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後輩ちゃんから(煌めく笑顔に負けて)借りることになってしまった『王宮学園のラプソディー』の続編の『王宮の輪舞曲』。
なんと!前作で誰かとくっついたクリアデータをコンバートすることにより、更にストーリーが増えるお得仕様となってます!
主に増える内容ですが、
前作でくっついた相手以外のルートを進んでいくと、前作でくっついた相手が死にます。
おい誰だよこんなストーリー入れたやつ。
王子が死んだ時点で二度見したからね私。
凄く悲壮感あふれる壮大な曲が流れ、ヒロインの嘆きの演出が続く中、あれ、これってもしや……と嫌な予感がした。
悲しい演出画面を横目に、スマホで『前作の攻略対象達のクリアデータで始めた場合、今作で違う相手を攻略対象として進めたらどうなるか』を、とりあえず全員ざっと調べてみました。
そしたら、見事に全員死んでました。
そうだよね。相手が死ねば乗りかえるとか浮気とかにならないもんね。
愛する人を失い悲しみのどん底だったヒロインは、周囲の支えや親身になって慰めてくれる人と親密になり、深い悲しみを乗り越えてより強い愛に目覚めました……?
なんだこのヒロインに都合のいい展開は!
ヒロインの気持ちが移ったからって何も死なすことないでしょ。ヒロインを取り合って競い合うぐらいさせてあげなさいって。死んで退場は酷くね?
どうせなら昼ドラ並みにドロドロになっちゃえばいいんだよ。その方が死なすよりましだと思うんだけど、乙女ゲームで昼ドラドロドロ展開はダメなのかね。
まあでもあれだよね、前作でくっついた相手を振って新しい相手と結ばれるヒロインって、どう考えても印象悪い。相手が死んで、絶望しているヒロインを救った新たな相手に惚れる……ていう展開なら、振るよりは印象は悪くはないだろうけどもさ。
単純にヒロインを悪にしたくない製作者の陰謀を感じますねぇ。
ちなみに王子の死因は暗殺。いかにも王子っぽい死因だ。物騒だね。違うジャンルのゲームになってないかい?
他の攻略対象者たちの死因も色々だった。そっちの人たちのルートはやってないから何とも言えないけど、攻略サイトで見たら病死とか事故死とかあった気がする。
しかし、ヒロインの気持ちが移るとシナリオに殺されるって怖いな。私だったらこのゲームの相手役はやりたくない。ヒロイン次第で生死が決まるなんて理不尽だ。
ベアトリーチェの方が全然マシだね。婚約解消されて軟禁されるだけだし。
むしろオタクパラダイスで良い事だらけだったけどね!
だがしかし、この続編でベアトリーチェも死ぬんだよねぇ。自分が死ぬ展開を見せつけられるって物凄く微妙だったわ。
でもまあ、私はもうゲームの世界に居ないし、関係ないよね。
転生(?)した異世界がゲームの世界だったという事を、私は失念していた。
ゲームとは、フラグが立つことでストーリーが進むのである。
攻略サイト頼りになんとか後輩ちゃんから借りた続編をクリアした後、ゲームの展開にツッコミを入れつつ、よしもうクリアしたし任務完了だと眠気に負けてそのままベッドにダイブしました。
そしたら、まあ大変!
「にゃ~ん」
「……ジョセフィーヌ?」
「にゃーん!」
「肉球気持ちいい……じゃない!」
毎朝、愛猫のジョセフィーヌが可愛らしい肉球を押し付ける様に私の顔をぷにぷにして起こしてくれる。朝から至福の時間だがそれは今は置いといて。
また私、ベアトリーチェになってるんですけど。
おい、おばさんはいらないって返品されたんじゃなかったのかい。なんでまたベアトリーチェに戻ってるのよ。
関係ないよねって安心して寝たらこれだよ。一度転生したら気を抜いちゃいけないね。フラグはいつでもやってくる。それっぽい事を考えたら後々フラグが回収しに来るよ。質の悪い取り立て屋みたいでやーねぇ。
……いやでも待てよまさか、こっちこそが夢?
「ねえ、ジョセフィーヌ」
「にゃ?」
「お願いがあるんだけど。その爪で、ちょっとこの手の甲辺りで良いからひっかいてくれない?」
「にゃ?!」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから。ね?」
そう言いながらジョセフィーヌの目の前に手の甲を差し出したら、ジョセフィーヌは顔を背け、ベッドから降りてしまった。
「ダメ?」
「にゃ」
否定するように小さく鳴いたジョセフィーヌは、困ったように耳がへにょんと下がってしまった。
相変わらず人の言葉が分かるみたいで賢い子だよねっていうか何その耳めちゃくちゃ可愛いなでなでしたい可愛い可愛いそのお耳へにょんってしてるへにょんってマジ可愛いあー可愛い!!
「ベアトリーチェ様おはようございます。お知らせしたいことが……?どうなさったんですか?」
「あら、おはようステラ。何かしら?」
「ジョセフィーヌがベアトリーチェ様から離れているなんて、何かあったのですか?」
「にゃぁ……」
「ジョセフィーヌが困ってるみたいに見えますが……」
その言い方だといつも私とジョセフィーヌがくっついてるみたいじゃん。
まあその通りなんだけどね。ていうかジョセフィーヌ表情豊か過ぎない?困り顔も可愛い。この世界にカメラってないのかな?スマホとか持って来たいよね。ジョセフィーヌ専用フォルダで容量埋まる自信がある。
「夢、だと思ったので、ちょっとひっかいてってお願いしたのよ。夢かどうか確かめたかったの。そしたら嫌がられてしまって」
「そんな事仰らないでください!」
ん?なんだなんだ?
ステラが涙目になってる。いったい今の私の言葉のどこに泣かせる所があった?
「ベアトリーチェ様は幼少の頃より国の為に自らを厳しく律し、勉学に励んでいらしたのは私達皆知っています!それをあの王子の私的理由ですべて失うことになったのは、私達もとても悔しい思いをしているんです!」
「……ステラ」
今そんな話してないよー。
「本当は読書が好きで、猫好きだなんて最近知りました。ずっとお側に仕えてきてベアトリーチェ様の事はなんでも知っていると思っていたのですが……私達にも好きな事を悟られまいと振舞っていたんですね。王子の婚約者としての役目を何よりも優先なされて、さぞお辛かったでしょう」
「大袈裟ねぇ」
「私たちは皆ベアトリーチェ様の味方でございます!好きな事を思う存分なさっても文句を言う人などいません。いいえ、言わせません!全力でお守りします!お好きな事が出来るこの生活は夢なんかではございませんから、どうか、ご自由にお過ごしくださいませ」
「そうね。分かったわ。夢ではないということね」
とりあえず分かったって言っとこう。ステラの私への忠誠度が何故か上がっている気がするけど、とりあえず私のオタクライフを邪魔する人はここにはいないって事ね!
ジョセフィーヌも安心したのか、ベッドにぴょこんと飛び乗ってくると、私に体をぴったりくっつけて落ち着いたように座った。
この子、人の話分かりすぎるのよねぇ。この世界の猫ってみんなこんな感じなのかな。ベアトリーチェは令嬢として日々勉強や躾やらで厳しく過ごしてきたから、こういう動物の事って、一般的な知識ぐらいで殆ど知らないんだよね。
「それはそうとステラ、私に何か用があったんじゃないかしら?」
「そうでしたわ。実は手紙が来ておりまして」
ジョセフィーヌが爪のスタンバイを始めました。
「王妃様からお手紙が」
「え?」
王妃様?なんで?もしかして教材を勝手にヒロインにあげちゃったから、それに関しての注意とか?
「それと、王子からも」
あーいつもの手紙……って薄!いつもより薄いぞ。
「王子からの手紙、様子がおかしいわね。ステラ、中身を読んでもらっていいかしら」
「ええ。…………」
爪研ぎ出来なかったジョセフィーヌがガッカリしている横でステラが手紙を広げると、声に出して読む前に驚いたように口元に手を当てた。
「ステラ?何が書かれているの?」
「あ、いえ。その、王子の兄が帰っていらしたそうで、どうしてもベアトリーチェ様の力をお借りしたいから、これまでの事はお互い水に流し、どうか王宮に来てください、とのことですが」
「は?」
「王子にご兄弟って、いらっしゃいましたっけ?」
困惑の表情を浮かべるステラをよそに、私は内心焦り始めた。
やべぇ、兄が出てきたってことは続編の『王宮の輪舞曲』が始まった?!
まさか、私が唯一プレイした兄ルート突入……?
いやいや、まだ兄が出てきた段階だから、ヒロインが兄を気に入らなきゃ……って、無理だろうなぁ。あのヒロインの事だから、兄と出会ったらそっちに行きそう。
兄ルートだとヒロインは兄に一目惚れしてるんだよ。かなり後半で、今思えば一目惚れだったとかそういう回想シーン出てくるんだよ。
前作で王子様とくっついたエンドのデータをコンバートしたシナリオなのに、兄に一目惚れってどうなってるんだろうね。
なんか、ものすごく面倒なことになりそう。




