四つ その少年はクラスメートに呆れられる。
「一年次の諸君!今日は知っての通り、能力試験が行われる日だ。その結果次第ではより高度な研究を行う研究室に異動することも可能だ!もちろんその逆もあり得るので、各々全力で挑むように!!間違ってもアルノート魔法学院在学に値しないような結果は出すな!!どこぞの七光りと同じような結果ではどうなっても文句は言えんからな!!!」
教卓の前に仁王立ちしたその男はそんなことを、怒声ともとれるほどの大声で告げたあと、ズンズンと教室を出て行った。七光りとは当然俺のことだ。教師や研究員の中にはやたらと俺を目の敵にしている者達がいる。まぁ実際の成績もよろしくないし言い返そうとも思わない。言いたいやつには言わしておけば良いというのが俺が取ってきたスタンスだ。
もちろん皆が皆俺に対してこういう態度というわけではない。例えば……
「やっぱり感じ悪ーい!何よあいつ!!ちょっと自分が偉い貴族様だからってさぁ!!!ね!?カイスもそう思うよね!!?」
「いや……貴族なんだからちょっとどころじゃないと思うよ……??」
頬を大きく膨らませた少女、リルアとそれにツッコミを入れる気弱そうな少年、ベン。いずれも俺と仲良くしてくれているクラスメートだ。ちなみに「クァイス」という俺の名前はどうも発音しにくいらしく、仲の良い人達は俺のことを「カイス」と呼ぶ。
二人とも名字がないことから分かるように平民である。一応領主の息子である俺だが、こんな気さくに関わってくれているのは、俺がその反対を望まないからだ。
平等主義の日本で社畜をしていたおじさんとしては、急に恭しく関わられてはむずがゆいことこの上ないのだ。
それに加えて、ヴァルリアルとリンフィアもあんな性格のせいで、そういう態度を取るのは平民の立場としても比較的容易だったと言える。
「別に良いって。俺は気にしてないんだからさ」
「でもぉ~~っ」
未だに納得できていなさそうな様子のリルアに俺は苦笑を漏らす。他人のために怒っているのを見ると、実に健気で良い娘だなぁと、おじさん心に思ってしまうのだ。
あの若造達の生意気な態度を見るとそれと比較してしまうから、余計にそう思うのかも知れないが。
「でもさ?カイスって本当に温厚だよね?いくら成績が悪いのは事実だとしても、あんな言い方しなくたって良いと思うし……」
「だって、人からの評価には大きな意味なんてないだろ?肝心なのは自分がどう思ってるかだからな」
「何でかなぁ……そこそこ良いこと言ってる気がするのに、成績のせいで説得力が無い……」
「うっせ」
そんなやりとりをする俺たち。最初は中学生かそこらの年齢の子らと、どうやって話したものかと悩んだが、普通で良かったと思い今はこんな感じだ。もっとも、貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが相手だとそうもいかないが。
「でもね?カイス??これ以上成績が下がったら流石にまずいと思うよ?」
「ん?どうして??」
「バーカ。そりゃ退学処分になるからだろうよ!」
リルア・ベン以外の声がした方向に振り返ると、四人の少年達がへらへらとした表情を浮かべながら此方を向いていた。四人とも貴族の家柄の生徒であり、その成績も目を見張るものがある者達だ。そして同時に、俺に対して敵対心をもつ生徒でもあった。
「ちょっと!!どうい……「どういう意味ですか?ファネル様??」ッ?」
リルアの怒声をかき消すように、冷静に問うベン。学院内とは言え、仮にも貴族を相手にタメ口では問題がある。砕けた敬語でもまだましだし、ベンは正しいと思う。
「平民が気安く話しかけるんじゃねぇよ!!」
「っ……」
取り巻きの内の一人がそう叫び、その反応に唇をかみしめるベン。平民と貴族の身分差というものは絶対だ。確かにこういう態度を取られることも珍しい話ではない……のだが、原則学院内ではそういった事は推奨されていない。当然だ。貴族だからといって恭しくしていてばかりでは授業の進行に差し障るし、成績の忖度が発生しかねないのだから。
「あー。じゃあ俺が聞くからさ。どうしてなんだ??」
「……お前だって平民だろうが……」
「元だ。今は違うだろうが」
俺の実家、ベルリウス家の立場は非常に曖昧なものだ。具体的には「栄誉貴族」とされており、元々平民だった者達に対して、「勲章」に近い形で送られる地位だ。ただし、「栄誉貴族」に実際的な権力は何もない。多少裕福に暮らせ、平民の目指すべき象徴となる。その程度だ。
当然送られたのは俺の父母であるヴァルリアルとリンフィア。なんでも前回の防衛戦争で二人とも目まぐるしい活躍をしたらしく、この地位を皇帝陛下より賜ったらしい。
それだけならば、俺たちベルリウス家は普通の貴族より圧倒的に下の身分であっただろう。
だがそうはならなかった。皇帝陛下は、二人に対して「栄誉貴族」という地位一つでは申し訳なく感じたらしく、同時にここ、コルン領の「領主」に任命した。
「領主」は名実ともにその土地の支配者と言える。その土地で起きた犯罪を裁く事も出来るし、誰かに裁かせることも出来るほどに。
その土地に限れば皇族の次に強い権力者となるのだ。
したがってベルリウス家は、「貴族」より身分が下である「栄誉貴族」でありながら、「貴族」より強い権力を持つ「領主」という立場だったわけだ。
「学園長が仰ったんだよ。今回の試験で最も成績が悪いものを退学処分にするって」
「ど、どうしてそんなこと!?」
「当然さ。学園始まって以来の出来損ない。そんな存在が居たら学院の評価も落ちるだろう?」
「だからってっ……!?」
「わかったわかった。そういうことなら頭に入れとくよ」
こともなげに言う俺に注目する6人。さっきまでくってかかる勢いだったリルアも固まっている。
「えーと?どうした??」
「いやだって退学だよ!?そんなあっさり割り切れないでしょ!??」
見上げる形で顔を近づけ叫ぶリルアに少し後ずさりながら俺は応える。
「いや別にこの学院に思い入れがあるわけでもないしなぁ……寧ろ好都合というか……」
もし俺の魔法に対する理解と技術が知られたら、戦争にかり出されるかも知れない。しかし退学となれば自分から近づかない限り魔法とは無縁になるだろう。その方が俺にとってはありがたいのだ。
強いて言えばヴァルリアルとリンフィアに申し訳ないってくらいか。
「好都合って……本気で言ってるの……?」
「そうだけど?」
「カイスのバカッ!!!」
そういってリルアは教室から走り去ってしまった。え?俺何かまずいこと言ったか??
そう思いながら残っている5人に視線を向けると全員が「こいつないわー」みたいな視線を俺に向けていた。
何故だ!?何がいけなかったんだ!??
「あーもういいわ。お前が退学するならそれ以外はどうでもいいしな。いこうぜ」
そう言いながら呆れた表情で離れる貴族4人衆。ちょっと待てよ?お前らそんな視線向けるキャラじゃねぇだろうが。
「なぁ??ベン???」
「……カイスはリルアのことちゃんと見た方が良いよ??」
だからどうしてそうなるんだよぉぉぉぉぉ!!!
……と一人でそんなことを思う俺、クァイスであった。
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