6:冒険者ギルド
ログイン後、読みかけだった本の続きを読む。
予想していたよりも早くに読み終わり、時計を見てみると再開して1時間ほどしかたっていない。
そして読み終えたことでアンロックされたスキルを取得し、その効果を確かめると、本を戻して書庫を後にした。
礼拝堂に戻るとゼル神父がいた。ゲーム内時間は午前4時、ちょっと驚きながらも話しかけた。
「おはようございます、ゼル神父。随分早いですね、こんな時間から起きているんですか?」
「おや、ハルさん。おはようございます。いえ、偶然目が覚めましてね。」
「偶然、ですか。」
「偶然、です。」
…これ以上は突っ込まないほうがよさそうだ。書庫の鍵を神父に返却する。
「書庫の本、読ませていただいてありがとうございました。これからちょっと外を見て回ってきたいと思います。」
「おお、そうですか。あと2時間もすると日が出てきますので、それまでに日が当たらないところに行かれたほうがよろしいでしょう。それと、人目につかないところをお探しなら、町の北門を出てすぐのわき道を入った先がいいでしょう。あのあたりはあまり行く人もいませんし、魔物の数も少ない。街から離れているうえに、岩が多いので多少物音がしてもそうそう見つからないでしょうから。」
「…えっ?」
おそらく見識スキルで私が新しく覚えたスキルを見たのだろうが、いったいこの人はどれだけ見えているのだろうか。
「…あ、ありがとうございます。」
「ええ。それと、また書庫の本を読みたいときは、私に言っていただければ鍵をお渡ししますので。それでは、お気をつけていってらっしゃい。」
その言葉に送られて教会を出る。
さて、気を取り直して、目指すは北の門。…の前に、冒険者ギルドに寄ることにした。
チュートリアルなのだろう、【冒険者ギルドに行こう】というポップアップがずっと視界の隅に表示されているのだ。
ファーリシアの町の冒険者ギルドは、広場の一角、中央のオブジェを挟んで教会の反対側にある。
建築様式こそ周囲の建物と変わりないが、その大きさは近くにある大きな商店と比べてもなお倍はありそうなくらいだ。
中に入ってみると、かなりの人が入れそうなスペースと依頼書が張られているのであろう掲示板、そして入り口正面にあるカウンターが目に入った。カウンターには受付と納品の看板が付けられていて、それぞれギルドの職員だろう人たちが担当している前に数人の冒険者が並んでいる。
ポップアップは【冒険者登録をしよう】に変わっており、とりあえず受付カウンターに並ぶと、すぐに順番が回ってきた。
「冒険者ギルドへようこそ。どのようなご用件でしょうか?」
「あの、冒険者登録をお願いしたいのですが。」
「冒険者登録ですね。では、まず冒険者ギルドについて説明させて頂きます。」
そういって説明してくれた受付のお姉さんによると、冒険者ギルドは、依頼を受けてクエストとして冒険者に斡旋する組織で、基本的にすべての町に必ず一つはあるそうだ。
通常冒険者になるには登録料として100Gかかるが、異邦人については無料になる代わりに全員が冒険者登録をする必要があるとのこと。
冒険者になると街の出入りに税がかからなくなるなどの特典があるほか、冒険者ギルドの施設が使えるようになる。施設は倉庫や訓練所などがあり、倉庫では所持金やアイテムを預けることができる。訓練所では訓練用の武器を借りて練習したり、戦闘訓練やアイテムやモンスターについての講習を受けることもできるそうだ。
ギルドに所属する冒険者はF、E、D、C、B、A、Sの6段階にランク分けされている。このランクはギルドからの信用度であり、受けたクエストの達成回数、達成内容及び達成率によって上下するとのこと。
なお長期間活動実績がないとランクダウンや冒険者資格のはく奪などもあるそうだが、異邦人についてはランクダウンはあってもはく奪はないとのこと。
ランクが上がると受けることができるクエストが増えるほか、ダンジョンなどへの入場が許可されるなどの特典もあるそうだ。
「それと、これは言語スキルを所持されている方にのみお知らせしているんですが、冒険者ギルドの資料庫には魔物やアイテムに関する情報が集められています。ランクが上がると強力な魔物や貴重なアイテムについての情報も見れるようになりますよ。」
「!わかるんですか?」
「はい。資料の文字をしっかりと目で追っておられたので。」
能力がわかるようなスキルは持っていないが、細かな所作から見破られたらしい。にこやかに笑いながら説明を続けていく。
クエストは一般、常設、指名、緊急の4種類に分けられている。
一般は発注者からの依頼内容を達成するもので、自分の冒険者ランクと同じランク以下のクエストまでしか受けることができず、また一度に複数のクエストを受けることもできない。内容も街中でのお手伝いから、採取や討伐、護衛など様々で、難易度もピンからキリまである。ギルドのクエスト用掲示板に張られているので、それを持って受付カウンターで手続きをすれば受けられるが、クエストによっては契約金が必要になるものもあるとのこと。クエストの放棄には違約金が必要なので注意しないといけない。
また冒険者が発注することもできるそうだが、依頼料の2割はギルドの取り分となり、残りの8割が報酬額となるので、報酬額が適正金額を下回らないように依頼量を設定するよう注意する必要があるとのこと。
常設はギルドが常時発注しているクエスト、薬草類の採取や一部の魔物の討伐などでランク制限はなし、受注する必要はなくアイテムを納品することで達成となることからクエストのついでにやることができるので、新人からベテランまで誰もがこなすそうだ。こちらも詳細はクエスト掲示板に張り出されているそうだ。
指名は依頼者により受注できる冒険者が決められているクエストで、基本的にはB以上の高ランク冒険者でないと指名されることはないが、ランクアップの試験のためにギルドから発注することがある。それ以外は一般と同じだそうだ。
緊急はギルドが火急の事態であると判断したときに対象となる冒険者に対し発注され、すべてのクエストに優先するため対象となる冒険者は断ることができない。基本的に緊急クエストが発生することはほとんどないが、発生した場合は街や国家の存亡の危機レベルの大事なのだそうだ。依頼はギルドカードを通じて冒険者に知らされるとのこと。
クエストの報告は納品カウンターで行っており、ここでは素材の買取も行っているとのこと。買取価格はギルドが定めた定価の7割となってしまうが、買取に制限はない。個人で売買することもできるが、買い手がつくかといった問題から価格交渉なども自分で行わなければいけないため、手軽に売れるギルドに持ってくる人も多いらしい。ちなみに買い取った素材はギルド内の売店や提携している商会などで販売しているそうだ。
「それでは次に登録を行いますので、こちらの水晶に手を当ててください。」
そういってサッカーボールくらいの大きさの水晶球を出してきた。それに触れると、少し光った後台座に置かれているカードに光が流れていった。それが終わるとお姉さんにカードを渡される。
「こちらがギルドカードになります。紛失されますと再発行手数料として10,000Gかかりますのでご注意ください。」
ギルドカードは銀の金属板に丸い石がはめ込まれたものだった。石の部分に触れるとカードに『Name:ハル』と表示される。石に触れて操作することで情報を表示できるようで、ランクや受注状況などが次々に表示される。
視界の隅にヘルプ情報がポップアップしたので見てみると、ギルドカードで見れる情報はステータスウインドウでも見れるそうだ。
ギルドカードをしまおうとしたところ、通常のアイテムを入れるインベントリではなく、貴重品インベントリというシステム的に重要なアイテムしか入れることのできないインベントリに収まった。
「ギルドカードはクエストの受注や報告時、倉庫や訓練所等施設の利用時にもご提示いただきます。施設の利用にはこちら受付カウンターでおっしゃっていただければご案内させていただきます。説明は以上となりますが、何かご質問はございますか?」
「えっと、訓練所なんですけど、誰にも見られないように使用することってできますか?」
そう、新スキルの試し打ちだが、誰にも見られないのなら訓練所が使える、と思ったのだが、
「申し訳ありません、訓練所は安全のため内部の様子が確認できるようになっております。」
駄目だった。やはり神父から教えてもらった場所に行くのがいいだろう。
「ならいいです。」
「では、これで冒険者ギルドへの登録及び説明を終了します。お疲れ様でした。これからよろしくお願いしますね。」
こうして登録を終えた後、ギルドの掲示板を確認しに行く。
情報掲示板には周辺の魔物の生息状況や採取可能なアイテムの簡単な情報が掲載されている。
クエスト掲示板は、プレイヤーが持って行ったためか登録したばかりのFランクにできるクエストはほとんど残っておらず、食堂の皿洗いや荷物の運搬といった街中での作業か、常設クエストくらいしか残っていない。
しょうがないのでクエストは諦め、一応売店を確認してみる。とはいえ、こちらもあるのは薬草などの素材と回復用のポーションくらいだ。回復薬などの薬品は種族特性により使えないので、こちらも不要。
資料庫を見に行ってもいいが、まだ夜明け前なので外を出歩いてもデメリットはない。
店が開いていないので防具などの購入ができないのが不安だが、町の外に行ってみることにした。