前にいてくれた。