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 何故、初対面の筈の王子兄が私の事を知っているのかな?


「ルーファスよ、何故彼女がベアトリーチェだと知っている?会った事があったのかね?」

 そりゃ王様だって聞きたくなるわ。私も知りたい。

 私が初めて王宮に来たのはかなり幼い頃。でもその時点で王子は1人だけで、王子兄であるルーファスは居なかったし、存在自体なかったかのようにされていた。

 私であるベアトリーチェとルーファスの面識なんてあるわけない。

 まあ、今の私はゲームをした別世界の記憶があるから知ってるけどね。

「…………いいえ、アズールの婚約者の特徴を、教えてイタだいていましたカラ。確か、彼女は婚約を破棄され、ナンキンされている、と聞いておりましたので。ここにイルということは、私が聞いて把握している現状と、若干の齟齬があるのカト思いまして……」

 ルーファスは少し考えてそう答えていたけど、なんかちょっと違和感がある。

 私の特徴を聞いたぐらいで分かるのかね?軟禁されてるって聞いていたなら、ここに居るなんて考えないだろうに。

 どこかで出会っていたとか?

 私がここに居るってことが、何かしらゲームの展開に影響しちゃってるのかね。

「……トコロで、何故彼女は婚約を破棄されたのですか?」

 え、それ今聞いちゃうの?

「聞いていなかったのかね?」

「ショウサイまでは……王子の婚約を破棄するというコトは、とても重要な事態になっていると私はカンガエたのですが。この国の王族の婚約者とは、幼い頃にサダメられた重要な役目であるとリカイしています。ですから、何かがあったのかと」

 ごもっともです。

 伊達に王妃になる教育を幼い頃から叩き込まれていませんわよ私。

 婚約者になることは名誉あることだけど、前提として由緒ある家柄の頭のいい令嬢という条件に合致しないといけない。

 この国の王妃様ってお飾りじゃなくて、王様と同等かそれ以上の仕事があるのよねぇ。

 王様になるのは王族って決まってるから頭の良し悪しの方はどうにもならないけど、王妃様の方は家柄が良いという条件さえクリアすればいいことになってる。

 てなわけで、万が一ボンクラ王様だった場合の保険で、王子と同じくらいの年の子供から頭のいい子を探し、幼い頃より徹底的に教育していくシステムだったりする。歴代の王妃様は素晴らしい方々でした。

 そこに愛だの恋だのはないが、婚約者に選ばれた子供は誇りをもって学んできている。

 ベアトリーチェも聡明な子供だったもんだから、婚約者の重要性を早々に理解し、国の為に勉強してきていたのだ。凄いね私。でもごめんね、私の方の自我が強くなったので婚約者は廃業し立派なオタクになります。

 そしてこのシステムのおかげで、古くからこの国は安定して平和だというのに、王子様が別の子に惚れただけで婚約破棄が認められたのが驚きですね。

 ここまでしっかりと王様と王妃様の設定作っておいて、それを根底からぶっ壊したゲームの展開に、シナリオライターの暴走説が頭を過りましたよ。

 ていうかオイオイ、海外育ちの王子様の方がきちんと王族と婚約者の関係性の意味を理解してるっぽいぞ。

 やべーぞこの国の正統な後継者の方の王子。

 ……にしても、ルーファスのこの落ち着きは何なんだろう。戸惑ってるってのは感じるけど、状況を冷静に把握しようとしているし。なんか大人びてるなー。

 こんな性格だったっけルーファスって。

 後半部分の周りが敵だらけの追い詰められたヤバいルーファスの印象が強くて、初期の頃のルーファスの印象があまり無いや。

「情けない話だが、アズールが学園でそこの娘に惚れてしまってな。私と妃が王宮を空けている間に、婚約破棄の手続きをしてしまったのだよ」

「王子の独断だとしテモ、王の権限がアレバ取り消せるのでは?」

 正論です。王子の理不尽な独断なんて王様の一言で撤回可能です。

 本来ならね。

 ただほら、このゲームはヒロイン優先で進みますからね。ヒロインの為に前回くっついた相手を葬り去るぐらいやっちゃうゲームですからね。

「そうしたかったのだがな、丁度私と妃が王宮から離れていたのと、アズールが婚約破棄を言い放った場には他のご子息もそろっていて、同意書に彼らのサインもあってな、正式に認められてしまっていたのだよ」

 ゲームのご都合主義ここにあり。そんな馬鹿な……という感じだが、それが通ってしまうのはヒロイン至上主義なゲームだからだろうね。

 前提として、王子との婚約破棄の条件には、位の高い貴族たちの承認が5人以上必要というものがある。

 脳内恋愛脳お花畑状態の王子様だったのにね、なんと、あの婚約破棄現場できちんと他の攻略対象の男の子たちの同意のサインがある同意書を用意するという頭はあったのだ。

 まああれだ。ヒロインを勝ち取ったのが王子様だったため、ヒロインを射止められなかった彼らはサインをせざるを得なかったのである。王子様の命令はぜったーいですしね。

 てなわけなので、王様不在でも正式にあの場所で私は婚約破棄されちゃってたのである。王子の独断ではあるけど、手続きはきちんとされてたもんだから採用されたのよね。

 婚約破棄されるなんて滅多にない事なので、一回破棄されたら婚約をするところからやり直さなければいけない。子供の頃ならともかく、王子にまっっったく私との婚約の意思がない現状では婚約をし直すのは無理だろうね。

「そうデスか。……婚約破棄は書類上認められてしまったとしても、ナンキンはやりすぎだったのでは?」

 ぐいぐい聞くねぇ。でも疑問に思う気持ちは分かる。

「それは……」

「ベアトリーチェの為、ですわ」

 王様が話しかけたけど、王妃様がそれを遮ってきた。

「アズールの馬鹿げた独断で一方的に婚約を破棄されて、傷つかないはずがないでしょう。彼女の努力は私が良く知っています。あのまま王都にいるよりも、心休まる場所で少しでも穏やかに過ごしてもらいたくて。アズールが言い出した軟禁だったのですが、利用させてもらいました。とりあえず軟禁という名目ですが、出来るだけ融通が利くようにセレネディア家にも通達し、休息を与えていたのです」

 なんと、私のオタクパラダイスは実家の権力だけでなく王妃様お墨付きだったのか。知らんかったわ。

 でも傷心の私を労わるんだったら、そのままそっとしておいて欲しかったわ。

 あ、傷心じゃないってバレたのかしら?

 めっちゃエンジョイしてたしなー。

「ですから、本来ならばもう少し休養してもらいたかったのです。でも、アズールがそこの娘との婚約を進める意思を変えないので、来てもらいました」

 なんだよ。私のオタクパラダイス崩壊の危機の原因はあのバカップルかよ。

 ていうか王宮に来てるけれど、実は王妃様に呼ばれた理由はまだ分からないんだよね。とりあえず重大なことをお願いしたいから来てほしいって感じだった。

 なんだなんだ?もしかして、ヒロインの教育係でもやってもらいたいとかじゃないでしょうね。

 凄く面倒なんだけど。

 教えたところで、虐められてる……ってまた言い出すよあの子。学園時代のベアトリーチェの善意は、ヒロインには全く届かなかったからね。

 しかも教育係だった場合、ガッツリヒロインに関わっちゃうじゃん。死亡フラグがおいでおいでしてるよやめてー。

「…………そうか。私がこの国に呼ばれたノハ、そういうコトか」

「察しがいいですね。その通りです」

 はい?

 なに、どゆこと?

 私には何が何だかさっぱりです。

 頑張れベアトリーチェの私!今のやり取りでどうして呼ばれた理由をルーファスが理解したのか考えて!頭脳明晰なベアトリーチェなら分かるはずよ!

 ……ダメだ分からん。ベアトリーチェ単体だったら推理出来たかもだけど、私成分が強すぎて頭脳が追い付かない。

「ですが、私は……」

「強制するつもりはありませんよ。けれども、今は正式にしていただきます。もちろん王も了承済みです。ですよね?」

「ん?ああ。そうだな。アズールがあの様子では、それが最善なのだろう」

 やべぇ全っ然分からない。

 王子とヒロインもポカン顔だよ。ヤダよこの2人と同じ頭ってこと私?!

「実質、私にキョヒケンはないというコトですか」

「いいえ。もちろん拒否できますわ。ただ、今はそうでもベアトリーチェと交流を深めたら考えが変わるかもしれないでしょう?もし、ベアトリーチェの事を良く知った後で断りたいと思えば、すぐにでも対処するわ。でもそれまでは、正式なものとして扱うつもりです」

 あーなんだかちょっと何が起こるか分かってきたけど認めたくない。

 これ、多分王様が考えたんじゃなくて王妃様が考えた……?

 えー?ちょっと意外。ルーファスの経歴から考えると、王妃様がそれを提案するとは思えないけど……

 

 ルーファスは王子とは腹違いの兄だ。

 ベアトリーチェが王子の婚約者になった時には彼は居なかった。

 いや、無かったことにされていた。

 さっきの王様の紹介の仕方だとあっさりした言い方だったけど、ちょっと面倒な経緯がある。

 ルーファスは王子が生まれる前に王様のお気に入りの妾が産んだ子供で、王子が生まれる前までは次期国王とされていた子供だった。

 だけど、王妃様が王子を生んだ後に妾と共に行方不明となる。

 行方不明になった時期が、王妃様が子供を産んでそれほど経っていなかった頃だったため色々と憶測が飛び交ったらしいが、そこはまぁ、周りの貴族たちは空気を読み、正当な次期国王が生まれたから身を引いて居なくなったのだろうという結論になったらしい。

 そんな感じだったから、特に捜索されることなくしばらく放置されていた。

 でも最近になり遠い妾の故郷の国で、大富豪と結婚した元妾の母親と、新たにできた弟妹と幸せに暮らしていたのを発見されてしまう。

 丁度その直後、王子が独断でベアトリーチェとの婚約を破棄。王子がヒロインと結婚するとわがままを言っているから、王子兄がいることできっと真っ当な思考になってくれるだろうという理由で、王子兄は強制的に連れてこられたのだ。


 ……というのが、王子兄ルートの中で判明する彼の生い立ちである。

 王妃様周辺にとても闇を感じるね。これってルーファスが生きていなかったら暗殺疑惑案件だよねぇ。

 だけど、経緯はどうあれ一応王子兄は家族と共に幸せになっていたんだよね。王宮に残っていたら王位継承がどうのこうのって大変なことになっていただろうから、結果的に良かったんだと思うよ。


 ただし、王様に強制的に連れてこられなけば、だけどね。


 王子とヒロイン、マジ迷惑だね!

 と、こんな経緯なもんだから、最初の頃はヒロインに対して王子兄は冷たい態度を取ることが多い。

 当たり前だ。異国とはいえ大富豪の息子としてきちんと育ったルーファスからすれば、王子がなんでそんな馬鹿な行動をとるんだ?と疑問だらけだと思う。実際に、ゲーム中で王子が暗殺さる前までは、王子の王子らしくないような振る舞いに苦言を呈することが多い人物だった。

 そして、王子にそういう行動を起こさせたヒロインに対してはマジで軽蔑していた。結構ガチで。私にはそう見えた。

 ただし、ヒロイン視点で繰り広げられるゲームなので、ヒロイン的には「きっと異国の地で不安なのね。私が味方になってあげないと!」という具合だった。

 不思議だよねー。男の子からの敵意は受け流し、ベアトリーチェからの親切心は敵意として受け取るんだよねー。

 てなわけで、私が助けてあげないと!精神でヒロインは止せばいいのにルーファスにめっちゃ話しかける。

 もちろんルーファスは迷惑そうにする。

 それをヒロインは「素直になれないんだね!大丈夫!私は味方だよ!」と余計に構う。

 ルーファス更に避ける。

 ヒロイン「寂しいんだね!」と更に……

 空気読めないのが乙女ゲームのヒロインの条件かな?

 王子兄ルートに進むためだと割り切ってやっていたけれど、段々ルーファスが可哀想になってきていたよ。

 だって、態度を見る限り本気で嫌がってるのに、ヒロインの思考では素直になれない態度として解釈してるんだよ。

 私の中でヒロインストーカー説まで出てきていたよ。

 んで、あまりにもヒロインがルーファスに構うもんだから、王子はルーファスに対して敵意を向ける様になり仲は険悪に。そしてそれを利用されてやがて悲劇が……

 やべぇ、ヒロインっていう名の疫病神なんじゃないかと思えてきた。

 地雷女を地で行くヒロイン怖い。

 ……あ、ちょっと現実逃避してどうでもいいことまで思い出してたけど、つまりは王妃様は妾とルーファスを追放した人っぽくゲーム内で描かれていたのだ。

 断定的な事は分からなかったし、ルーファスもその辺は語らなかったけれど、王子兄ルートを進める限り、ルーファス親子は王妃様に追い出された説が有力だったりする。


 その王妃様が、おそらく王様も同意した上でルーファスを、ついでに私も王宮に呼び寄せた。

 理由はもう察しがついた。

 王子兄ルートでのルーファスがこの国に来ることになった理由に、更に重要事項が追加されている……というより、そっちの理由の方が本題になってる。

 だけど、解せないなぁ。


「今の時点では拒否権は無いものとします。ルーファス、そしてベアトリーチェ。たった今この時点で、王と私の名の下に、貴方たちを婚約者として認めます」


 拒否権ないってよー。ていうか王妃様が言った時点でそんなものあるわけないじゃんー!

 追放されてたっぽい王子兄と、その弟の王子の元婚約者の私が、たった今ここで婚約してしまいましたよ。色々と手続きすっ飛ばしですよ。さっすがー!王様と王妃様公認てすごいね!


 あーもう!私のオタクパラダイス、どうなるの!




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