五つ その少年は理解する
いつもとは違う時間の投稿でございます。
誤字報告ありがとうございます。非常に助かりますm(__)m
俺はクァイス=ベルリウス。前世、すなわち日本での記憶を持ったまま異世界転生した俺は、これといった失敗をせずにこの13年間を生きてきた。
当然だ。見た目は美少年そのものの俺だが中身は正真正銘のおっさん。経験値が違うのだから、普通の子供がやってしまうようなミスはしたことは無い。
……のだが、今俺は今生一とも言える問題に悩まされている。そう。思春期といえる年頃の少女、リルアの機嫌を直すという大問題に!!
事の発端は知っての通り、小一時間前に起きた教室での言い合いだ。その時一緒にいたベンに
「早くリルアに謝って仲直りしてきな?」
と言われ、俺は渋々リルアを追いかけ追いついた訳なのだが……
(何を謝ればいいかわからん……)
校庭のベンチに座っているリルアは見るからに不機嫌そうだ。だがおっさんの俺には正直、この娘が何に対して怒っているのか皆目見当もつかないのだ。
こういう時適当なことを言うと地雷を踏みかねない……ということを経験則で知ってる俺は、何も言わずただ彼女の隣に座っているだけだった。
◾ ◾ ◾
それからどのくらい時間が経ったのだろうか。
リルアは俯いたまま俺に問いかけてきた。
「……カイスはさ、この学院で過ごした半年は楽しかった?」
「まぁ、そりゃな」
嘘じゃない。確かに俺のことをやたら罵ってくる奴もいたが、それ以上にリルアやベンとの関わりは楽しかった。
何より、こんな年の子達と同じ立場で話せるなんて思ってもみなかったからな。若さを貰えた気がする……と思ってしまうのも、やはりおじさんしてるんだろうな、俺は。
「じゃあさ……カイスこと……その、バカにする貴族たちのことは嫌い?」
「別に?前も言ったけど、言いたい奴には言わせておけばいいと思うぞ?まして事実なんだからさ」
そもそも俺はこの学院を出て、少しでも軍事に関わる可能性を排除したいのだ。俺を退学させたい彼らと退学したい俺自身。ある意味利害が一致している。
「……ベンのことは……どう思う?」
「あいつは……そうだなぁ。優秀だと思うぞ?あと3年もしたら詠唱もマスターするかもな」
詠唱を完璧に使いこなせる魔道士は国の上位10%ほどだ。それほどまでベンは優秀なのだ。少し気弱なところが玉に瑕だが。
「……私のことは……どう、思ってる??」
「リルアか……お前だって優秀だと思う。まぁちょっと考え無しの行動が多いけどな」
「そんなこと……聞いてるんじゃ…………」
「……リルア?」
声を震わせ始めたリルアの方を向くと、彼女はその目に大粒の涙を浮かべていた。
一瞬狼狽した俺だったが、すぐに落ち着き彼女の肩に手を添える。それに何かを感じたのか、更に涙を流しながら彼女は自身の思いを吐露し始める。
「ねぇ?なんで??どうしてっ!?カイスはここで生活してきて楽しかったんでしょ!??なのにどうして……退学することになっても良いなんて言っちゃうの!!??……私達と勉強して、話して……そんな毎日ももうどうでも良いの??」
「…………」
「少なくとも私は、カイスとベンと……3人で仲良くやれて楽しかったのに!!……ねぇ?カイスは違うの??私達との関係なんて……どうでもいいの??」
「…………」
なんとなく。本当になんとなくだが分かった気がする。
彼女は……リルアは俺がこの学院を退学したが最後、今まで通りの関係では居られないと思っているんだろう。確かにそれは間違ってはいない。俺も今気付いたことだが、俺の身分を考えれば当然と言えば当然だ。平民であるリルアと領主の一家である俺。普通はそんな身分差のある者達が近しい関係を持つのは現実的ではない。
だが此処はコルン領。現領主であるヴァルリアルはそういう身分差をあまり気にしない。もちろん俺自身もだ。そんな現状であればこそ、俺が誰と近づこうが何の問題にもなりはしない。
だから……
「…………っ!!」
リルアの頭を優しく撫でながら俺は応える。
「リルア。俺はお前らとの毎日はとても新鮮で楽しいものだったと思う。それにそんな毎日を終わらせたいと思った事も無い」
「だったら!?」
「でもな。この学院を辞めることも俺にとっては大切なことなんだ。理解しがたいかも知れないけどな」
「私達との数年間を捨ててでも??」
「いいや。捨てる気は無いかな。別に今まで通りで良いんだよ。なんなら毎日うちに来てくれたって良いぞ??俺も俺の親父も気にしないから」
「…………??」
言ってる意味がよく分からないのか、首をかしげつつ固まるリルア。なんだかハムスターみたいでおかしくなってきたぞ。
「ちょっ、ちょっと!なんで笑ってるのよ!!?」
「いや。なんか馬鹿っぽい仕草だなーと思ってな」
「ちょっとは誤魔化しなさいよ!?って違うそうじゃない!!いいの?いままで通りの接し方で」
「あぁ。リルアだって俺の親父がどんな性格かよく知ってるだろ?」
「そりゃあここの領民はみんな知ってるわよ。でも実際に気さくに接するなんて出来ないわ。私達平民には」
「そんなもんか。でもいいぞ。俺はこういう話し方じゃないとしっくりこないからな」
「そんなに簡単に言わないでよ、もう……」
苦笑を浮かべるリルアにさっきまでの悲壮な表情は見られない。いつものリルアに戻ってくれたようだ。それにしても友達との関係を一番に考えている辺り……やっぱりこのくらいの歳の子は優しいのかも知れない。いや、会社のくそじz……上司と比べたら断然優しいな。なんとなくロリコンになる奴の気持ちが分かったかも知れん。……いや、あんまり深く掘り下げるまい。
と、そんなことを、どういうわけか俺のことを半眼で睨んでいるリルアを眺めながら一人思うのだった。
「で、この手は何??」
「いや……なんとなく撫でてやろうかなぁって??」
「ふーん。で、いつまでそうしてるわけ??」
「……すんません」
渋々謝りながら手を離す彼の姿を睨みながら、私は頬が紅潮しているのを隠すのだった。
やっぱり、彼相手だと調子が狂うらしい……とそんなことを思いながら。
■ ■ ■
そこは無機質で酷く圧迫的な空間だった。全面を灰色のコンクリートが包み、そこに存在するのは必要最低限の水のみ。
彼は思う。何故こうなったのかと。
彼は思う。何故間違えたのかと。
彼は思う。何が正解なのかと。
彼は再考する。この問題を打破し再び己に戻る術を。
「#””&&%’!!▲♪%$$*+」
そんな、聞き慣れた聞き取れない言葉。
彼は跪く。その声の主に。
そうする以外、何も出来ることなどありはしないのだから。
もし少しでも、
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