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 戻ってきました。久々の王都です。

 

 だがしかし、私は一応立場は公爵令嬢。活気あふれる街並みを横目に馬車で通り過ぎるだけだった。

 ちょっとくらい降りたいけれど、私の今の格好は王宮仕様である。何せ王妃様に会いに行くのが目的だからね。動きやすい軽装は正式な謁見の場では失礼なのでご法度。動きにくいファビュラスな見た目の仕上がりでございますよ。めんどくせー。

 まあ別に、令嬢として街中で降りる用事は無い。

 無いけど、ほら、本屋がね?沢山あるのよね。色々なシリーズの最新刊が真っ先に店頭に並ぶのよ。

 寄りたい。物凄く寄りたい。

 あの館で出来る限り早くお取り寄せしたって、王都の本屋に並ぶスピードにはかなわない。

 きっと、あのシリーズの新刊やあの作家の最新作が店頭に並んでいるはず!

 あああ今本屋の前通過したよー!ちょっとだけ、ちょっとだけ降りたいなぁ?ダメ?やっぱダメ?

 軟禁場所、王都の近くに移動できないかな?あそこはあそこで静かでいいけれど、最新刊を手に入れるには若干タイムラグがあるのが難点なんだよね。

 そうそう、丁度いい場所に別荘があるんだよねぇ。今の私のこの令嬢感あふれるゴージャス仕様の格好は、王都近くの別荘で朝早くから仕込んだものだ。流石にオタクライフを送っているあの館から王都までは馬車でも一日じゃ着かないからね。最初からこの格好で旅とか無理無理。最後の宿泊地のそこの別荘で朝早くから使用人が頑張ってくれました。

 そこの別荘に軟禁がいいなー。王都近いし。軟禁場所変更の交渉してみようかな。

 通販できるならあの館でもいいんだけどねぇ。誰か通販のシステム作ってくれないかなー。



「ステラ、くれぐれもジョセフィーヌをお願いね?」

「かしこまりました。ジョセフィーヌと一緒にお待ちしております」

「にゃ~ん」

 王妃様との謁見に猫を連れて行けるわけもなく、ジョセフィーヌは着いてきてくれたステラと一緒に待つことになった。

 ちなみにジョセフィーヌはペット用の籠の中で大人しくしている。

 今朝、王都近くの別荘を出る前に「王宮で自由に動いていると野良だと思われたり迷惑だと思う人もいるから、窮屈だけれど籠に入ってもらえるかしら?」と言ったら自ら籠の中に入っていきました。

 馬車の中でも暴れることなく、たまに鳴いていたけどまるで相槌を打つみたいなタイミングだったりしてた。

 この子、絶対に人語理解しているよね。

 流石私のジョセフィーヌ!可愛いだけじゃなくて頭まで良いなんて!!

 すぐに帰ってくるから待っててねジョセフィーヌ!



 王妃様との謁見だけかと思っていたけど、王様もご一緒でした。まあそれはいいんだけど。


 王子とヒロインも一緒かよ。めっちゃ2人ともこっちをガン見してますわ。


 正式の謁見という扱いなので、王子もヒロインも正装で綺麗に着飾っています。美男美女なのでとても絵になりますねぇ。とりあえず王様と王妃様の方を向きなさいな2人とも。


「……なんでお前がここにいるんだ。王宮に来いとは言ったが、謁見を許した覚えはない」

「あら、私がここに居るのは王妃様からお手紙を頂いたからですわ。王妃様からの許しを頂いているのですから、貴方からの許しは必要ではないでしょう?」

 王子の手紙で来たわけじゃないよ。王妃様から来いって手紙がこなきゃ、王子兄が出現したところでこっちには来ないよ。

 それにしても、この王子の正装はどこかで見た覚えが……それに、この謁見の間にいる面々だとか警備の配置とか色々と既視感が……あ!

 見た見た!この場面見たよゲームで!

 

 ヒロインが初めて王子兄と出会う場面だ!


 うわ、ヒロインと王子兄との初対面の場に遭遇しちゃったよ。

 ヒロインは実はここで王子兄に一目惚れして王子兄ルートへのフラグが発生し、逆に王子に死亡フラグが立つんだよね。

 王子の生死は今後のヒロインの行動で決まる。

 まさか隣でべったりくっついているヒロインが、突然現れた兄に惚れるとは思うまい。

 でも、あれー?ゲームじゃここにはベアトリーチェは居なかったんだけどなぁ。会話のやり取りとか、この後の展開とかどうなるんだろう。私が居ることで今後のストーリーが変わったりするのかな。面倒な事にならなきゃいいけど。



「アズールよ。もう一度聞くが、その者との婚姻の意思は変わらぬというのだな?」

「はい父上。私はアリスのような素晴らしい女性にはこれまで出会ったことがありません。彼女との婚姻を望んでおります」

 うわー久しぶりに聞いたなー王子の名前。そうそうアズールだったわ。

 王様と王妃様以外は殆どその名前で呼ばないんだよねぇ。学園じゃ一回もその名前で呼ばれなかった気がするわ。

 別に王族だからとか、高貴な人を名前で呼んではいけないとか、そんな決まりはない。単純に、王子が自分の名前を気に入らないというだけで、名前じゃなくて王子と呼ばせてるんだよね。

 そのせいで幼い頃からベアトリーチェも彼の事を王子と呼んでいる。名前で呼ぶと機嫌を損ねて面倒くさいからね。空気の読める幼女でしたよベアトリーチェは。私の自我が強かったら嫌がらせで名前で呼び続けていたかもしれないけどね。

 皆が王子王子と呼んでいるので、普段は王子の名前を忘れてるわ。久々に聞いて思い出したぐらいだし。

 そして、ヒロインの名前も出てきたけど……あー、あの子の名前はアリスというんだけど。

 これ、私がプレイしていたルートを基準とした世界の流れだからかな?

 アリスというのは私の元の世界での名前です。畜生。

 デフォルトの名前が無いのよこのゲームの主人公。なんでだよ。乙女ゲームってそういうものなの?昔のRPGかよ。せめてデフォルトがあるけど他の名前も付けられますよーっていう仕様にしてほしかった。うっかり最初にゲームを始めた時、貴女の名前を教えてくださいって画面でつい癖で素直に入力しちゃったんだよね。

 私って、ゲームの主人公とかで名前を付ける時は自分の名前を付ける派なんだよね昔から。

 前作の王子様ルート攻略する時、変えようかなとも思ったけれど名前を考えるのが面倒だったからいつも通り自分の名前にしていたけど、こっちの世界で記憶が戻った時に凄まじく後悔しました。

 ちなみにプレイしている時に攻略対象の男の子たちが主人公呼ぶ時は、お前とか君とか貴女とか呼んでます。音声付きで。とってもイケメンボイスがそろっていますよ。上手く名前を呼ばせないような感じです。ゲームによくある手法だね。

 でもさぁ、複雑なんてものじゃないよこれ。苦手なヒロインの名前が自分の名前なんだよ。自分で名前入力しているっていうのもダメージ大きいね。自分の分身なんだぞって事なんだろうけれど、思考回路が果てしなく交わらないので有り難くない。

 続編でコンバートしてゲーム始めた時に変えようとしましたよ。でもコンバートすると強制で主人公の名前も引き継がれるなんて思わないじゃん。絶望したね。

 でもまあ、アリスという名前は私の世代じゃそんなにいないけど、ゲームとか漫画とかそういうのじゃ可愛い女の子の名前だったりするからね。自分で名前付けた事実は変わらないけど、ゲームでよくある名前だとそう思うことにしている。

 さて、久々に王子とヒロインの名前を聞いたせいで意識が逸れていたけれど、なんだか王様と王子が言い合っています。

 王子としては、ヒロインを婚約者として認めてほしいんだろうけれど、王様としては認められないだろうね。

 王子と結婚となるとヒロインが次期王妃になるという事だけど、王制やら貴族の階級やらに異を唱え、勉強もろくにしない人が王妃はマズい。私が渡した教本で学んでくれていればいいんだけど、まあ見てないだろうね。

 ゲームでのここの場面の流れとしては、王子はヒロインの素晴らしさを語るけれど王様に伝わらない、というヒロインの視点から見ればもどかしい状況になっている。

 だかしかし私の視点で言えば、え?王子正気?その子の何が素晴らしいの?顔?顔か?顔だね顔!って感じやね。恋は盲目を地で行ってるわ。


 王子曰く、誰とでも物怖じせず会話をするのが素晴らしい。

 王子曰く、間違っていることを見逃さず、堂々と悪に対して立ち向かおうとする。

 王子曰く、慈悲深い微笑みが美しい。


 へー。

 階級なんて関係なく、相手の都合を考えずにズケズケと会話に入ってきては自分の事を語りだしたり、思い込みで間違っていると追及して謎持論を振りかざしてたり、あとはその美人な顔でとにかく困ったときは微笑んで誤魔化す……を綺麗に言えばそうなるねぇ。

 冷静になって王子。気が付いて。

 ヒロインの良い所と思わしき行動を語れば語るほど、王様と王妃様の顔が厳しくなってるよ。

 ゲームでのヒロイン視点では良い所として語られてるけど、周囲との温度差が酷い。

 製作者からすれば、分け隔てなく平等で恐ろしい事にも物怖じせず慈悲深いヒロイン推しなゲームなんだと思う。確かにね、プレイしている側だけで物語を見ればその通りに進む。正義感あふれる正しいヒロインかもしれない。

 でも現実になるとヒロインの行動は問題だらけなんだよねぇ。視点がヒロイン中心だからすべて素晴らしくなっちゃってるけれど、周りから見たら困ったちゃんなんだよ。

 ゲームからすれば、こっち側の視点なんてどうでもいいんだろうけれどもさぁ。迷惑を被るのはこっちなんだよ。その代表が私です。

 まあ、今となっては婚約破棄されてオタクパラダイスで良かったけどね。


 あ、王様が大きなため息をついた。

 確かこの後だ。


「もういい。分かった。……ルーファス、入ってきなさい」


 王様が王子の話を遮ると、後方にある扉に向かってそう言った。


 ルーファス。それは、王子兄の名前だ。

 ここで王子兄のルーファスが現れ、皆に紹介される。

 うん。一応ゲームの流れの通りだわ。

 王様に呼ばれ、王子兄が宰相に促されながら入ってきた。


「……ルーファス、といいマス」


 異国の服を纏い、愛想がいいとは言い難いが動作が綺麗な若干外国語訛りが入った口調の……


 このゲーム史上、最も超絶綺麗系美形の登場です。


 あーすでにヒロインの目が王子兄に釘付けです。ロックオンされた模様です。早いな。

 さーて、ルーファスの登場で、キラキラ乙女ゲームからミステリーサウンドノベルモドキへと変化していきますよー。


「初対面の者も多いだろう。ルーファスは幼い頃に母親と共に、母親の故郷の異国へ帰ったのだが、この度のアズールの件で心配して我が国へ来てくれた」

 王様という権力に逆らえなかっただけですよ……とは言えないけど、まあそう言っておけば王子兄の印象も悪くないだろうからね。最初はね。

 ルーファス自身は、母親とその結婚相手の義父を守るために仕方なくやってきたんだよね。王子兄ルートやったからこそ私は知っている。後半で周りが敵だらけの時、ヒロインに対して始めてその事実を語ったりするんだよね。

 それまでは愛想は悪いが、ここぞという時は力になってくれるツンデレっぽい態度を取っている。その態度もヒロインが惚れる一因になったりするけど、実際は、協力はしたくないけれど最低限は行動を起こさなければ故郷の両親に迷惑が掛かるから仕方なく、である。

 えーっと、この後はヒロインに対してルーファスがちょっとした悪態をつく。それで王子が突っかかるけど王様がそれを止めて、この顔合わせが終わるはず。


「王よ。聞いてもよろしいカナ?」

「どうした?」

 ん?

「アズールの婚約者がそこにイルのだが……アズールは婚約破棄したのでハなかったのでスか?」

 え?

Beatrice(ベアトリーチェ)ハ、アズールの婚約者ですよね」

 あれ?

 やけにベアトリーチェの発音が良いね!びっくりしたよ。

 じゃなくて!


 ストーリーの流れが違う。ここはヒロインに対して悪態をつくところ!

 そもそも私とは初対面。なんで私が元婚約者のベアトリーチェだって分かるの?ゲーム中でも終盤になって初めてお互いに対面するんですけど!

 



 


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