六つ その少年は嵌められる
「しかし……それは問題となるのでは??」
「構わぬでしょう。学院はあくまで才ある者を優遇すべき場所です。こういった対応など何らその趣旨に違うものでは無い」
「ううむ……」
白髪にハットをかぶった、いかにも魔道士。といった風貌の老人、クロース=アルノート学院長は難しい顔で天を仰いでいた。
そんな様子の彼に対するは、黒いロープに身を包み、その胸元に2本の杖が交差した紋章を刻まれた少年。
彼らの口調から察するにどうやら少年の方が立場が上らしかった。
「ではその方向で頼みます。クロース学院長殿。ではまた」
有無を言わさぬ口調でそう言い残し、部屋を後にする少年。
クロースは、声にこそまだ幼さが残るものの、その堂々とした姿に感心すると同時になんとも言えない気持ちになっていた。
「……はぁ。あれでクァイスと兄弟と言うのなら月とすっぽんじゃな」
……とはいえ。
もしクァイスが本気を出せばあるいは?などという可能性を考えずにはいられない。
そういう意味では今回の提案は願ったり叶ったりであった。クァイスの思惑がどうであれ、彼の実力を見られる機会。クロースは年甲斐もなく気持ちが高揚するのを感じていた。
そんな気持ちも、クァイスの兄の力の底がまるで見えなかったことに原因しているのかもしれない。……とクロースはそう自己解決したのである。
■ ■ ■
「うあぁ……早く終わんねぇかなぁ……」
そんな、いかにもやる気なさげな声を漏らすのは当然俺。クァイスだ。
これから始まる試験に緊張しているらしい大勢の学院生たちから一斉に睨まれたが、知ったことではない。
まぁ緊張してしまうのは無理のないことなのだろう。この一回の試験で己の将来が決まる可能性すらある。勿論軍事に関わる形であるが。
「カイスはさ~?ちょっとは頑張ろうとか思わないわけ??」
「思わない」
「うわ即答!」
そんな気楽なやり取りをする俺とリルア。
ベン?ベンは隣で青白い顔して突っ立ってるよ。例に漏れずこいつも緊張しているらしい。
それに対してリルアはなんというか……リルアだった。本人曰くさっきのやり取りで吹っ切れたらしい。よく分からんがね。
俺がこの試験を早く終わらせたいのは面倒臭いから……というのもあるが、それ以上に自分自身にかけた魔法の効果がいい加減辛くなってきたためだ。
魔法学院に来てからかけたんじゃ、誰に見られるか分からないため、家を出る時に己に所謂デバフとなる魔法をかけてきた。
そういう訳で、家を出てから今に至るまでずっと【力動減衰】をモロに受けた状態でいる訳だ。そのせいで身体中の魔力因子は無茶苦茶、身体は重いのなんのって感じだ。
とはいえ仕方ない。俺が戦争に駆り出されないためには必要不可欠なことなのだ。仕方ないのだ!!
「どうかした?」
「なーんでも??」
……顔に出ていたのだろうか?まぁ別にいいが。
……と、そんな他愛のないことを考えているうちに前方の学院生達が騒ぎだす。
「お、おい嘘だろ!!どうしてあの御方がこんな所にいるんだ!?」
「そんなのどうだっていいわよ!どうにかしてあの御方のお目に留まれれば!!」
「辞めてくれ……ただでさえ緊張してるってのによぉ!!!」
様々な反応があるようだったが、皆、驚愕という点については共通しているようだった。
「リルア〜誰が来たのか見えるか?」
「うーん……よくわかんないなぁ」
遥か前方を眺めながらリルアに問うが、どうやらリルアもよく見えないらしい。
本来なら遠見の魔法で確認すればいいのだが、この場所・状況を考えれば俺が使うべきではないだろう。一応出来損ないを演じているのだから。
まぁ仮に使ったとしても、【力動減衰】のせいでまともに使えるかは怪しいがな。
「なぁベン?お前遠見の魔法使えるか?」
「仮に使えたとして、それを試験前に行使すると思うかい?」
「別にいいじゃん?ベンならいい結果出せるだろ?」
「簡単に言わないでよ……僕は大して魔力因子は多くないんだから」
「まぁ別にどうしても知りたいわけじゃないしいいけどなぁ」
「あのねぇ……」
疲れた表情で俺を見つめるベン。ちょっとは緊張が解ければいいと思ったんだが、あんまり良くなかっただろうか?
とそんなことを考えているその刹那の事だった。
――空気が……空間が一瞬にして固定された。
理解し難いだろうか?だがこれ以上に適切な表現はないのだから仕方がない。
「ま、まさかあの御方の魔法を体験することが出来るなんて!!」
「もうこれだけでも魔法学院に入った価値があるわよ!!!!」
周りはそんな歓喜の声に満たされている。
「す、凄い……」
いつもは適当なリルアでさえ感嘆したような声を上げている。
皆が皆興奮する一方、俺の心は冷め切ってしまっていた。絶好調とも言える体調、すなわち【力動減衰】が解除された身体とは対称的に。
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