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フィルター#2

目にフィルターがかかっていると話すと、残酷な級友たちは僕を虐めた。教師も「いつか治る」とか「慣れるよ」とか無責任でありきたりな励ましをするだけで頼りにはならなかった。なので自然と学校から足が遠のいて、僕は家で寝転んでいた。


父さんや母さんは学校に行って欲しかったと思う。だけど何も言わず、僕が家に居ることを受け入れていた。


そして僕は親の気など知らず、あることに熱中していた。


我が家はアパートの角部屋で階段に面している。そして僕の部屋はまさしくその階段の隣で、耳を澄ますと誰かが階段を登ってくるパタンパタンという靴音がよく聞こえた。僕は一日中耳を澄ませ、靴音が聞こえるたびに急いで玄関に向かった。そこでドアについている覗き穴の下に、数段しかない脚立をガチャリと広げて登り、覗き穴を覗いた。


運が良ければ、彼女が見れる。旦那さんのときもある、全くの別人のときもある。しかし、確かに日に一度は彼女を目にできるのだ。そしてやはり、彼女はいつもフィルターの前にいてくれた。


それから1年経ったとき、ぱたりと彼女を見れなくなった。何でだ、どうしてだ。旦那さんは今まで通りなのに。離婚しちゃったんだろうか、と幼心に推測し、落ち込んだ。


いなくなってしまった、大切な、本物の、こちら側の、彼女が。


両親は1年もの間、何かに取り憑かれたように覗き穴を覗いたかと思ったら、突然落ち込んで何もしなくなった僕を見て、本当に心配したんだと思う。なので、電子ピアノを買ってくれた。


「音は聞けばいいし、鍵盤は慣れれば目を閉じてても押せるから、ね?」


と母さんは言った。僕は別に乗り気ではなかったが、彼女のいない虚無の時間を過ごし続けるのも苦痛だった。だから、母さんが一緒に買ってくれた教本を開いて、ポーンと音を鳴らした。

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