8:初戦闘
道の先、20メートルほどのところに現れたのは、30cmほどの茶色いウサギだった。
しかし、明らかに普通でない証として、額から体長と同じくらいはありそうな角をはやしている。
来る前にギルドの情報掲示板で見かけたそれは―――
「確か、ホーンラビット、だったっけ。」
ファーリシア近辺でよく発生する魔物で、小さい体により足元から角で突き上げられて亡くなる人もいるとのこと。ただ、身体能力は低く特別な力も無い上、魔物となったせいでウサギ特有の臆病さも無くしてしまい逃げることもあまりしない、更には行動もほとんどまっすぐに突っ込んでくるだけのため、一番雑魚の初心者向けとして案内されていた。
いわば某国民的RPGにおけるスライムといったところか。畑を荒らすことから常設クエストが出ているが、正直報酬は無いに等しいレベルだ。
とはいえ、Fランクなら20匹も狩ればEランクに上がれるため、今は積極的に狩っているプレイヤーも多いことだろう。
こちらに気付く様子のないホーンラビットを見ながら周囲を確認する。人も魔物も他にはいないことを確認してから、魔術を構築していく。
魔術の術式構築は本来かなり手間がかかる。何せプログラムを頭の中で一から十まで全部構築しなきゃいけないうえ、使用している文字や言語は普段使い慣れているものではない、このゲーム専用の物だからだ。使用選択するだけでオートで構築してくれる魔法とはやはり使いやすさが違う。魔法ならステータス次第では構築しながらでも近接戦闘が容易にできるのに対し、魔術ではよほど慣れないと構築中に動くことさえ困難だろう。
とはいえ、文字や言語はスキルのサポートもあるし、術式にしたってある程度定型文がある。そもそもどちらも学校で勉強している英語や数学、コンピュータープログラミングなんかとやり方はほとんど同じだし、今は高いステータスによるサポートもある。そのうえで簡単かつ単純な構成の術を選んで構築するなら―――
「ファイアバレット!」
構築・起動に1秒もあれば十分だ。
そうして発射された炎の弾丸は、一直線にホーンラビットに向かっていき、気づく間もなく貫いて燃やし尽くしたのだった。…あれ?
「…ちょっと威力高すぎた?」
先ほどの構築を思い返すも、一番最初に取得できる魔法アーツのバレットⅠと全く同じだ。であれば、ホーンラビットに対してはそれですらオーバーキルということだろう。
「さすが最弱。これならもう少し威力落として消費MP下げてもよさそうかな?」
そんなことを考えながら、燃え残った角に剥ぎ取り用のナイフを触れさせる。
このナイフは初期装備で、戦闘には使えないが魔物の死骸や採取ポイントに触れさせることでアイテムを回収できる剥ぎ取り専用の装備だ。
入手したアイテムはホーンラビットの角が1本だけ。討伐証明部位であるため、ギルドに持ち込めば常設クエストを達成できるアイテムだ。鑑定してみると、武器の素材としては一応使えないこともないものの、性能はかなり低いそうだ。
残念ながら1匹倒した程度じゃレベルアップはなかったが、それとは別のポップアップが。
【条件を満たしたため、スキル『魔術』がアンロックされました。】
だがしかしSPが足りない!
教会の書庫での読書により、職業レベルは4まで、言語学と解読は14まで上がったため、SPは13になっていたのだ。
が、魔導言語の必要SPがちょうど10だったので、何とかおぼえられたものの今のSPは3。
魔術の必要SPは10なので、しばらく覚えられそうにない。
魔術のスキルは術式構築をサポートするものなのでなくても使用可能だが、できればほしいところだ。
幸い種族、職業ともに10レベルまでは成長しやすいため、
「とりあえずレベリングかぁ。」
ウサギ狩りに励むことにしたのであった。