七つ その兄は傑物にして……
「栄えあるアルノート魔法学院生諸君!!急な結界の展開、驚かせてしまってすまない。私は王国軍後衛部隊3番隊隊長、ヴァン=ベルリウスである!!」
彼の名を聞き興奮した様子で騒ぎ立てる学院生達。そんな彼らの心象とは対照的に、俺は内心冷や汗を流していた。
ヴァン=ベルリウス16歳。その名から分かるとおり俺の今生の兄であり、15歳という若さで王国軍に入隊。その後1年足らずで後衛部隊3番隊隊長という地位に上り詰めた……正真正銘の傑物である。まぁ、あの二人の間に産まれた子供、その長兄。才ある者である事はまぁ必然と言えば必然であった。
だがそんなことはどうでも良い。俺にとっての問題はそんなことではないのだから。
こいつはどういうわけか、俺の魔法に関する実力に気付いている節があった。具体的にどの程度まで使えるかは知らないだろうが、俺に魔法の才能があることを確信しているようだった。
それにこの結界、ご丁寧に俺の【力動減衰】を無力化してくれているらしい。おかげで身体は絶好調だが嫌な気がしてならない。
「こんなに広範囲に結界を……それも一瞬で……!」
隣のベンが信じられないといった様子で呟いている。リルアは……ポカンと口を開けているな。
周りの学院生達の様子としても、その実力に興奮する者、唯々感嘆の意を零す者、放心する者……というおよそ3パターンの反応が目立っていた。
だがこの反応も無理のないことではある。そも、結界魔法とは恐ろしく難易度が高い。
例えば、2人を囲う形の簡易結界(物理的干渉を遮る結界)を5分維持させることは、よほど不得手でない限りはほとんどの魔術師に可能である。
だがこれが50人になったりだとか、簡易結界以上の効果を付与したりだとか……あるいは1時間の維持を続けるとなると話はまるで違ってきてしまう。
現状、すなわちヴァンが展開している結界について言えば時間はさておき収容人数、その効果が化け物じみている。このレベルの結界魔法を扱える者など、このクラスティア魔法王国中を探しても片手で足りてしまうだろう。
そんな優れた結界魔法を目にする機会は限られている。それこそ一平民などにとっては一生に一度あるかないかといえるほどであろう。そういう点からも彼らの反応は正しいものだった。
俺はまぁ……やろうと思えば出来るし、何回か見たこともあったせいでそれほど興奮することはない。
気にかかるのはその効果なのだが……説明を待つしかあるまい。
「本日は諸君らの魔法に関する試験が実施される予定だったはずだが……今回はいつもとは違う試験を行わせてもらう。詳しくは学院長自らご説明いただく。心して聞いて欲しい」
「皆、聞いての通りじゃ。本日の試験は通常の水晶による試験とは異なる。今回は……」
そこからの説明を簡単に要約するとこうだ。
・第一試験と第二試験の二つが存在する。
・第二試験には第一試験に合格した者のみが参加可能である。
・第一試験の内容は、ヴァンが展開した結界からの脱出を1時間以内に行うことである。ただしその方法については自由。
・なお結界内では魔力因子が枯渇することはない。
・第二試験の内容は第一試験終了後に告知される。
以上だ。魔力因子の枯渇がないとは言っているが、おそらく少し違う。大方、【常に最良の状態を保つ】みたいな効果が付与されているんだろう。そうでないと俺の【力動減衰】が解除されたことに説明がつかない。
「何故突然こんな試験を行うのか?そんな疑問を持っている者もいることだろう。だが勿論理由はある。詳しくは言えないが……そうだな、来年、我が後衛部隊3番隊には3名の欠員が出る予定だ。さてこの穴をどう埋めたものか……」
「……つまり?」
「そういうこと……だよな??」
「〜~〜っっっ!!」
「よっしゃーーーーっっッ!!!!」
辺りは熱気に包まれた。ヴァンのやつ……扇動者でも向いてるんじゃないだろうか??
等とどうでもいいことを頭の端で考えつつも、俺自身かなり焦りを感じていることを自覚していた。
恐らくだが……結果内では全ての魔法が全力に近い形で放たれると思う。あくまで推測だが、今の効果を見ればありえる話だ。
別に俺が全力で魔法を使ったとしてこの結界を破壊できるかは分からないが……問題はそこじゃない。
俺の全力の魔法が多くの目に晒されること、これが問題だ。
おそらく学院生では俺に及ぶものはいない。自慢しているようだが、転生の恩恵はそれほどまでに大きいものだ。努力していない俺でこれなのだから。
そんな俺の魔法を見られれば評価を改められかねない。何かの間違いでそのまま軍事へなんてのは真っ平御免だ。
だからといってなにもしない訳にも行かないのが俺の立場だ。
やっても出来ない。これはまだいい。いや、良くはないが、どうしようもないのだから仕方がない。
だが、唯やらないから出来ない。となると話は違う。あくまで俺は領主の息子。そういう姿勢は俺たちの家をよく思わない貴族からしたらいい攻撃材料になってしまう。さすがにそれではヴァルリアルやリンフィアに申し訳が立たないのだ。
そういうこともある程度分かっていたから、今までは弱体化した俺の全力を見せてきた。あくまで姿勢は向上的であるかのように見せるために。
まぁ、教室内ではちょくちょく怠惰な面も出ていただろうがその位は構わないだろう。
となると、俺はどうしたものだろうか?
……とそんなことを考えている間、無情にもその時はやってくる。
「それでは皆!学院生として恥ずかしくない姿を見せるように!!開始っ!!!」
というヴァンの号令により、試験は開始されるのであった。
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