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 私の目の前にある二通の手紙。

 片方は王子、もう片方は王妃様からの手紙だ。

 つい先ほど両方とも自分で目を通しました。隣でジョセフィーヌが王子の手紙をガン見してたけど、今回は爪研ぎさせられないのよごめんね。てかジョセフィーヌって筆跡で誰か判別できちゃってる?王子より頭がいいんじゃね?

 さて、読んだ結果だけど、両方とも私に王宮に来てほしい、という内容でした。

 王子からの王宮に来いコールはどうでもいいんだよ。

 問題は、王妃様からの王宮に来いという内容だ。

 このお手紙ですが、王族からの正式なお手紙となっておりました。やだー王家の紋章入り封蝋とか超レアじゃんー!

 マジかよ。

「ベアトリーチェ様、いかがなさいますか?」

「行くしかないわねぇ。でも、私が行ったところでどうしようもないと思うのだけれど……ステラ、数日間滞在するかもしれないから、準備をお願いね」

 王妃様からの呼び出しには応えなければいけない。じゃないと私の実家に迷惑が掛かるイコールオタクライフ出来なくなる、である。ここで行かないって断るのは簡単だけど、実家のセレネディア家が王族からちょっかい出される可能性があり、そうなると今後のオタクパラダイスの崩壊の危機なのだ。

 私の楽園があるのも、セレネディア家がとてもえっらーい公爵家であるが故である。是非とも私が生きている間は権力を維持してもらいたい。

 それともう1つ、ちょっと気になることがあってね。

 もしこのままヒロインが兄エンドルートを突き進むと、私にとって最大級の問題にぶち当たるんですよ。


 ベアトリーチェが死ぬイベントが発生するんです。


 なんで私が死ぬんだよ。意味不明だよね。前作で婚約破棄で退場した悪役令嬢が続編で死ぬってどんだけ製作者は私の事嫌いなの。

 製作者に直接会うことが出来たなら文句ぐらい言ってもいいよね。あ、そうだ!丁度このゲームのソフトって円盤じゃないか!フリスビーみたいにして背後から投げてやろうか。私、川の石投げが結構得意なのよねー。跳ねる回数は男子よりも多かったよ。きっとその経験が生かせそうね。後頭部の毛髪覚悟しておけ。

 って言っても、元の世界にまた戻れるか分からないけどね。別に戻らなくても構わないけど、ここでずっと暮らすなら死ぬイベントを全力で回避しないとだよね。折角のオタクライフが期限付きになっちゃう。

 まずは、覚えているうちにゲーム内容をおさらいしておこう。

 今がゲームでのどの時点か確認出来た方がいいかもだしね。


 王子様エンドのデータをコンバートして始めたからか、王宮へヒロインが王子に招かれるところからゲームは始まる。

 王宮では学友たち……別名、死亡フラグ回避成功の攻略対象の男の子たちも勤め始めていて、みんなヒロインに声をかけてきましたよ。王子様とくっついて終わった前作は何だったんだろうねってくらいしょっぱなからアピールの嵐でした。

 ちなみに、前作で攻略しなかった男の子たちも再び攻略対象になってました。男の子たちにとっては前作でくっつかないのが正解ルートだね。心変わりされても死なないし。ホント前作いらなくない?

 まあ、そんな感じで王宮でもモテモテぶりを発揮しながらヒロインは王様と王妃様に挨拶をしに行くけど、王子との結婚は認められないと、話も聞いてもらえない状態だった。

 そりゃそうだ。正式に幼い頃から次期王妃となるべく育てていた婚約者の令嬢がいたのに、王子が好きになったってだけでその令嬢を捨ててヒロインを勝手に婚約者にしちゃったんだからねぇ。しかもこのヒロイン、絶対に王妃になるための勉強とかしないよ。平等とか慈愛とかなんとか、とにかく理想だけはひたすら高く、貴族とかの階級にやたら否定的だったからねぇ。

 そんなヒロインは、王様と王妃様ならきっと分かってくれる!と謎の自信で王宮に(勝手に)留まることを決め、王子もそれに賛同して客室で過ごす事になる。

 最初の方は聞き込みとかそんな感じで話が進んでいく。ヒロインは一応、王様たちは忙しいから気を使って空いている時間を狙って話し合いに行こうとするけど、王様たち相手にアポなしで突っ込んでいく時点で好感度だだ下がりだと思う。

 兄ルートを進むためには、ヒロインはひたすら『好きな人と一緒になる素晴らしさ』と『王族とか貴族とかの階級のバカらしさ』の主張をすることになるのだが、階級世界の王宮内でこれを貫くヒロインはある意味すげーと思った。自ら敵を増やしていくスタイルだけど本人無自覚って怖いね。

 そしてそういう階級の恩恵の顕現である王子やその他の攻略対象者たちは皆ヒロインの味方である。お前ら好きな子に自分の地位を否定されてんぞー。それでいいのかー。

 そして、このヒロイン糞だわ……となったかどうかはさておき、いい加減にしろと王様から王子が怒られ、そして「お前には兄がいる。ちょうど今王宮に帰ってきているところだ。もしその子と結婚するつもりなら考えがある」とここで王子に兄がいることが分かるのだ。

 ……多分、今の時点ではこの辺りまで進んでいるのかな?

 うーん……ここまでゲーム内容を振り返ってみたけれど、ヒロインは王子兄が出てくるまでは熱心に王子様とのことを認められてもらおうとしてるんだよね。いろんな人に話を聞いたり自分の思いを熱弁したりしてるし。

 このまま王子への気持ちを貫いてくれたら良かったのにね。説得力皆無だよ。

 そして、ヒロインが王子兄を好きになったせいで色々とおかしな方向に話が進む。

 この後、兄ルートに本格的に突入すると王子暗殺のイベント発生。

 犯人探しが始まって、王子兄が犯人と疑われまくるけどヒロインだけが信じる展開が続き、王宮を巻き込んだ大事に発展。周りが全部敵状態になった王子兄をやっぱりヒロインだけが信じていて、なんだかんだあり2人で王宮を脱出。

 逃げる当てがないはずが、何故かヒロインが「ベアトリーチェの元へ行きましょう!」と私が軟禁されているここへ来る。

 そう、あいつら私の所に逃げてくるんだよ。

 しかもいつの間にか手紙のやり取りで交流をしていることになっていて、ヒロインが「信用できる親友なの」とか寝言をほざいていたが、ゲームの中でベアトリーチェも「親友だと思っているわ」とかシナリオに言わされてんだよ。一体どういった奇跡が起きれば、婚約者を奪った挙句遠くの地に軟禁させられた原因の相手を親友だと思えるんですかね?シナリオライターに問い詰めたいところですね。きっと私が思いもつかないような納得できる理由があるんでしょうね。矛盾のない回答を求めます。

 で、シナリオ上そうなっているのでベアトリーチェは2人を匿うけれど追手が来て見つかります。

 ここですよここ。

 ベアトリーチェは、ヒロインを庇って攻撃を受けて死ぬんです。

 そう、私の死因はヒロインを庇ったことによる大怪我による失血死。

 でもまだここでは死んでないんだよ。ベアトリーチェが怪我をしたことで油断した敵を王子兄が不意を突いて気絶させ、大怪我を追いながらも館にある隠し通路に案内し、そこでベアトリーチェが最後の力を振り絞って使用人たちにヒロインと王子兄の事を頼んで息絶える……

 これ、乙女ゲームだよね……?

 私すごい壮絶人生じゃね?

 しかもね、ベアトリーチェの遺言で任されたからと、使用人たちはこの2人をセレネディア家に連れて行くんだよ。ベアトリーチェの最期の言葉を聞いたベアトリーチェの両親は、セレネディア家は2人を守ると誓うんだよ。

 王家に次ぐ権力があるセレネディア家がバックに付いたヒロインと王子兄は、堂々と王宮に戻ってなんだかんだと真犯人を見つけて、王様から次期王に王子兄が指名されて大体円。

 最後に王子兄がヒロインに告白して終わる。


 初めと終わりだけ乙女ゲームで、途中から終盤にかけて違うゲームになってるよねこれ。

 

 とにかくだ。これが兄ルートのあらすじだ。

 私の死亡フラグを回避するには……ん?

 あれ?今気が付いたけど、これ、私は死ななくない?

 だって別にヒロインとはあれから交流どころか文通なんてしてないし。王子からの一方的な、要約すると下僕になれレターは来てたけど、兄が帰ってきたことによりそれもなくなった。

 王妃様に呼び出されたから私はこれから王宮に行くけど、ヒロインと交流する気なんてナッシングである。迷惑を被るのが分かりきっているので親友どころか友人にさえなりたくはない。

 仮に、逃げ場としてこの館を提供したとしても、使用人たちは婚約破棄の原因のヒロインに殺意MAXである。匿うどころか熨斗付けて追手に引き渡しそうだ。

 もしかして、すでに死亡フラグ回避成功?

 いやいや、まだ気を抜けないよ。一度元の世界に戻れたと思ったら、またこっちの世界に来ていたという前科があるじゃん。

 回避したと思いきや、違う方向からフラグがやってくる可能性がある。

 

 だって、今の時点でゲームとは違う展開になってきてるからね。


 ゲームでは、ベアトリーチェは少なくとも兄ルートでは王宮には来ていない。

 ヒロインがベアトリーチェに会うのはここだ。それまでは手紙のやり取りでしか交流していない。

 王宮にいるはずのないベアトリーチェがこれから現れる。

 しかも、王妃様からの呼び出しだ。王宮内を自由に歩き回れる許可証まで同封されていた。

 元婚約者が堂々と王宮を歩き回るのだ。常識的に考えて、王子が別の子に惚れたから婚約を破棄したなんてことを認める人は王宮内には殆どいないと思うから、王子が独断で決めた婚約者モドキのヒロインは、正式な婚約者だった私が近くにいることで、更に肩身が狭い思いをするかもしれない。

 王族の婚姻は、惚れた腫れたっていう理由で簡単に決められるもんじゃないからねぇ。乙女ゲームだから、王子が惚れた相手が婚約者って事になるのかね。だったら初めから婚約者なんてつくらなくないかね。後々面倒が起きるって分かりきっているのにね。惚れた相手が出来たら婚約者じゃなくて妾にするって方が現実的だよね。

 そんな訳で、私が王宮にいることで、きっとゲームの展開とは違った流れになるのだと思う。


 が、しかし。


 残念ながら、正義感あふれるわけでもない私がベアトリーチェなので、王妃様の要件をさっさと聞いて、さくっと当たり障りなくその要件を済ませ、ヒロインと王子との接触は最低限に済ませてオタクライフへ帰還予定だ。

 王子が暗殺されない様に動くとか、王子兄がいることで起こる混乱だとか、そんな面倒な事に首を突っ込むわけないじゃん。

 そういうのは若い子がするべきでしょ。

 私はもうご隠居の身なのよねぇ。

 

 それじゃあ、そろそろ王宮へ向かいますか。


 あ、ジョセフィーヌも連れて行こうっと。



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