一つ その少年は領主の息子である。
初めまして。薪園すぅと申します。
基本的には土曜日の21時に更新を続けていきたいと思います。
拙い文章ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
我、世界の理に干渉し新たな摂理をもたらさん。
其はこれらの導きがもたらさんとし
其は我に聴許を賜り
其は万物に加護をもたらす。
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■ ■ ■
クラスティア魔法王国は首都郊外。これと言った特徴の無い町では人々は皆天井を歩いている。
……ただ一人の少年を除いて。
そんな光景が視界に入った少年は思う。はて?いつから人々は重力に逆らう存在になってしまったのだろうか、と。
「ねぇねぇお兄ちゃん?何してるの??」
一人の少女が首をかしげつつ少年に問いかける。
「ん?それってどういう意味かな?」
「……お兄ちゃんってもしかしてお馬鹿さん……?」
そんな失礼なことを呟きつつ少女は、彼女の母親と思しき人物の元へ走り去っていった。
「……?どうして馬鹿って言われちゃったんだろう?」
「そ!れ!は!……お前が大馬鹿者だからだよ!!」
いつの間に近づいていたのか、大柄な男が顔に青筋を浮かばせながら少年を怒鳴りつけた。
「これは父様。父様も重力に逆らっているのですか?」
「何を訳の分からないことを……その様子だとまるで反省してないんじゃねぇか!?もうかれこれ一時間は経つと思うが?」
「父様こそ意を得ぬ事を……何故僕が反省などをするのです?」
「そんな台詞は!お前が兄のような優秀な成績を取ってから言え!!」
「僕は僕であり、兄ではありません。比較するのは不毛でしかありません」
「あぁそうだお前は兄ではない!けどな!!お前はこの町を治める領主、ベルリウス家の次男だ。そんな人間が学院至上最も成績下位者であるのはいただけん!!」
ギャースギャースと。そんな文字が見えそうな雰囲気が形成されていた。
さて、ご理解いただけただろうか?この町は決して人々が天井を歩く摩訶不思議な場所ではない。ただ少年が反対向けに吊されていただけの話だ。もっとも、本人は吊されながら眠りにつくという、およそ常人には出来ぬ事をしていたせいで自分の状況を思い出せていなかった……単刀直入に言うに寝ぼけていたわけだが。
クァイス=ベルリウス13歳。この町の領主であるヴァルリアル=ベルリウスを父とし、アルノート魔法学院に通う一生徒である。但しその成績は学院始まって以来の出来損ないとされてしまっていた。もっとも、本人はそのことを一切意に介していなかったが。
もっと言うと、そんな周りの評価を一切気にしない性格は、間違いなく父から引き継がれているものだった。
父であるヴァルリアルは常々クァイスに領主として恥ずかしくない姿を求めるが、その教育、もといしつけは堂々と領地内で公開的に行ってしまっている。これでは領主の対面も何もないだろうというのが領民の意見だった。……が、領民はこれと言ってわざわざ意見したりはしない。このような光景は最早この街の名物のようなものになってしまっていたし、領民達としてはなんとなく領主が領民との壁を作っていないようで気が良かったのだ。
「ええいもういい!続きは家に帰ってからだ!ほら、さっさと来い!!」
「歩けます。ですから引っ張らなくても結構……」
何かを言おうとするクァイスをずるずると引っ張っていくヴァルリアル。そんな二人を温かい目で見つめる領民達。
「クァイス様もヴァルリアル様も相変わらずじゃなぁ」
「本当だよ。けどま、あの人達を見ないとなんとなくやる気が出ないんだよな」
「分かる。あんな面白い領主様はなかなかいないよ」
そんなことをクスクス笑いながら話し合う人々。捉えようによっては不敬ととれる言動も此処ではそれほど気にしなくても良かった。他の領主に言わせれば威厳がないだと言われるだろうが、領民達にとっては此方の方が親しみやすくて良いものだ。
ヴァルリアル=ベルリウスが治めるコルン領。此処は領民にとってクラスティア魔法王国で一二を争う程に住みやすい場所だった。
■ ■ ■
「それで?何か言うことはあるかしら?」
「「…………」」
クァイスとヴァルリアル。二人は腕を組みながら仁王立ちしている女性の前で正座していた。否、させられていた。
彼女はリンフィア=ベルリウス。父、ヴァルリアルの妻でありクァイスの母だ。
外見で言うと大柄で筋肉質な父とは比べるべくもなく、女性らしい体つきと腰まで伸びるしなやかな金髪は優雅の一言に尽きる。まさしく美女と野獣という組み合わせであった。
しかしそれはあくまで外見の話。家の中では完全にリンフィアの方が対場が上であり……なんと言おうか……その……どちらが野獣か分からない様な状態だった。と言うのも、先程まではいきり立っていたヴァルリアルはまるで怯える子犬のような目をしているのだから余計にそう思われるのだ。
……クァイスは相変わらずだったが。
「母様?何をそんなに怒っているのです?」
「私が怒っているように見えるかしら?」
「ええ。そりゃもう。父様を十発は殴らないと気が収まらなさそうな顔をしていますね」
ビクゥッ!と。唐突に出てくる己への理不尽に震えつつ、ギギギッ……と首をクァイスに向けるヴァルリアル。その目は「何言ってんの……ねぇ?」とでも訴えているかのよう……な気がしなくもない。
「はぁ。私はそんな暴力に走る女じゃないわよ。と言うかそれを息子に言われると少し思う所もあるけれどね」
ため息一つ。先程までの怒りの雰囲気をおさめたリンフィアはその場に座り込み、息子の顔を覗き込む。
「ねぇ?クァイス?どうして魔法に力を入れないの?私には貴方に才能がないとはとても見えないのだけど?」
「……そうですね。これでも元王国軍後援部隊の二番隊隊長である母様と同前衛部隊の五番隊隊長だった父様の息子ですから……少しは才能もあるでしょうね」
「えぇそうね。事実魔法学院入学時の適性試験では少なくとも合計では平均以上の数値だったわよ?」
「その通りです。そしてそれが全てです」
これ以上言うことは無いとばかりに立ち上がるクァイス。一瞬目を細めるリンフィアだったが諦めたように手を振る。それを見たクァイスは自室へと戻っていった。
「合計では平均以上……ねぇ……」
あのときの適性試験の結果を取り出し、それを眺めながら呟くヴァルリアル。
適性試験とは、アルノート魔法学院に入学するだけの素質があるかどうかを、一次生全員に対して調べるものだ。此処で言う適正とは、何らかの魔法行使に必要な資質五項目を指す。適性試験ではそれらをそれぞれ十点満点の計五十点満点で数値化されるのだ。
ちなみにクァイスの適性度は以下の様なものだった。
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クァイス=ベルリウス 男(12) RANK C
魔法因子量 4/10
魔法因子抵抗 3/10
身体基礎力 5/10
魔法思考性 1/10
魔法志向性 1/10
計 14/50
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「思考性、志向性共に底辺か……まさしく気持ちは魔法に向いてないって感じだな」
どちらもその名の通りの資質だ。思考性は魔法に対する思慮の広さや深さである。但し知識とは少しばかり違う。端的に言えば魔法に対してどれだけ柔軟に思考できるか?と言ったところだろう。
志向性こそそのまま。身も蓋もない言い方をすればやる気のようなものだ。
余談だがRANKは合計点によって下からE、D、C、B、B+、A、A+、S、S+と言った具合につけられるもので、おおよそ五点間隔おきにRANKが上がる。クァイスは十点より高く十五点以下なのでB+だった。ちなみにおおよその平均はDとされている。一見低いように感じるが、入学したての一次生と言えば妥当なラインだ。
「身体的な部分はそこそこの得点なのに……せめて志向性だけでもあれば良いのだけど……」
「まぁ……仕方ねぇよ。コレばっかりはクァイスの気持ちだしなぁ……」
「それもそうね。じゃあ続きを話しましょうか?」
「………??」
「私、貴方に対してはまだ言いたいことを言えてないのよ?」
「はっはっは……」
ニコリ……と。目以外で笑ってみせるリンフィア。
「私、聞きましたよ?またクァイスを町中で吊したそうじゃない??」
「それは……な……ほら??」
「言い訳は結構!貴方は領主という立場をなんだと思って……」
ヴァルリアルは一人般若と化した妻に頭垂れながら、涙ながらにいつ終わるのかなぁ……と思ったそうな。
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「適性試験か……懐かしいなぁ……」
自室に戻った俺は机に置かれている水晶に手を翳す。すると、水晶は淡く輝き初め……やがて数字が浮かび上がった。
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クァイス=ベルリウス 男(13) RANK S
魔法因子量 10/10
魔法因子抵抗 10/10
身体基礎力 10/10
魔法思考性 10/10
魔法志向性 0/10
計 40/50
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俺はこの結果に苦笑を漏らすのだった。
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